058話の裏話
「ルミはモテるね~」
サーニャとリラ。
本村では、お姉さん系のサーニャと、可愛い系のリラで、それぞれ人気のある女の子。どちらも年は十六歳。
村の子供たちも、お姉ちゃん的な立ち位置に居る彼女たちを慕うものが多い。
ちなみに、リラは既に婚約者がいるが、サーニャはまだフリーだ。
そんな二人は、一人の少女を拉致…もとい、連れ出して話を聞いていた。
「んだよ、二人して」
「ねえ、ルミってさ、男の子に興味無いの?」
「そうそう、いっつもペイストリー様や馬鹿マルクと一緒にいるじゃない。やっぱりどっちかが好きなんじゃないの?」
娯楽の乏しい田舎では、他人の噂話というのは格好の娯楽である。
その中でも、十代の女の子にとって興味のある噂話というのは、他人の悪口か恋話と相場は決まっている。
ただし、毎度毎度変わり映えの無い噂話と言うのも飽きがくる。
そこで彼女達も、新しいネタを求めているわけだが、その中でも最も今話題なのが「ルミとマルクの仲」というネタである。
先日、ルミの家で家族会議があった。
その議題は、跡取りであるラミトの嫁さがしであったが、派生してルミの旦那探しという話題も取り上げられた。
当人二人は否定したものの、ルミとマルクをくっ付けてはどうかという話も出たらしい。
この話を聞いた女性陣が、噂話として広めないはずが無い。
真相やいかに。とばかりに、お姉さん役の二人が、突撃レポートをかましたわけだ。
「別に、ペイスもマルクも友達だし。ってか、ペイスにゃ婚約者も居るしよ」
「じゃあマルクの方はどうなのよ」
「う~ん、あいつ馬鹿だしな~嫌いじゃねえけど、好きとかってのとは違うしよ~」
「煮え切らないわね。結局、ルミの好きなタイプってどんなのよ」
「好きなタイプねえ……爺ちゃんみたいな感じか?」
ルミにとって、理想の男性像というのは、祖父のような人物だ。
強く、優しく、頼もしく、それでいてお茶目なところがあり、ノリが良い。人生経験豊富な年上の人が魅せる、包容力こそ、ルミが男性に求めているものである。自覚は無いようだが。
ペイスはともかく、マルクは、頼もしさと言う部分で疑問符が付く。
「バラモンドの爺さんねえ」
モルテールン領の開発最初期から、カセロールに付き従い、支えてきたバラモンド老。彼は、モルテールン領の生き字引ともいえる長老だ。
どんなやんちゃな若者だって、彼にかかれば子ども扱い。おしめを濡らし、おねしょをしていた時分を知られているだけに、大抵の人間は老に頭が上がらないのだ。
モルテールン領で、領主一族に対し、面と向かって叱りつけられる、数少ない人物である。お爺ちゃん子のルミが、尊敬するというのも分からなくはない。
「そういえば、決闘大会でも、凄かったよね」
「へへ、そうだろ。爺ちゃんは凄えんだ」
自慢げなルミ。無い胸を張って、ことのほか嬉しそうにしている。
身内が褒められれば、やっぱり悪い気はしない。
「大会っていえばさ」
「ん?」
「大会の後、ルミはペイストリー様に声かけられていたじゃない」
「まあな」
「どんな話したの?」
会話があちこちに飛び跳ねるのは、この年頃の少女のおしゃべりではよくある事だ。
爺様の話から、何故かペイスの話になった。
「パンプキンパイを食わせてもらった」
「良いな~。でもそれだけ?」
「何か他にも聞かれたな。えっと……『ルミには好きな人は居ないのですか?』とか何とか」
「え? それって……きゃぁ~もしかして、ペイストリー様はルミの事が気になってるの?!」
「嘘、リコリス様が居るのに? うわぁ、三角関係?!」
「んなわけねえだろ!!」
決闘大会の後。
こうして、何故かルミとペイスの仲が噂されることになる。
後日、ペイストリーが、リコリスのご機嫌を取る羽目になるのだった。




