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 自分の目指す場所、目指す意味をようやく掴んだ睦月は、少しずつその目標へと進んでいく毎日を送った。友人や妹の支えもあって、立ち止まることはあっても、決して後ろは振り返らなかった。


 彼女を思い返す日もあった。だが、それでも同様に、決して振り返ることはしなかった。


 支えてくれる友人と妹、そして、彼女に報いるために、睦月は前だけを見て歩き続けた。


 そうやって過ごしていくうちに、瞬く間に、季節は流れていった。






 降り積もった雪が溶け、代わりに、桜色の絨毯が敷かれる春――


「いや~俺たち、また同じクラスだな! やっぱこれも運命なんかな?」

「なに言ってんのよ。この学校は二年生のクラスがそのまま三年生に上がるだけでしょ」


「うっわ。ホント、御節ってば冗談がわかんねえのな。もっとこう、三人同じクラスってとこ喜ばねえの?」


「喜ぶも何も、それは決定事項だったでしょ」


「この薄情者め! そんなに俺らと一緒のクラスが嫌なのかよ!」


「別にそんなことは言ってないでしょ。ただ、リアクションがオーバーすぎるって言ってるのよ」


「何だとぉ!」


「何よ!」


「でも、決められていたととはいえ、こうして三人また、同じクラスっていうのは嬉しいね」


「……そうだな」


「そうね。それは間違いないわ」


「それに、三人じゃないよ。今日から、四人さ。な、氷柱」


「うん! 私、この日が来るの、すごく楽しみにしてた!」


「今日から氷柱も、この学校の一員だものね。ここの高校、けっこう偏差値高いけど、入学できてよかったわね」


「へへ。兄ちゃんたちと同じ高校行きたかったですからね。必死に勉強しました」


「氷柱ちゃんと一緒に高校生活送れるなんて、本当に夢みたいだなぁ。よろしく頼むぜ、氷柱ちゃん」


「はい。よろしくお願いします、冬里先輩」


「っ!? つ、氷柱ちゃん。もう一回言ってもらえるかい?」


「冬里先輩」


「うぉぉぉぉお……! も、もう一回、いいかな?」


「冬里、先輩」


「うひょおおおおおおお! イイ! 素晴らしい! も、もういっか――ふごっ!」


「はい、そこまで。何で興奮してるんだよ、気持ち悪い。人の妹で欲求を満たそうとするのはよしてくれ」


「いや、だってよ! 後輩からこうして、先輩って言われるのって、こう、グッととこない?」


「冬里はサッカー部所属、しかも結構な有名プレイヤーなんだから、下級生にも人気あるじゃないか。先輩なんて、言われ慣れているだろう」


「いや、でもよ! 氷柱ちゃんだぜ? あの氷柱ちゃんだぜ? 試しにむっつんも先輩って呼ばれてみれば、俺の気持ちがわかるさ!」


「意味がわからない……。俺は兄だよ。兄ちゃんと呼ばれるだけで、十分すぎるよ。なんせ、俺だけの特権だからね」


「うおぉ……。のろけやがって……。羨ましいぜ……! とにかく! 氷柱ちゃん、一度むっつんを後輩風に呼んでみてくれ!」


「は~い。わかりました」


「何と呼ばれようと、兄ちゃんと呼ばれる俺が靡くわけが――」


「睦月先輩」


「――!? な、なんだこの衝動は……。よくわからない……。氷柱、もう一度呼んでくれる?」


「睦月せ~んぱい」


「なんだ、なんなんだこの気持ちは……。何かに目覚めそうな、そんな気分だ……。くっ、だけど俺は屈しないぞ! よし、もう一度呼んでみてくれ」

「睦月先輩!」


「べ、別に、な、なんとも思わない。思わないぞ……。も、もう一回……」


「思いっきり靡いてんじゃねえか!」


「どうしようもないバカどもね……」



 気温が上昇し、温暖化を嫌でも肌で感じる夏――


「睦月。さっき返却された模試の結果、見せて」


「はい、どうぞ」


「どれどれ――ふふふ……」


「ど、どうしたの。笑い方がすっごく怖いんだけど……」


「ううん。頑張ってるなぁ、って思って。結果、出てるわね」


「そこは素直に嬉しいよ。だけど志望校の判定結果はあまりよくないんだ」


「当たり前よ。半年程度勉強しただけで合格を期待できるくらいの判定をもらえるなんて、よっぽどの天才じゃなければあり得ないわ。しかも、人命、医療関係ならなおさらよ」


「それはそうなんだけどさ。やっぱ、もっと頑張んないといけないな」


「あんたは決して天才なんかじゃない。だけど、努力はできるやつよ。努力ができるということも立派な才能よ。誰もができるわけじゃないわ。そこには自信を持っていい。これまで通り、自分を信じて頑張りなさい。私も出来る限りのサポートはしてあげるから」


「うん。……御節、ありがとう」


「……何よ、いきなり」


「こうしてここまで結果を出せたのは、他でもない御節のおかげなんだ。本当に、感謝してもしきれないから」


「別に、感謝されるほどのことはしてないわ」


「そんなことないよ。御節にも御節の勉強があるのに、毎日放課後に指導してくれて。感謝の気持ちもあるけど、申し訳ない気持ちもいっぱいなんだ」

「あんたに教えるついでに、私も復習することができる。だから、決して意味のないことじゃないの。あんたが気にかける必要はないわ」


「それならいいんだけど。でも、本当にありがとう」


「――ッ! れ、礼なんて言っても、何も、出ないんだから……。ほ、本当に感謝してるんなら、その……」


「ん? 何?」


「わ、私をもっと、びっくりさせるくらいの結果を出しなさい! それが私に対する最大の報いよ!」


「うん。もちろん、そのつもりだよ」


「……バカ。バカ睦月」


「……それで、そこで落ち込んでいる冬里は結果、どうだったの?」


「いいか、むっつん。世の中には聞かないほうがいいことで溢れているんだぜ?」


「どれどれ、うわっ。相変わらずだね、冬里は。確かにこうして見ると、昔の俺から随分と成長できているような錯覚に陥るよ。あの日、俺を激励してくれた言葉の意味は、こういうことだったのか」


「うるせえええよ!」


「まさにバカ。バカ冬里ね」


「いいんだよ! 俺はスポーツ推薦を狙ってるんだからな!」


「でも、それも間違いなく一つの努力だろうからね。お互い頑張ろう」


「そうね。春にはこうして、また三人で笑っていられるといいわね」



 冬の到来を感じさせる秋。


「うっす、お二人さん。勉強のほうは捗ってるか?」


「あれ、冬里。まだいたんだ。てっきり帰ったのかと思ったよ」


「ふふん、まあな。それでそれで、もう陽が沈んできてしまっているわけだが、今日はお二人さんの熱々個別指導は終わりかい?」


「何が熱々よ。受験勉強に熱なんて上げてられないわ。むしろ頭が痛いわよ」


「お。御節がこのネタに恥じらいを見せなくなったな。成長したな」


「……当たり前でしょ。こんな姿勢を見せつけられたら、変わらずにはいられないわよ」


「はは、確かにな! そんで? むっつんの調子はどうなのよ?」


「正直、教えてきた私が一番驚いてるわ。日々目まぐるしく成長してるわよ。この間の模試もかなりいい線いってたもの」


「マジかよ。さすがむっつんだな。まるで主人公のようだぜ」


「主人公にしては軟弱なような気がするけどね。でも、これも御節のおかげだからね。それで冬里。どうしたんだい、こんな時間に。遅くまで残ってる俺が言うことじゃないけど、もう部活動もしてないんだし、学校に残る理由はあまりなかったんじゃないの?」


「まさにその通りだ。二人は勉強ばかりで俺の相手をしてくれないし、氷柱ちゃんは生徒会の仕事や文化祭の準備で忙しそうだし。冬里くん寂しいぜ。そこでだ! 第一回肝試し大会でもしようぜ!」


「……何言ってるか、ちょっとわからないんだけど」


「いや、十一月の六時付近って、夜にならなくても十分暗いだろ? そこで、暗くなった学校の中で肝試しでもしようぜ、って話だ!」


「なるほど……。だけど、随分と急だね。何の準備もされてない学校を歩いても、別に怖くないんじゃないかな」


「大丈夫だ。そこのところはぬかりない。クラス行事として、事前に御節とも計画済みだからな!」


「え? そうなの?」


「まぁね。企画はもちろんそこのバカ冬里からよ。意図は実に単純。受験勉強で疲れ切った心を、少しでもリフレッシュできれば、とのことよ」


「いや、確かに、言葉にしてしまえばすごく聞こえがいいけど、部活動を引退して、暇を持て余した冬里が遊びたいだけだろ?」


「そうとも言う!」


「呆れるくらいに清々しいね。でも、確かに面白そうではあるし、少しくらいの息抜きはしたいから、俺は別にいいよ。だけど、人数は? クラス行事なんだろう?」


「そこのところもぬかりはない! 六時半になれば、視聴覚室に全員集まるように伝えてある! しかも、全員ノリノリだった!」


「一応進学校だからか、三年生が参加できる学内行事は極端に減るから、みんなストレスが溜まってたんでしょうね」


「なるほどね。でも、大丈夫かな。こんな遅い時間までに生徒が残って、怪しまれない?」


「問題ないさ。今は文化祭の準備期間でもあるし、こんな時間まで生徒が残っていても何も言われやしないさ。文化祭準備期間なら、泊まりすらも許可するくらいの学校だからな。それに仮にばれても大丈夫だ! なんせ、俺の親父はここの学校の理事長だからな! なんとかなる!」


「まさか、ここに来て新たなキャラ設定を出してくるとは」


「設定じゃない! 事実だ!」


「でも、合点がいくわよ。こんなにバカしてるのに、まるでお咎めがないっていうのは、きっとバックに巨大な力がついてるのよ」


「確かに、すごく納得がいくね。よし、ここはこの新たなキャラ設定を飲み込むとしよう」


「なんか、すげえ失礼なことを言われいてるような気がするが、まあいい。そろそろ時間だし、キリがいいところで切り上げて、視聴覚室に来てくれ。まずは全員で、怖いビデオを見るのさ。そんでもって、恐怖を頭に残しておいて肝試しをするのさ。きっと面白いぞ~。んじゃ、俺はセッティングとかの準備があるから、先に行っとくぜ」


「……行っちゃった。すごく浮き浮きしてたし、楽しみなんだろうな」


「そうね。何よりも愉悦を優先するくらいだからね。でも、意味もなくこんなことを企画するやつじゃないわ。睦月。さっきはクラスメートの心をリフレッシュするためって言ったけど、あいつの本心は、あんたに楽しんでもらうためよ」


「俺の、ため?」


「そう。受験も近づいてきて、あまり余裕がなさそうなあんたのために、あいつはクラスメートに掛け合ったの。そんなこと、クラスメートには言ってないけどね。あんたの気が少しでも楽になればって、ね。もちろん、クラスメートにも楽しんでもらうつもりだけど、本意はあんたのためよ。だから、今日まであんただけにこの企画は伝えられてなかったのよ」


「……そっか。俺は本当に、いい友達を持ったな。それじゃ、その友達に報いるためにも、今日はうんと楽しまないとな!」


「そうね。今日だけはいろんなことを忘れて楽しみましょう。なんたって、私たちは高校生なんだからね。それじゃ、行きましょうか」





 巡り巡る季節を、大事な人たちと共に過ごした。一日は、本当にあっという間だった。だが、その毎日が色あせていた。決して無駄な日などなく、意味のある一日を送り続けていた。


 苦しい日もあったが、それでも笑っている日のほうがずっと多かった。笑うことが、きっと大切な人たちに対する最大の報いだと信じていたから。


 そしてまた、冬の季節が巡ってきた。


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