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車庫レク

 車庫レク


 小さな岩山を刳貫いた車庫内は、天井の数少ない照明灯だけが頼りで薄暗い。

「小隊長、まだ出れないんですか?」

 TELの運転席から顔を出した運転手が、傍で資料に目を通している小隊長に尋ねた。

「まだ時間ではない。中隊長からは待機が出ている」

 声を掛けられた小隊長は運転席を見上げ、首を横に振りながら言った。

「前の訓練の時は、この時間にはもう終わってましたけど…さっさとやって終わりにしましょうよ。外は良い天気ですよ。運転席で缶詰じゃ気が滅入りますよ」

 訓練は複雑なものではない。車庫正面のコンクリート製パッド上にMRBM発射関連車両を展開し、TELに搭載している「木星」を直立させながら、司令部から目標の指示を受け、その座標を入力して模擬発射。そして車庫内に撤収という一時間程度のものだ。目標は日本国内の米軍基地、もしくはその大都市から選択されるのが常であった。

「急かすな。待っているんだ」と言って、小隊長は眉間に皺を寄せた。

「何を待ってんですか?」

 納得できない運転手は、窓から身を乗り出して小隊長にくって掛かった。

「衛星だ」

「エイセイ?」

 はっきりと理解できなかった運転手は、ただ音を繰り返して聞いた。

「そうだ…米国の偵察衛星の通過待ちだ」

 小隊長は気配を感じて周囲を見ると、暇を持て余す兵達が会話に反応して寄って来た。

「そんな時間が分かるんですか?」と声を上げたのは、人集りの一人だった。

「詰りだな、衛星の動きには規則性がある。だからモニター可能だ」

 集まった全員に聞こえるように、大きな声を上げて答えた。

「じゃぁ、いつも内等が外に出る時は衛星の通過後なんですね?」と別の一人が問うた。

 やや間を空けて「でもない」と否定する小隊長に対して、

「どういうことです?」と矢継早に人垣から声が上がり、重い空間が賑やかになる。

 腕時計を一目見た小隊長は、両手で兵達に座れと合図した。

 喜んで座る兵達が落ち着くと、小隊長は大きく息を吸ってから話を始めた。

「要するにだ…全てを隠すと相手は血眼になる。だから取るに足らない情報は呉れてやった方が良い。相手は安心する。そして恒に変化なしと思わせるのが肝心だ。今、発射訓練の回数が多くなっているから、今日はそれを悟られんように通過待ちしている」

「静止衛星で四六時中監視されてれば、それは無駄じゃないですか?」

 急に出た質問の内容に感心した小隊長は、数回小さく頷きながらその問いに応じた。

「その衛星の軌道は赤道上の約三万六千㎞の高度で、細かく観ることはできない。使われるのは通信か気象だろう。偵察衛星なら高度五百前後だな。そうすると周回は約一時間半になる。だから撮像時間は長くない。それを補って複数飛ばしてるが、どうしても穴はできる。そこを突いて訓練時間を変更してるんだ。でなきゃUAVなんて不要だろう」

「上は相手のことも考えて訓練してるんですか」と、感嘆した兵達はざわついた。

「だが、逆に仕掛ける時もあるそうだ」

 小隊長の一声に一瞬場が静まり返ると、「仕掛ける?衛星にですか?米国に?」と其処彼処で疑問の声が沸き始めた。

「聞いた話だがな…大気の抵抗で高度が下がる衛星は、スラスターを使って位置を戻す。衛星寿命は燃料残量と言って過言ではない。だったらその燃料を消費させれば良い訳だ」

「どうやってですか?」と直ぐ様問われる。

「簡単に言うと、高度を下げて分解能を上げる『マニューバー』という運用を逆手に取るんだが、相手が撮りたくなるようなイベントを演出してトライさせる。この機動は燃料を食うそうだ。頻繁には使えないが、衛星の寿命を短くできる」

「上は米国相手に作戦を練ってんですね」と、感服して兵達は静まった。

「大きい声では言えないが、残念ながらそれを気にせず動く輩がいる。それで尻尾を掴まれて仕掛が水泡に帰す事もある。相手もプロだ。些細な事も見逃さない。衛星寿命に見合う情報が取れればペイすると考える相手だ」と、ここで間を置いてから小隊長は続けた。

「だから意識してくれ。この瞬間も我々はここで静かに相手と闘っているという事を」


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