会議中
会議中
ウラジオストクにあるロシア海軍太平洋艦隊司令部のとある会議室。
「では、最後に1155型(ウダロイ級)です」と、中佐が話を進めた。
「近代化された『M・シャポシニコフ』の評価ですが、部隊側からの報告では戦闘能力向上、乗組員の士気上昇など、概ね良好であるという報告を受けています」
「それは結構だ。しかし概ね良好。古い艦という点が問題だと?」と、白髪の大佐が訊く。
「どうでしょうか…」と中佐が答えに窮していると、
「それは否めんだろう。…だが、乗組員の士気はプラスだ。これは恐らく、大型艦で揺れない。さらに海外行きでは不便が少ないという実感からだろう」と、眼鏡の大佐が入る。
「ならば結構だ。今は戦力の保持が課題だ。古くても動けば使うさ」と、白髪の大佐。
「そうだな、手持ちの駆逐艦は全てこのまま退役しそうだしな…」と、眼鏡の大佐。
何やら部屋の空気が重くなるのを感じた中佐は、進んで口を挟む。
「確かに、昔と比べれば作戦可能な大型艦は減少しています。しかしながら、今回の近代化により、特に『M・シャポシニコフ』の打撃力は格段に向上しました。それは、我が海軍が標準化を進めている多目的VLSの多大な成果です。対潜能力の維持だけでなく、長距離の対地・対水上攻撃が可能になり、そして極超音速対艦ロケットも運用可能となりました。これは、艦艇の減少を補うのに十分な効果があるという考えを否定できないものと思われます」
そう言った中佐は、二人の大佐の表情を見てから、
「なお、『M・シャポシニコフ』は、各種試験及び訓練は計画通りに実施しており、結果は予定通りとの報告です」と、強調しながら付け加えた。
「それで結構だ。遅れは弱点の露呈であり、敵が妙なアプローチを仕掛けてくる元だ」
「虚勢としても張らないとな…」という眼鏡の大佐の一言で、大佐二人は遠い目をする。
少し間を空けてから、中佐はゆっくりと音を立てて座り直す。
すると、大佐等は中佐の方を静かに見て、同時に頷く。
「次は、近代化中の『A・ヴィノグラドフ』ですが、造修施設での進捗状況は、概ね計画通りに進行中との報告です」と、中佐は話を始めた。
「大いに結構だ。だが、予算不足にならなければいいがな」と、白髪の大佐。
「例の『特別軍事作戦』次第だろうな…今後は…」と、眼鏡の大佐。
「確かに、将来的な予算の話は分かりませんが、目下予定通りに推移しています。このままですと、来年中には近代化を終え、各種試験及び訓練に入ります。日程については現在未定ですが、その後は『M・シャポシニコフ』と共に、戦隊を組んでの戦術訓練等に従事する事になると思われます」と、中佐は説明。
「だったら結構だ。だがな、少し時間的にルーズに感じないか?」と、白髪の大佐。
「現実として、政治力学による優先順位があるからな。まぁ、今は、少しでも部隊側には外に出て暴れていて貰らわないとな」という眼鏡の大佐の一言で、彼等三人は沈黙した。
そして稍あってから、一つ咳払いをした中佐は話を続けた。
「計画に従えば、1155型の残り二隻も、同様の近代化を実施する予定です。実績から考えますと、一隻に概ね4年程度の時間が必要と思われます。四隻の1155型の近代化が完了し、全てが再配備されて揃うのは、30年代の前半と見込まれます」
「とても結構だ。結局、太平洋艦隊に配備予定の新型揚陸艦が戦力化するのはそのくらいだ。
慌てる必要はない。低迷していたロシア海軍が復活するのは30年代からだ」と、白髪の大佐。
「それは喜ばしい。で、我等が旗艦『ワリャーク』はどうなるのだろうか。演習で対艦ロケットの長距離攻撃を実施して評価を得ていたようだが、運用上『ワリャーク』のロケットだけ異なるのはな。砲艦外交の象徴としての意味合いは理解するが…」と、眼鏡の大佐。
「既に『ワリャーク』の報告はしましたが、それは今現在分かりません。恐らく、将来的に近代化は実施するでしょうが…予算……ま、今日はこれで終了です」と、中佐は打ち切った。
「もう結構だ。…そうだな、散歩がてらドック中の『A・ヴィノグラドフ』の視察でも?」
「太陽にでも当たるか……まだまだリタイアはできんからな。先は長いが、楽しみだ」
それを聞いた中佐は、この二人の大佐の御伴なら、誰も何も言わないだろうと考えた。




