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陰謀論

陰謀論


「最近、陰謀論という言葉が多いように見える」と、眼鏡の男が言う。

「そうだね、テレビやネットでもしたり顔のタレントや芸能人の類も発言してるかな」

 眼鏡の男の言葉に、角刈の男がそう応じた。

「レッテル貼りで思考停止にさせてるんじゃないのかね」と眼鏡の男。

「意図を隠す偽情報か…まぁ、誰しもスポンサーには弱いからね」

「議論の余地を封じてるんだ。すべきは真偽の検証のはずなんだが」

「確かに。真実か、フェイク、デマ、愉快犯であるのか。そして必要があれば、それを流す意図を知ること、加えて、その発信源が問われるべきだろう」

「我々の世界では常識なこと」


 そう言って、眼鏡の男はコーヒーを一口飲んでから、

「真珠湾攻撃に関しては、幾つもの陰謀論が語られてる。例えば、米国大統領は事前に知っていたのに黙っていたとか。客観的に見れば、チャーチルやコミュニストが作用しただろうが、大統領が参戦にメリットを感じて決断した。それで日独に餌を撒いていたら日本が動いた。今でもやる常套手段だ。タラント空襲より被害が大きくて、キンメルに責任を負わせたかもしれないけど、意図を達成した。後は戦争責任を敗者のものにすべくだ」と語った。

「そう言えば最近、その真珠湾攻撃を仕掛けた海軍悪玉説があるね」と角刈の男。

「世界には多くの思惑があって、どうロジックを組むかなんだろうね。その海軍悪玉説だけど、海軍の視点で見れば、米国の両洋艦隊法が成立して、艦隊が浮かぶ前に短期決戦を企図するのは一理ある。日本海軍は長期戦ができる構造じゃないからね。補助戦力で当時の決戦兵器である戦艦に被害を多く出せるなら、博打を打つもの必然かもね」

「あの奇襲が成功してれば歴史は違っていたかもしれない。結局、戦意高揚のプロパガンダに使われた。外務省の不手際で。それに戦中の存在感もパッとしなかったしね」

「外務省に手厳しいな」

「それこそ陰謀論だ。外務省は蚊帳の外にある。悪しきは全て陸軍って感じだ」

「同感だね。…じゃあ、戦後日本がCIAに支配されてるという陰謀論はどうだい」

「戦後、日本にも対米勢力はあった。だからCIAも関与するのは自然だろう。しかし、支配されてるなら、なぜ、バブル期に米国の象徴的なビルや会社を買えたのか。『日米経済戦争』なんて言われる状況があったのか。ちょっと腑に落ちない。安全保障はそうだが、政治や外交も自ら米国にぶら下がってるからじゃないかな。だからそう言われる」

「頷けるね。……まぁ、だけど、……それらの自立はいつかあるのかね」

 眼鏡の男がそう言うと、二人は苦笑した。


 角刈の男が紅茶をすすってから、

「どうなんだろうね、今、本屋やテレビでも『超限戦』だの『ハイブリッド戦争』だのって言葉を目にする。簡単に言えば、中国やロシアの戦略は『何でもアリの世界』ってことでしょ。でも、これを見る度にただの売り文句だけなのかって感じるよ」と始めた。

「今更ってことだろ。技術的な差こそあれ、結局中身は典型的で古典的な情報戦だと」

「その通り。その国の軍人が出した戦略と言えば売れるだろう。でも、それは中国やロシア

の専売特許じゃないってことさ」

「冷戦期だけでもお互い様だっただろうってことね。…今は民間企業もやるだろうね」

「正にそれ。こちら側でも当たり前に仕掛けてる奴はいる。そういうのは全て陰謀になる」

「だから、陰謀論というレッテル貼りをして思考停止にさせるなってことだろ」

「話は戻るけど、知識のない有名人ならいざ知らず、国際関係を扱う記者やジャーナリスト、学者、評論家なんかは、陰謀論なんて簡単に片づけちゃいけないね。陰謀論の流布は、隠された意図を隠す欺瞞に加担することと同じ。それは筆を折る行為に等しい」

「陰謀論を唱えるのは、真偽の検証を終えてからってことね」

「情報戦を科学しないとね」

「しかし、…意見がこうも合うと、すっきりだね」

「それは光栄だな」と角刈の男が言うと、二人は微笑した。

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