情報隊
情報隊
科長席から戻ったB幹係長は、係員の中から、予定者の幹部と曹候上りの1曹を呼んだ。
「科長から急ぎの仕事でね、C幹さんと曹候の二人に頼みたいんだけど」
「今の仕事は他の係員で大丈夫ですが、どんな内容のですか」とC幹。
「再来週、SFが大監と舞監で軍事情勢巡回講習を実施するんだけど、急遽、四月にロシアがやった演習がプラスされたそうだ」
「北方四島とかでやったのですか。…でも、それ防衛省のHPにありますよ」と曹候。
「それをベースに、パワポ十枚くらいにしてほしいらしい」
「対象はどの範囲ですか」とC幹。
「公開情報でまとめるように指示が出てる」
「だったら自艦隊司令部にも情報員はいるでしょう」と、曹候は不満を漏らす。
「これが自分から言ったらしい」と、親指を立てながら係長が言う。
「群司令ですか…上狙ってるんですかねェ」と曹候。
「だろうな。まっ、専門の情報隊がやるんだから、そんな観点でまとめて」
「情報部隊を現場に理解してもらうには、必要なことでしょうからね」とC幹。
「まぁ、二人ならちゃちゃっとできるだろう。金曜の午前中までに頼むよ」
席に戻った二人は、防衛省のHPにある公表資料をPC画面に出して、それを見る。
「そうだ、これ一枚だけの資料だったんだ。ちょっと面倒ですねェ」と曹候。
「内容は細かいから、結構膨らませるだろう」とC幹。
「逆に、面子、時間、ポジションがまとまってて、現場の人間には一枚で十分でしょ」
「情報の人間の仕事を見せる紙芝居だ。ある程度ボリュームがないとな」
「群司令の売名行為でしょ」
「さっきも言ったが、群司令の行動はポジティブだ。確かにこっちの仕事は増えるけどね」
そう聞いた曹候は、黙って頷いて、作業を進めた。
「ロシア艦艇とかの写真は、統幕のHPのと同じでOKですよね」
「それでいい。で、衛星画像を使う場合はネット上のを。地図や海図はMARS内ので」
数十分後、これからの作業工程などが決まった。
「それで、演習の詳細、結論とかはどうします」と曹候。
「時間が経ってるから、ロシアの通信社か新聞社とかのHPに何かあるだろう」とC幹。
「そうですね、ロシア側にデータがあるかもしれませんね」
「拾った資料を並べれば、ストーリーは自然と描けるよ」
「確かに。しかし、ネットで情報は取れるし、翻訳も簡単だし、楽な時代になりました」
「そう言えるのも情報員としての技量があってだ。取捨選択、真贋判定などが重要だから」
「それは分かります。…まっ、防衛省の公表資料よりは面白いものにしますよ」
「それと、最後に情報収集の重要性を謳うのを忘れずに。群司令のが生きないのは不味い」
金曜日の午前九時。二人は作成したパワポをプリントアウトして係長に提出した。
そして一時間後、係長が修正箇所にチェックを入れた提出資料が二人の手元に。
「毎度『てにをは』と色合いの修正だらけですね」と、曹候は皮肉を言う。
「上に出すからには必要だよ。でも、いつも通り内容はOKなんだろう」とC幹。
「元航空管制だから、内容に踏み込めないんでしょ。勉強すれば訳ないなのに」
「いつも言ってるが、科長のチェックをすんなりとクリア出来れば価値はある」
「昔のC幹さんなら言わないでしょ。今日は言いますが、仕事サボってるのと同じですよ」
「…まぁ、海自も組織だから。金筋だと勉強させられる。曹候も幹部になれば分かるさ」
そう聞いた曹候は、黙って何回か頷いた。
「午後一で科長に提出だ。早く修正の分担を決めよう」と、C幹は促した。
午後二時。三人は科長席に呼ばれた。
「内容は悪くない。それで、これは友達(米軍)の見解と一致してるんだよね」
そう訊いたA幹科長の顔は、至極当然という表情であった。




