偵察艦
偵察艦
「確かに報告の通り…プロペラ機だな…」
ロシア海軍太平洋艦隊所属、バルザム級情報収集艦『プリバルチカ』の艦橋右ウイングに出た当直士官は、後方から近づく航空機を双眼鏡で確認しながら呟いた。
当直士官は事前に、八戸基地所属と思われる海上自衛隊の航空機が接近中であるという報告を、コミント班から聞いていた。
「この海域なら、厚木より八戸の方が近いか…」と言いつつ、近接する航空機の機体番号の確認に努めた。
今、情報収集艦『プリバルチカ』は、日本の龍飛崎の西約160kmの海域を西進していた。
航空機が右舷側を通過して行くと、当直士官は手持ちの資料を調べ始めた。そして、確認を終えた当直士官は、操舵室に戻りながら「確認、航空機は八戸のP-3C」と言い、副直士官に「各部署に報告してくれ」と指示した。
程なくして、レーダーディスプレイを見ていた当直員が「P-3C反転の模様」と報告した。
海図台の前にいた当直士官はそれを聞くと、左ウイングに出て、そのP-3Cを待った。
「八戸のP-3Cだってな」
当直士官は、その声の方へ振り向くと、「はい、艦長」と答えた。
「P-1は来ないか」
「本艦がもっと西にでもいれば、厚木のを飛ばしたかもしれません」
P-3Cは、左に傾きながら、次第に大きくなる。
「このままだと、写真で面が割れてしまいますね」
「折角だ、男前に写して貰いたいな」
そして、二人の視線は艦の後方へ。
「ところで、昨日の解析作業は下でどうでしたか、艦長」と、当直士官は聞いた。
「収穫はあったらしい。…でないと出航した意味がない。米軍のB-52は、日本海を飛行中、ウラジオストクや元山周辺に対して、ミサイル発射シミュレーションをしたと見積もっている。何回か衛星通信をしたらしい。正確なところは、他と情報を突き合わせてみないと分からんがな」と、艦長は説明した。
「中国や北朝鮮相手では分かりませんが、我がロシアに対して、B-52が日本海で自由にできるとは思えませんけどね」
「確かに。それは航空優勢確保が前提の米軍らしいシナリオだな」
「それで、日本の方はどんな感じだったのでしょうか」
「三沢、入間、春日の管制で、GCIとエスコート訓練を実施した様だ。三沢の管制下、西進するB-52に対して、千歳からF-15が要撃、その後直掩する編隊飛行に移行。これの繰り返しで、入間と春日の時は百里と築城のF-2だろうと」
「確実ではないのですか」
「コミントだけの状況からな。エリントは部分的にしか入らない」
「確定は、帰港してからですか」
「情報収集とはそんなものさ。その先は陸の分析担当の仕事だ」
そこに、撮影機材を手にした情報収集員達が現れ、二人は操舵室に入った。
「これから日本に近づくが、特異事象がなければ、明日で任務終了だ」
「はい。延長となれば面倒な事です…しかし、大湊のフリゲートでも出ないですかね」
「駆逐艦でないと張り合いがない。折角だ、新型だと面白いんだがな」
それから何回か近接したP-3Cは、西の空に消える。
(情報収集だけでなく、警戒監視の任務も帯びているのか)と、当直士官は操舵室の定位置でそれを見送った。
***
翌日、日本に近づいた情報収集艦『プリバルチカ』は、函館基地所属の掃海艇『いずしま』のアプローチを受ける。それから間もなくして、龍飛崎の西約80kmの海域で反転した。
【参考資料】
防衛省統合幕僚監部HP 報道発表資料 2022年10月31日 ロシア海軍艦艇の動向について
航空自衛隊HP 報道発表 2022年10月31日 米軍との共同訓練の実施について




