講座Ⅱ-相場観-
講座Ⅱ-相場観-
「それでは皆さん、講座を始めたいと思います。前回の講座の後、ミサイルの名前や射程距離を全部覚えるのは難しいという声がありました。確かにそうです。ですから正直、細かく暗記する必要はないと思います。自衛隊の現場の方とは違いますから。我々はその都度、目次を見ながら資料を調べればいいのです。ただ、安全保障に興味があるならば、その相場観はあった方がいいと思います。最近の駆逐艦はこのぐらいの武器を搭載してるなとか、戦闘機ならこの辺まで飛んで来るだろうな、という具合にです。今、ニュースや新聞などでも、ある国の駆逐艦や戦闘機が、日本のどこの海峡を通ったとか、太平洋のここまで進出したなどと報道してますから、状況の判断がし易くなるはずです。それがいつもと同じか、違うのかと理解できる事は、とても重要だと思います。そこで今から、その相場観を養うポイントについて、ちょっとした問題などを皆さんと一緒に考えながら、提示したいと思います」
問題用のスライドに。
「スライドの左の方は3隻の巡洋艦、右は6隻のコルベットです。3隻と6隻です。皆さんは、右の6隻のコルベットの方が、戦闘力が高いと考えますか。どうでしょう。数は2倍の差があります。…そうですね、現在の巡洋艦は、満載排水量が概ね1万トン以上で、ミサイルを大量に搭載しています。一方、コルベットは1,500トン未満です。…答えは、長射程の巡航ミサイルを搭載している可能性もある巡洋艦の方ではないでしょうか…。これは前回も言いました、単純な数字の対比だけでは分からないという話です」
次のスライドに。
「今度はどちらも駆逐艦ですが、左は現用で、右は第二次世界大戦当時のです。どちらの方が戦闘力が高いと思われるでしょうか。左は大砲が前にしかありませんが、右の方は前後にあります。隻数は同じ1隻。…どうでしょうか…。各種ミサイルがあり、電子機器なども多く、ヘリを搭載している現用の駆逐艦の方が、戦闘力は高いと考えられるのではないでしょうか。長魚雷があるという方もいるかもしれませんが、恐らく現用の方だと思います。…ちょっとこれは極端かもしれませんが、これが質について、という話になります」
また、次のスライドに。
「今度は対比ではありません。同じ海域に、スライドの哨戒機とフリゲートが所在しているというものです。皆さんはどのような状況だと考えますでしょうか。たまたま同じ海域に居合わせたのか、それとも空水協同の対潜訓練なのか、もしかしたら、ドック明けのフリゲートのレーダーキャリブレーションと言う方も…。可能性はゼロではないでしょうが、掃海訓練とは考え辛いと思います。いかがでしょうか…。これは、どのような関係性が考えられるのか、という話です。この場合、どの関係性が妥当か、可能性が高いのかと評価しなければなりません。関連する知識の引出しが多ければ、妥当な選択ができると考えます」
複数のスライドの内容について、詳細に説明。
「長くなりましたが、以上です。少し複雑なので、ここは問題形式ではありませんでしたが、関係性は理解されましたでしょうか。スライドは、今年の防衛白書の『第Ⅲ部わが国の防衛の三つの柱』にありますイメージ図を使いました。整理しますと、前半の防空、周辺海域の防衛、陸上の防衛のための作戦の一例の方は、陸海空個別の場面での関係性です。そして、後半の島嶼防衛、総合ミサイル防空のイメージ図、BMD整備構想・運用構想、ゲリラや特殊部隊による攻撃に対処するための作戦の一例は、陸海空統合運用の場面での関係性です。後半の方が、統合運用なので立体的で空間的な関係性になっていると思います」
さらに、次のスライドに。
「最後です。これは懐かしい空母ミッドウェイですね。左と右、どちらが新しい方かという問題です。まあ、すぐに分かると思います。カラー写真だからではなく、右の方が飛行甲板も広くなり、ジェット機が並んでいます。少々強引でしたが、時間の経過についてです」
スライドは、タイトルに。
「時間も短く、簡単ではありましたが、安全保障の相場観は、量と質、関係性、時間を意識して身に付けるといいと思います。この相場観は、防衛白書を読むだけで、かなり養われると思います。結構内容は濃いです。実際に、自衛隊の現場の方も、こうした相場観が頭にあって、分析や状況判断をしているはずです。皆さんにもこのフィルターがあれば、ネットを眺めてるだけでも自然と手が止まると思います。今や、安全保障の研究は、学者や専門家の専売特許の領域ではないのです。…楽しい時代となりましたね」




