要塞化
要塞化
海南島の南に位置する中国海軍楡林基地。今、その北側の岸壁に、同基地広報官とネットメディア記者、取材用ハンディカメラを手にするカメラマンが立っていた。
「近年、ここ海南島の南側では、海軍基地や施設などの新設及び拡張工事等が実施されてます。この楡林基地は、その中において長い歴史のある基地です。ここには複数の部隊が所在してますが、一般的には哨戒潜水艦基地と見えるでしょう。あの、左側の係留施設を見て下さい。潜水艦が多数所在してます。あれが第32潜水艦支隊の潜水艦です。636型潜水艦も見えますが、ここの配備艦です。反対の右側に幾つかの岸壁が在りますが、これ等に留まっている艦船などは、主に潜水艦の支援に従事するためです。基地の概要は先程応接室で話した通りです。付け加えるならば…あの636型潜水艦がここに配備された頃からでしょうか、この基地の整備が顕著に成ったと思われるのは」と、広報官は二人に説明した。
カメラマンが広報官から許可を得て、潜水艦が所在する左側の係留施設を撮影している間、記者はその潜水艦地区全体を観察していた。そして、幾つかの事に気が付く。
「広報官。あの左端は造船所ですか」と、記者は広報官に質問する。
それは、潜水艦地区の北側に隣接する地区であった。
「基本的には造修施設です。ここの潜水艦や小型艦船のメンテナンスなどを実施してます。ドライドックも有ります」と、広報官は答えた。
「それと、あの奥の漁船群は何ですか」と記者は続けた。
造修施設よりもさらに北側の水域には、多数の漁船が係留されているのが見える。
「あれですか…この基地の長い歴史と言うか…新造基地ならば先に立ち退きでしょうが、そう簡単にはできません。あれでも少なくなりました。しかし、漁労以外で人を乗せてる船も確認されてます。あれは安全保障上問題です」と、広報官は歯切れの悪い回答をした。
そこに、カメラマンが広報官に問い掛けた。
「あのー、039A型潜水艦は今日、いないんですかね」
「ここには配備されてませんが」
「あれっ、ネットでは配備されてる様に書いてあったりしてるんですが…」
「それは軍事秘密ですか」と、記者が口を挟む。
「恐らくですが…海南島の南東沖は急に深くなってます。これは他の中国沿岸ではない筈です。そこで新造の潜水艦が試験などでダイブしてます。その行き帰りにここに入港する事もありますから、それではないかと」
「そうした支援もしてる訳ですか」と記者は問う。
「一応。しかし、今後は分かりません。後程見て頂きますが、ここは少々不便になります」
広報官がそう説明すると、小型の交通船が近づいて来て、三人の前で停まる。
「どうぞ」と、広報官に促されて記者とカメラマンは交通船に乗り、広報官が最後に乗ると、その交通船は静かに岸壁から離れた。
交通船は、港内の中央を通り、三人が居た北側岸壁の反対側の港口へと進んだ。
この間、カメラマンは近づく潜水艦地区を撮り続けていた。
「基地の周囲の山には、幾つかの防空関連施設があります。詳細については言えませんが」と、広報官の説明は船上でも続けられた。
やがて、交通船は港口を少し出た場所で停船した。
「ここまでが楡林基地です。以前はここから港外でしたが、今はここを防波堤で囲んで空母用の基地として整備中です。あの先に見える大きいのが空母専用の埠頭です。規模は青島基地のと同等だそうです。楡林の配備艦、あの漁船も含めてですが、この基地内を通って港外に出るしかありません。今後、楡林は奥まった不便な基地と思われるかもしれません」
「原潜はどこですか」と、カメラマンが何の脈絡もなく広報官に聞いた。
「残念ですが、原潜や新型の大型水上艦は東側の亜龍基地です。…今、海南島南端の開発は、ここを青島の様に要塞化させてます。今後どこまで拡大するのか見当もつきません。唯、基地の管轄は未だ別々です。私は楡林の広報官でしかないので、これ以上は…」
「広報官、あの左側のコンクリートの箱って、ドライドックですか、空母用ですか」
カメラマンは興奮しながら、巨大な灰色の建造物を指差して広報官に説明を乞うた。
「詳細については言えませんが」




