展望台
展望台
「あれが、新しいのか…20380型コルベット」
「ソ連海軍は、次々と大型の新型艦を建造したものだったな」
鷲の巣展望台から金閣湾を望みながら会話する二人の老人。彼等は、ソ連海軍太平洋艦隊の退役した将校で、暇があるといつもケーブルカーに乗ってここにやって来る。
「しかし、今では小型艦でもP-1000より射程の長いロケットを載せる時代だ」
「我等が旗艦、親衛ロケット巡洋艦ヴァリャークより戦術的価値が高いと思いたくないが」
「技術の進歩だ。実際にカスピ海からシリアを攻撃できるのだからね」
「とは言え、それ等は小型艦だ。海軍が萎む」
「確かに、最近建造された水上艦が小型艦ばかりなのは事実だ」
「我等が海軍は、いつから沿岸海軍志向になったのか…やはり予算かな」
「けれど、ソ連海軍と同様に積極防勢は維持している様に見える。今後、あの程度の小型艦が搭載するロケットの改良型は、射程が4,500キロ以上に延びるとか」
「なら、昔の様に積極的に太平洋まで出ることはないのか」
「そのロケットが、遠距離の移動する艦を捕捉、攻撃できればね」
「そうか…しかしだ。海軍とは浪漫的なものではないのかい」
「それに異議はない」
元将校の二人は、細長い金閣湾の奥を見渡す。そこはソ連時代、太平洋艦隊を支える巨大な造修施設であった。
「ソ連崩壊から海軍は朽ち果てた様だったが、最近はまた少し活気が出てきた」
「確かに。ここは艦船の墓場かと思った程だ」
「大国として、海軍が必要な事はロシアも認識している」
「しかし、潜水艦の建造の方を優先的に進めてる様だが…今はフルシチョフ時代なのか」
「戦略原潜の存在は欠かせないし、攻撃型原潜は攻守に不可欠だ」
「その理屈は理解している」
「物事には順番がある。それに今、『ポセイドン』とか言うのも開発している。これが配備されれば、以前よりも牽制手段が増える事になる」
「それには何か問題も指摘されてるようだが、技術的な話として、ロケットだって極超音速が必要な時だ。水中速度なんてたかが知れてる。そこに冒険すら感じない」
「実際は判らない。とは言え、ブラフとしてもカードが増えるのは望ましい」
「それも理屈だな。しかし、そんな戦略兵器に予算を割ける状況なのかね」
老人達の周囲では、多くの若者が燥いでスマホを弄っている。その昔、ここは閉鎖都市でソ連海軍の主要根拠地を一望できる高台であった。不用意にカメラを軍港に向ければ、厳しい視線を感じたはずである。しかし、進歩的な老人達はこの光景を好意的に見ていた。
「しかし、海軍は積極防勢だけを重視している訳ではない」
「それは判る。最近、海外に派遣される事が増えている」
「基本的に海軍戦略は変わっていない。プレゼンスの発揮。これは重要な任務だ」
「そう、昔から海軍とは外交を担う存在だ」
「だから今、多くの旧型艦に予算を掛けて整備している」
「冷戦末期のソ連艦は、大型で長期航海には快適だった。その威容も西側艦艇を圧倒する程だった。これは小型の平面的なコルベットでは発揮できない」
「全く異論はない」
話す二人の視線の先に、海外へと出航した太平洋艦隊旗艦の姿はない。その司令部前の岸壁には、長期航海帰りの大型対潜艦がその存在感を誇示しながら艫付けで停泊していた。




