試験艦
試験艦
中国遼寧省葫蘆島
渤海北部に位置するこの地には、中国船舶重工集団の渤海造船所がある。ここは、バルクキャリアやタンカーなどを民間向けに建造しているが、安全保障の分野では中国海軍の原子力潜水艦を建造する唯一の造船所として有名である。
灰色の曳船がゆっくりと後進すると、その操舵室にトランシーバーを右手に持った士官が入って来た。
「あの艦長、腕がいい」と、士官は操舵室の扉を閉めながら言う。
「声だけで判るんですか」と、操船している古手の下士官が応じた。
「入港作業の指示で判る」
曳船は支援した新鋭の052D型駆逐艦から離れると、船尾を右に振りながら左回頭する。
新型の130mm単装速射砲を搭載するその駆逐艦を右に見ながら、「それで試射に選ばれたんですかね」と下士官は口にする。
「だろうな」と、士官は周囲に目を走らせながら答えた。
「なら、あれもですかね」と、下士官は顎をしゃくって指す。
その方向には、76mm単装速射砲を搭載の056型コルベットが係留されていた。
「悪くはなかったかな」
「大丈夫ですかね」
「急に大きな艦を増やしたから艦長不足かもな」と、士官は呟く。
この造船所の一角には、艦載兵器などの試験を支援する部隊が所在する。そのため、最新の910型試験艦や古いフリゲートを改造した支援艦、複数の警戒監視艇と作業船などに加え、各種ターゲット・バージが岸壁や桟橋に在り、陸揚げされた多くの大型レーダー・リフレクターも見ることができる。
左回頭を終え、曳船は前進を始める。
「あれとの比較ですよね」と、下士官は視線を向けて話す。
それは艦首部に不釣合いな大型の艦砲を載せている072Ⅲ型戦車揚陸艦であった。
「そうだ」と士官は一言。
「レールガンってのはどうだか」
「連中は何も言わんからな」
「確かに、食堂や厚生施設でも奴等黙ってますからね」と、下士官は不満そうな顔を見せる。
「仕方ないさ。仕事だ」
今、中国海軍では電磁誘導を応用した各種兵器の研究や開発が行われており、レールガンもその一つであった。そしてこれを艦載砲とするために、戦車揚陸艦を専用の試験艦に改造して試験を実施していたのである。
曳船は、052D型駆逐艦などが留まる長い桟橋の突端付近で右回頭すると、その反対側にある係留位置へと進む。
「奴等、作業中ですね」と下士官は、レールガン用のターゲット・バージを見て喋る。
そのバージの上では、多くの作業員が各種器材の設置や調整のために動いていた。
「揚陸艦を試験艦に改造してやるんだ。ちゃんとデータも採らないとな」と士官は応える。
「それで、我々があのバージを設置するんですかね」
「そうではない。駆逐艦とコルベットが試射するバージだ」
暫くして、曳船は所定の位置で係留作業を終える。それは910型試験艦と桟橋を挟んだ浮桟橋に留まる作業船の隣であった。
「あの艦も、最後はターゲットですかね」と、下士官は改造試験艦を見て軽口を叩く。
「結果次第かもな」と、士官は漏した。
「ああ、記念艦として青島とかの博物館入りもあるという訳ですか」と下士官は納得する。




