前線港
前線港
下川島にある中国海軍の第52潜水艦基地。
今、二隻の039型潜水艦が港内から出るところであった。
この二隻は海南島の楡林にある第32潜水艦支隊の所属艦である。
そして出港作業には、潜水艦基地の士官二人が岸壁で立ち会っていた。
「二隻の補給に問題はなかったんだろう」と、一人が聞いた。
「過去に燃料や貯糧品などの搭載はやっていたので、それは問題ありませんでした。ただ、魚雷搭載に時間が少々。良い経験にはなりましたが」
この基地には035型潜水艦しか配備されていない。035型と039型の潜水艦では、魚雷やミサイルなどの搭載方法が若干異なるのである。
「そうか。今後は039型への魚雷搭載も増えるだろうからな。…そう言えば、魚雷の調整作業の方は大丈夫かな」
「はい。楡林からの支援もあり、聞いている量なら問題はありません」
「それは結構だ」
先頭の039型潜水艦は、港外に出たところで曳船との舫いを離し、増速し始めた。
「ところで、今回通常の哨戒ではないと補給作業などから感じましたが」と、一方が聞く。
聞かれた方は「甘いな」と言って、周囲の出港作業員が二人から離れているのを確認してから小声で答えた。
「先頭の艦は、台湾と東沙諸島の間を抜いて台湾の南側に進出。そこで偵察任務に従事してからUターンで帰投する。後ろのは、東沙諸島の西側から進出。先頭艦の南東の海域で哨戒に就く。米国や日本への牽制の意味がある。そして先頭艦と同時期に帰投となる」
「香港は問題ではないのですね」
「状況は変化している。首相は言ってたしね」
それは全人代での首相の台湾に対する発言である。
「では、今後039型だけではないかもしれません」
「そうだな、ロシア製のも入るかもしれん」
「楡林とのコミュニケーションが増えますね」
「なら、次は楡林勤務かもな」
二隻目の潜水艦も増速する。
「やはり潜水艦の主たるターゲットは空母でしょうか」と、階級の低い方の士官は質問する。
「成程、キティホークか…」
以前、039型潜水艦の一隻が米空母キティホークの近距離に浮上したことがあった。
「しかし、今は弾道ミサイルがあるから空母が台湾に近づくかどうか。可能性が高いのは、台湾に派遣される海兵隊の艦船や、支援物資などを運ぶ船舶じゃないかな。それよりも、ここの防御を考えねば。航空機より巡航ミサイルの攻撃かな」
「可能性としては。しかし、どちらにしても防空システムを構築すれば大丈夫かと」
「そうだな」
「他方、上川島のミサイル艇隊で近づく水上艦艇への対処は可能かと思いますが、対潜水艦にはここの035型だけでは心細く感じます」
「湛江の司令部に言っておくか」
潜水艦の支援を終えた二隻の曳船は、港内に戻ると、それぞれ別の桟橋に向かう。
「燃料や貯糧品の搭載だけだと、水上艦も入るか」と、階級の高い方の士官が言う。
「基地内の整備は進みましたが、ここの規模はたかが知れてます」
「しかし、米国の対応次第では、ここが一番ホットな最前線の港になるかもしれん」




