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包囲網

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 ジェットエンジンの爆音を轟かせながら、海上自衛隊の哨戒機が縦隊で航行する三隻のロシア艦の右舷上空を航過して行く。

 この三隻の先頭を進むのはウダロイ級大型対潜艦『アドミラル・トリブツ』。そのマストには指揮官旗が掲げられていた。そして後続艦は、同型の大型対潜艦『アドミラル・ヴィノグラードフ』、補給艦『ボリス・ブトマ』である。


「機体番号は読めたか」と、『アドミラル・トリブツ』の当直士官がブリッジ内から大声で確認すると、右ウイングに出ている航海担当の准尉が声を張上げて応えた。

 その返答を海図台の前で聞いた副直士官は、手持ちのファイルを素早く捲り、「番号から鹿屋所属のP-1」とジェット音に負けない声で報告する。

 それを見て指揮官は、「艦の方は佐世保だったな」と、少し離れて立つ艦長に確認した。

「はい、駆逐艦『あけぼの』、佐世保の艦です」と、艦長は即座に反応した。

「流石にしつこいね、海自も。行きもそうだったがな」

 この三隻のロシア艦は、先月からインドとの海軍演習の他、スリランカとブルネイへの訪問のためロシアを離れ、今はウラジオストクへと帰投の最中であった。

「そうですね。…まぁ、こちらも情報収集しましたが。行きは舞鶴と佐世保のミサイル艇に、厚木のP-1、後は離れていて詳細までは」と艦長は言う。

「お互い様か…海での社交だな、これは」と指揮官は肩を竦めた。

 すると、海自哨戒機の情報収集を終えた担当員等が、急ぎブリッジを下りて行った。

 少し間があって、「彼等は『マーシャル・シャポシニコフ』の方が好かったのかもしないな」と、指揮官は話を続けた。

 ロシア海軍は、ウダロイ級大型対潜艦の近代化を計画し、それを『マーシャル・シャポシニコフ』から実施していた。その近代化は、新型巡航ミサイルの搭載を始め、近接防御システム、通信機器、電子戦装備の換装などにまで至るものであった。

「確かに、こちらは海外派遣の帰りでしかないですから。まっ、これも彼等の任務です。…しかし、本艦も間もなく近代化の予定です」と、艦長は最後に話を付け加えた。

「それは…陸の生活だな、何か計画でも」と指揮官は態と聞く。

「それなりに」という艦長の言葉で、二人は互いに吹き出した。

「とは言え、これまでとは戦術が変わる分、ドック中でも忙しくなる。それに後はフリゲートの位置付けにもなる」と、指揮官は艦長に言った。

 次第に、海自哨戒機のジェットエンジン音が消え、その姿は小さくなる。

「しかしだ、海自とは共同訓練を長年実施している間柄なんだがね」と、指揮官がぼやく。

「日米豪印での話合いが進んでいるとか。これから先、今以上に厳しくなる可能性も考えられます」と、艦長は不透明な先行きを口にした。

「それについては司令部でも話がある」と、指揮官は顔色を曇らせる。

「自由で開かれたインド太平洋と言うが、どう見ても中国封じだろう」

「中国の防衛戦略と一帯一路の影響ですか」

「自衛権は当然の権利である。しかし、中国のやり方にも問題がある。特に南シナ海だ。あれでは国際社会の反発を招くだろう。ソ連でもあれ程強引な方法は取らなかった。それに関係する国が多過ぎる」と指揮官は答えた。

「中国は三戦だけでなく、周辺諸国に露骨な政治的、経済的プレッシャーを掛けている様ですが、今は四カ国の動きの方が」と、艦長は何処かで聞いた噂話を話す。

「実際は判らんがね。問題は、その話合いが事実上の軍事同盟になるのではという事。加えて、その影響が中国だけでなく、我がロシアにも影響する可能性がある事だ。つまり、艦長はそれを気にしてるんだろう」と、指揮官は艦長に促した。

「はい、その通りです」と艦長の表情は硬い。

「本当に面倒な事だ。…さっきも言ったが、海自とは長年訓練を重ねてるし、今回だってインドとの訓練だ。米豪との関係も冷戦時代とは違う状況になっている。どうだろう、我がロシアがそちら側に与するというのは」と、最後に指揮官は冗談半分の提案をする。

 突如、「先程のP-1再接近」という右ウイングで見張っている准尉の大声が聞こえた。


【参考ソース】

防衛省統合幕僚監部HP 報道発表資料2020 「9/28 ロシア海軍艦艇の動向について」

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