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遊弋艦

 遊弋艦


 釣魚群島北西20海里―


「艦長、時間になりました」

 艦橋の中央に位置する当直士官は、深く座っている艦長に申告した。

「接続水域に3隻だったな?」

「はい、6時間の予定です」

 中国海警局は組織改編により、中央軍事委員会直属の人民武装警察部隊に編入された。つまり、海警局は人民解放軍の指揮下に置かれたのである。このため、海軍は海警局との連携強化を課せられていた。

「…周囲に目標はありません。艦長、この海域で漂泊します」

「了解、許可する」と、艦長は静かに答えた。

 海警局所属の船舶3隻が釣魚群島の接続水域に進入している間、付近の海軍艦艇は間接支援をするようになった。


 程なくして、1隻のフリゲートは停止した。

「艦内マイク、本艦はこの海域にて漂泊する。当直員以外のヘリ甲板での休息を許可する」と、当直士官は当直員に下令した。

 艦内放送が終わると、艦橋内にも安堵の空気が流れる。

 すると突然、ヘッドセットを被った艦橋伝令が声を上げた。

「右見張り、右45°、高角30°に航空機1」

 これに反応した当直士官は、その方向を双眼鏡で凝視して、

「やはり…P-3Cだな」と呟いた。

 この航空機の情報は、既にCICから当直士官に入っていた。

「所属はどこだ?」と、艦長は即座に問うた。

「通信傍受班は『鹿屋』と言ってます。それと…海警局には通報済みです」

 当直士官は双眼鏡を当てたまま答えた。

「コールサインか?」

「音声からです」

 通信傍受班は膨大な無線交話の収集データから、米軍や自衛隊などのパイロットの音声識別データを作成していたのである。これは各パイロットの声紋、発音やイントネーションの癖などをまとめたものであった。

「本艦の写真を撮ったら、釣魚群島の方に張り付くと思われます」と続けた。

「そうだな…まぁ、こっちも撮ってやろうか」

「了解」と答えた当直士官は、双眼鏡を下ろしながら当直員に向かって、

「艦内マイク、情報収集班は艦橋へ」と下令した。


 P-3Cが飛び去ると、艦橋から情報収集班は姿を消し、艦橋内は静かになった。

 するとこの沈黙を、当直士官の艦長への問いかけが破った。

「艦長、上はこれから東シナ海での哨戒任務を常態化させるのでしょうか?」

「だろうな…仮に在韓米軍が撤退したら、その範囲は沖縄のラインを越えるだろう」

 艦橋内の当直員達は、艦長と当直士官の会話に耳をそばだてていた。

「正直、本艦のようなフリゲートでは日数が伸びると厳しくないですか?」

「弾道ミサイルで米海軍を牽制している。哨戒任務は西太平洋まで出る必要がある」

「それは駆逐艦クラスの任務です…フリゲートは沿岸付近での任務で一杯です」

「確かに…しかし、DF-26の配備が進めば、哨戒範囲はグアムまで拡大するだろう」

「それはイージス艦クラスの055型の話です」

「…残念ながら、数が足りない」

「上は大型の駆逐艦を優先して建造してもらいたいものです」

「洋上でのんびりと遊弋してるのも悪くないがねェ…」

 すると突然、ヘッドセットを被った艦橋伝令が声を上げた。


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