監視艦
監視艦
台湾南西海域―
035B型潜水艦「306」
「確認、目標はコンテナ船。潜望鏡下げ」
下令した哨戒長は、直ぐ様潜望鏡から離れて海図のある卓へと近づいた。卓の壁際には艦長が静かに座っていた。
「目標はコンテナ船で反航。台湾行きで間違いないはずです。現在本艦は目標のコース上にあります。情報収集をしつつ、距離を取ります」
「了解…そうだ、哨戒長。収集と操艦を任せてみろ」と艦長は命じた。
「了解」と哨戒長は答えると、潜望鏡付近にいた哨戒長付に近づいて、
「操艦を任す。情報収集しつつ、目標の左舷500mに同航で占位」と指示を出した。
返答した哨戒長付は、哨戒長から離れて、各部署に指示し始めた。
沈黙に包まれていた発令所内は、途端に活気付く。
操艦を任せた哨戒長は、静かに海図の卓付近に位置した。
「なぁ、哨戒長。米国の『台湾旅行法』が発効となれば、米台高官の往来が可能となる」と、艦長は哨戒長に話し掛けた。
「外務省は一応反対したようですが、無駄でしょうね」
「それだけと思うか?」
「最終的には、米空母の入港になると思います」
「つまり、面倒な話になる訳だ」
「確かに、台湾付近まで追尾することになるでしょう…しかし、米空母が常に南シナ海から台湾に入ることはないはずです。概ね東海艦隊と半々ではないでしょうか」
「だが、あっちは新型艦ばかりだ」
「我が第52潜水艦支隊は旧型の035型しかない上に、我が艦は艦齢30年」
「やはり、面倒な話になる訳だ」
静かに「306」は右回頭を始めた。これからコンテナ船の左舷側に出て、同航としながら500mの距離に近づく。この間、情報収集は継続する。各部署の技量が問われる。
発令所内が喧騒に包まれる中、艦長と哨戒長は黙って見守っていた。
艦が占位し終えると、「悪くないな」と艦長は呟いた。
「哨戒長付の操艦、各部署の反応、情報収集の状況は、支隊の他艦に負けません」と哨戒長は力を込めて答えた。
これを聞いた艦長は、
「確かに、面倒な話になる訳だ。艦齢30年にはな…しかし、『キティ・ホーク』に肉迫して浮上までした039型と同等の各種装備が本艦にはある。空母打撃群でも相手にできるんじゃないかな?」と問うた。
「空母打撃群には原潜が付いてますが…」
哨戒長の懸念は無理のないことであった。近年の空母打撃群は原潜2隻で対潜警戒を実施している。「キティ・ホーク」の一件から、米海軍のガードは固くなっている。これを突破して、この「306」が空母に近接しようと言うのである。
「心配するな哨戒長。闇雲に空母に近づこうという訳ではない。本艦は039型ではない。035型で艦齢30年であることは十分承知だ。しかし、これ程得点を稼ぐチャンスはない」
「つまり…艦長には策があると?」
「そう、浅海域であるこの海域だから勝負できる。米海軍の原潜より旧型でも小型の本艦の方が有利となるはずだ」
「確かに、その通りです」
これを聞いた艦長は哨戒長に問うた。
「では、手始めにこのコンテナ船を米空母に見立てて、船尾に占位するかね?」




