偵察機
偵察機
「間もなく旋回点、第二目標へ」
偵察機の航跡を追うオペレーターが報告する。
「了解」
そう応じた担当士官は、別のオペレーターに歩み寄りながら、
「データリンクの状況は?」と問うた。
問われたオペレーターは、目の前のモニターを確認して、
「第一目標の収集データ、受信完了」と答えた。
「了解。間もなく第二目標のデータも入る」と担当士官は言うと、データリンク担当のオペレーターから離れ、元の位置に戻った。
今、ハバロフスクにある第11航空・防空軍司令部の一室では、在日米軍に対するオペレーションが進行中であった。
2015年8月1日、ロシアの空軍と航空宇宙防衛軍は統合されて航空宇宙軍となった。これに伴い、各部隊の名称などが変更されたが、基本的なオペレーションに変化はなかった。偵察機による在日米軍への情報収集は、第11航空・防空軍に課されたオペレーションの一つである。
特に最近では、米軍のTHAADミサイルシステムの性能分析が急がれている中、それを構成する早期警戒用Xバンドレーダー『AN/TPY-2』の電子情報の収集は優先度が高かった。そのため、定期的に第799独立偵察機航空連隊所属のSu-24MRを飛行させ、『AN/TPY-2』が配置してある青森県の車力分屯基地と京都府の経ヶ岬通信所に対し、電子情報収集を実施していた。
Su-24MRが日本海上を飛行して収集した電子情報のデータは、瞬時にデータリンクによって、ハバロフスクの司令部に転送される。Su-24MRの偵察飛行ルートは、所属基地であるヴァルフォロメーエフカと車力分屯基地、経ヶ岬通信所を頂点とする三角形を形成している。今回の飛行ルートは右回りだったので、第一目標は車力分屯基地であり、第二目標が経ヶ岬通信所となっていた。
「第一目標は稼働中だったので電子情報を収集できたが、第二目標はどうかな?」
担当士官が呟くと、航跡担当のオペレーターが反応する。
「直ぐに状況については報告があります」
Su-24MRの搭乗員は、無線通信で飛行や収集状況などを常時報告してくる。
「そうだが、前回取ってないから、今回はどうかとな」
「確かに、キョウガミサキのデータは少ないですが…」
オペレーターは頭を左右に振ると、仕方がないという表情を浮かべた。
車力分屯基地に比べ、運用間もない経ヶ岬通信所の『AN/TPY-2』の電子情報は、性能分析には不足気味であった。しかし、幾らSu-24MRを偵察に出しても、その『AN/TPY-2』が稼働していなければ、電子情報は得られないのである。
「この電子情報が十分に収集できれば、電子戦でTHAADミサイルシステムを無力化することができるし、攻撃部隊にも攻撃用データを提供できるんだがな…」
担当士官が気のない声で言うと、それに応じて、
「まぁ、北朝鮮が最近ミサイルを頻繁に撃っているので、確率的にはレーダーを稼働させている可能性は高いと思いますがね」と、オペレーターは明るく答えた。
「確かに…それに今年は例年より多く偵察を実施してるし、計画もしているからな」
「はい、時間の問題です」
「しかし、これに北朝鮮の貢献があるなら、分け前を欲しがるかな?」
「それは大統領次第ですね」と、オペレーターは戯けた。
突如、壁に設置してあるスピーカーにノイズが入る。
「偵察機からです」と、オペレーターは担当士官に告げた。




