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解析員

 解析員


 長時間ディスプレイを凝視していた画像解析員は、大きく息を吐いた。

 解析に多くの時間と精神力を要する横須賀地区の作業が、やっと終わったのだ。

 横須賀の米海軍と海上自衛隊などの艦艇は多い。画像内にある艦艇をそれぞれ識別し、二日前の画像と比較して、艦艇の有無を判定する。そしてその結果を、画像用ディスプレイの隣にある記録用端末に打ち込んでいく。この端末は総合分析を行う部署とリンクしているため、解析員は常に神経が擦り減る感覚を覚える。艦艇の識別や有無、端末の打ち込みミスは、部署が違うだけに訂正が後々面倒だからである。

「…基地内の動きは、特になかったな…」と、独り言を洩らす。

 当然、艦艇自体の変化、弾薬や燃料搭載などがあれば報告の対象となる。その艦艇が任務や訓練などで出航する可能性が高いからである。また、係留施設や弾薬庫、造修施設などの変化も、基地の総合能力を判定するために必要な要素であり、画像は隅々まで細々と確認しなければならなかった。

「まぁ、強いて言えば、今日は戦艦の見学者が多いかな…」

 最後に解析員は、日露戦争時の戦艦の様子を口にしながら、手元のマウスを操作して、次の画像を呼び出した。

 画像には、観覧車。

「次は横浜か…」

 解析担当の港湾の様子は当然ながら、その変化状況も時系列で頭に入っている。

 濃い目のコーヒーを一口飲むと、横浜港内の海上保安庁の地区から解析を始めた。

 無言で作業する解析員は、機械的に短時間でこの地区を終わらせると、画面をスクロールさせて、米軍地区を画面中央にする。

「今日は何かいるかな?」

 この地区は、米軍などの兵站集積地として運用されている。そのため、ここ自体の活動は低調である。しかし、自国海軍の潜水艦が海洋進出し、活発な行動を示すようになると、米軍は太平洋で運用する音響測定艦の母港のように、ここを使用し始めたのである。これによって、解析対象の順位が上がったのである。また、それ以外にも、北朝鮮のミサイル関連事象を監視するミサイル追跡艦が、何らか目的で入港することがあった。補給よりも収集データの移送や人員交代が主目的と見積もられている。

「今日は空か…LCUが定数…」と、解析員は力なく呟く。

「埠頭上の変化もなし。横浜の米軍は、特異事象なし」と言って、解析員は端末に解析結果を弾こうと手を伸ばしながらも、何となく違和感を感じた。

「何だろう…」

 そう言って、もう一度画像に目を移す。そして、その違和感を理解した。

 いつもこの地区の端に係留されている小型の曳船二隻が、写っていないのである。

「あらー、曳船二隻どこいった?」

 解析員はマウスを動かして、画像内を隅々まで探す。そして、画像の端に頭を港口へ向け停止する二隻の曳船を見つけた。曳船のこの態勢は、大型艦船の出入港時に見られるものである。しかし、画像はここで切れていた。

「何が居たんだか、入ってくるんだか…」

 解析員は呟きながら、左手を伸ばしてインターコムの受話器を取り、右から三番目のボタンを押す。そして受話器を左耳に当てた。

「あ、日本の海軍担当ですが、今日の横浜の画像を全体で見たいのですが…あ、どうも…宜しく、待ってます」と会話して、受話器を置いた。

 画像は処理速度を考慮して、無造作に小さくカットされている。解析員は撮像された画像全体を要求し、曳船が所在する理由を追及しようとしたのである。

 程なくすると、データ量の多い画像が転送されてきた。解析員は曳船の先を見るためにマウスを動かす。しかし、その動きはこれまでになく鈍く、重い。

 すると、要求した新たな画像の端に、辛うじて艦首部、その先端だけが写っていた。

「あっ、ブルーリッジの回航か。現地で写真撮って貰うのに連絡しなくちゃな」

 解析員の左手は、インターコムに伸びていた。


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