受信艦
受信艦
東海艦隊所属の遠征33号は、魚釣群島の南方海域で露頂していた。
海面には、潜望鏡と通信マストが伸びている。
周辺には航空機も船舶も認められなかったが、潜望鏡などによって白波を立たせないように、操艦限界の低速力を保持していた。
「受信状況は?」
「良好!」
艦長が問うと、通信担当直員は即答する。
「了解…武器?」
さらに艦長は武器担当直員に聞く。
「…」
「どうだ?」
「…目標位置データ入力終了!」
「了解、通信マスト下げ!」
衛星からデータを受信し、武器管制システムに入力されたのを確認すると、艦長は通信マストを下げる号令を出しながら、自身は潜望鏡に取り付いて周囲の捜索に入った。
対空目標と水上目標の確認のために素早く二回りし、
「対空、水上目標なし。潜望鏡下げ、全没!」と、矢継早に艦長が指示を出すと、間髪を入れず、遠征33号は潜望鏡を下ろしながら、静かに深海へと沈んでいった。
この海域は以前、情報収集艦が長時間航行した海域である。この間、日本に対する各種情報収集を実施しただけでなく、衛星からのデータ・リンク実証実験なども行われていた。
艦が水平状態になると、艦長は傍らの計測係である通信担当士官に話し掛けた。
「時間はどうだ?」
「計画範囲です」
「武器の方は?」
「衛星の目標データは早かったのですが、武器選択とそれへの入力に少々ロスが」
「許容範囲だろ…まぁ、衛星が直上の場合は良好か」
艦長の一言に、静寂が支配していた発令所に安堵の空気が流れる。
左腕の時計を無言で見ながら、
「哨戒長、次の試験まで2時間ある。戦闘直から哨戒直に」と、艦長は発した。
海図台を睨み込んでいた哨戒長は、その声に反応して、
「了解…マイク、『艦内哨戒直にせよ』」と下令する。
次の試験は、水平線付近に位置する衛星から、データの受信状況を確認する。
潜水艦によって、この海域での受信があらゆる条件下で可能と実証できれば、中国艦艇はこの海域から、沖縄ラインを越えて、太平洋側の艦艇を直接攻撃できるようになる。
これは中国海軍が注目する試験であった。
「しかし…衛星のデータ・リンクは、今後どうなるんだ?」
急に、艦長は哨戒長に尋ねた。
「そうですね…今は一つか二つの位置情報だけですから…」
答えに窮する哨戒長に、艦長はさらに続けた。
「リンクさせるんだ。目標全部が自動プロットされなければ意味がないんだがね」
「確かにそうですが…かなりのデータ量になります」
「データ圧縮とか…パケット通信は…時間が長くなるのかな?」
「情報通信技術の進歩は、艦長の言われる通り著しいですから、早い段階で」
「攻撃目標の情報だけで攻撃なんかできない。周辺状況が把握できてからの攻撃だ」
「艦長の言われる通りです。では、今後もこの受信試験が続きそうですね」




