案内係
案内係
「そうですか。以前は北海艦隊の水上艦基地を見学されたんですか…」
笑みを浮かべながら、案内係の士官は見学者達を先導して歩く。
「なるほど、魚池ですか…空母は見学されましたか?…あっ、いませんでしたか」
案内係は見学者達と気軽に会話を続ける。
「あの基地は大きいですからね…残念ながら、ここは比較にならない程小さいです」
一団は庁舎地区から、係留地区へと入る。
「しかし、ここにはその基地には配備されていない潜水艦があります。まっ、専用港なので潜水艦と支援用の小型艦艇しかいないですがね…」
案内係は自嘲気味に笑う。
一番手前の桟橋まで一団が近づくと、案内係は止まり、見学者達の方に向き直して、係留地区の説明を始めた。
「この基地の係留場所はここだけです。固定桟橋2本、浮き桟橋6本の計8本。手前の2本の浮き桟橋は水深が浅いので主に支援艦艇用で、奥の4本の浮き桟橋が潜水艦専用となっています。1本の桟橋には同時に2隻が係留可能です…あっ、ここの配備潜水艦は8隻で…今は4隻しか係留されていませんが、全艦係留可能です。配備艦は全てロシア製で、一般に『K』と呼ばれるクラスです。ただ、バージョンは三種類あります」
ここで見学者の一人の呟きに案内係は反応した。
「そうです。2隻の潜水艦を互いに向き合わせて係留させます。全く見えませんが、潜水艦は海面下の方が大きく膨らんでいる構造です。そして艦尾にあるスクリューと横舵には何もガードはありません。ですから、他艦や桟橋にぶつけて損傷させないように、係留時には艦首を近づけて、艦尾は桟橋よりも外側に出します」
両手を潜水艦に見立てながら説明する。
「魚雷搭載ですか?この浮き桟橋係留中には実施しません。浮き桟橋は浮いてますし、潮位や波の影響を受けるので、搭載用のクレーン車などの重い車両は進入禁止となっています。それで、そういった際には、奥にありますコンクリート製の固定桟橋で行います。固定桟橋まで潜水艦を移動させて、魚雷やミサイルの搭載や陸揚げ、潜望鏡の交換などの簡易な整備作業をします」
案内係は軽く肯きながら、見学者達を見渡す。
「それはさらに奥にあります。分かりますかね…一つ奥の山の中は弾薬庫になってます。で、その海岸沿いに魚雷やミサイルの調整施設が複数あります。これ等の施設は、潜水艦の近代化によって、新型魚雷やミサイルが搭載可能になる度に増設されます。以前に比べると整備員の数もかなり増えていますね…居住施設にも影響があります」
質問に答え終わると、少し間をおいてから、また説明を始めた。
「この湾口を出て右に進むと海に出ますが、左の上流側に約5kmの所、そこに造修施設があります。そこで潜水艦の整備や近代化改修などを実施します。上海の造船所でも整備をやりますが、そこでは艦体整備がメインで、基本的にはこの上流の造修施設です。残念ながら今回の見学では行きませんので、ご了承ください」
ここでまた見学者達から声が上がる。
「確かに…南海艦隊にも同じクラスはありますが、12隻中8隻までがこの基地の配備となっています。さらに、異なるバージョンがあることで、先程説明した造修施設は、国内で一番、『K』クラスの整備実績があり、その建造技術などを含めたノウハウが蓄積されています。そのため、施設では039型や039A型も整備しますし、武漢の造船所にもデータを送っております」
見学者達が次々と口を開く。
「そうです。039A型も当艦隊から配備され始めました…はい、『クラブS』と呼ばれている奴です…確かに今では上海の造船所でも建造しています…ロシア側も流石に簡単には出しませんから、技術陣も苦労しているようです…」
適当に応じていた案内係は、徐に左腕の時計を見ると、
「さぁ、艦内見学です。潜水艦に行きましょう」と見学者達を促した。
笑みを浮かべながら、案内係の士官は見学者達を先導して歩く。




