発令所
発令所
海面上に露出した潜望鏡は、一回転すると静かに海没した…
モニターを凝視していた男達は、モニター画面が消えると、各々動き始めた。
「海空共に目標なし…二分後に再度、ESMマストを上げます」
ストップウォッチを手にした中尉が言う。
「了解」
少佐の階級章を付けた男は、中尉に視線を向けながら返答した。
「この海域ですと、HACHINOHEのオライオンでしょうね」
「航跡からすると…通常の哨戒で、高度は高いはずだ。問題はレーダーだけだな」
「これなら、我々の行動自体、気付かれてませんね」
「気付いていれば、クリルの東方にソノブイの網を張るだろう」
「ですね…それと、YOKOSUKAの潜水艦二隻が所在不明です」
中尉の言葉で、少佐は数歩移動して、通信文の綴りを手に取ると、何枚か捲りながら素早く目を通した。
「少なくとも、一隻はCHIBA沖の訓練に参加しているな。ATUGIからオライオンも飛んでる」
「実艦的ですか…」
「襲撃訓練もあるだろうな…」
「…間もなく時間になります。ESMマストを上げます」
会話の途中で、常時ストップウォッチに目をやっていた中尉は、少佐に申告した。
それを受けて、少佐は張りのある声で「了解」と返した。
海面上に露出したESMマストは、数秒すると静かに海没した…
「先程のESM目標、感やや上がる」
発令所内のESM員が報告する。
「方位は?」
少佐は直ぐ様問う。
「左から右に移って、今は右20°でした」
「了解」
少佐は海図台に歩み寄ると、海図上で右の人差し指を幾度も滑らせる。
「マストを上げるのを待ちますか?」
少佐の後ろから、中尉が聞いた。
「通常通りで構わん」
「感が上がってますが?」
「確かに距離は若干縮まったが、航跡から針路・速力に変化はない。間もなくレーダー範囲から外れる。時間になったら、ESMマスト上げ」
「了解。一分半後にESMマストを上げます」
「間もなくバッフル・チェックだな」
思い出したように、少佐は中尉に聞く。
「マストを下ろしたら、実施します」
ストップウォッチから視線を外さずに、中尉は答えた。
「米原潜が最も面倒だからな…」
少佐は大きな独り言を呟いた。
「日本の潜水艦も面倒じゃありませんか?」
少佐の独り言に、中尉は応える。
「出会い頭はね。だが、長時間になると何時もゲームを降りる」
「少佐の言う、可潜艦だからですね…」と、中尉は皮肉を込めて話す。
「…中尉。MISAWA用の哨区に入ったら、艦長に報告してくれ」
それを受けて、中尉は張りのある声で「了解」と応じた。