8 -暴走-
青い光が空気を切り裂く。
鼻先を掠めた鋭い刃に、倒れた榮に飛び掛かろうとしていたジークは急停止した。
藍色の眼光が氷の刃が飛んできた方向を睨む。その視線が捕らえたのは、氷の刃と同じ色の髪と目を持つ人――アルフ。
なにをしてるの?! そう上げそうになった言葉は、だけど声になることはなかった。だってあのままなにもしなければ、ジークは|《魔石獣》(ユウェルディール)たちをそうしてきたように榮を殺していて……
でも、どうして? だって、アルフは榮に対してそれこそ、恐いくらいの殺気を向けていたはずなのに――?
ほっとする気持ちと何故という疑問。ない交ぜになった感情はどっちがどっちかなんてわからなくなって、ただ状況を見守ることしかできない。
「――そんな奴、あんたが手に掛ける価値もないわ」
そんな言葉と共に、空気を染める淡い光。薄青色の燐光は榮にまとわりつくようにして集まると、動けないようその手足を地面に繋ぎ止める。拘束された榮を守るようにもう一つ、氷の檻も出現していた。
混乱するわたしを前に、アルフはため息一つ。その間にも向かってきたジークが牙を爪を振りかざして襲いかかるけれど、アルフは魔術を使う素振りもなく小さく体を動かしてそれを避ける。《獣化》したことで体が大きくなった榮とは違って、人の姿のアルフは的が小さいから、速度にさえついて行ければ避けるのは難しくない、とは京子の言葉。
「……やっぱ聞こえてない、か」
「あ、アルフ……?」
「ん? ああ、脅かしちゃった?」
戸惑うわたしがこぼした言葉に、おどけたように応える。その姿に死に神の鎌を振るっていた時の恐いくらいに無表情な顔が重なりそうになって、慌てて頭から追い出す。
無事だったこと、どうしてジークに攻撃魔術を使ったのか、榮に使った魔術は、さっき|《魔石獣》(ユウェルディール)を切り刻んだのはなんだったのか、聞きたいことはたくさんあるはずなのに、いざ聞こうとするとどれも上手く纏まった言葉になって出てこない。
わたしがかける言葉を決められない間にも、アルフはジークの攻撃を避けながら魔術を使う。動けなくなった榮の頭の上に煌めきが集まって、氷の固まりが生まれる。
支えるもののないそれはそのまま落下して――動けない榮の頭に直撃。
氷が砕ける音がして、氷の拘束を破ろうとしていた榮の意識を今度こそ完全に刈り取った。
「……よしっ」
今度こそ完全に意識を手放した榮に、アルフは小さく手を握っていた。
容赦ないやり方に呆然とするわたしを余所に、アルフはジークに向き直る。|《魔石獣》(ユウェルディール)を切り刻んだ姿が浮かんだけれど、アルフの手に今はあの武器はなくて、いつの間にか水晶と赤い布飾りがまかれた杖が握られている。護身用にって、目眩ましにもなるからって貸してもらっていたその杖は、持つべき人の手の中。そのことにほっと安堵の息がこぼれた。
「おぉっと」
正面から飛び掛かってきたジークをひょいと避けて、アルフはそのまま勢いを利用するように黒い毛並みに向けて杖を叩きつける。
「――っ!」
声にならない悲鳴がこぼれる。鈍い音と共に叩きつけられた杖は、ジークの毛皮を前にほとんど威力を殺されたみたいだ。ほっと息をつく。
「なんで……なんで! 榮はもう動けないのに――っ! ジーク、アルフ、二人とももう止めてよ!」
「止めたいのはっ、こっちも山々、なんだけどね! どーにも手を止めてくれないもの、黙ってやられる、そんな趣味はないっ!」
ジークの猛攻を捌きながら、アルフが答える。相変わらずジークからの返事はなくて、代わりに聞こえてくるのは苛立ち交えの唸り声。
むき出しの敵意が込められている声は、聞いているだけで足がすくんでしまう。なんで、どうして――沸き上がる疑問に答を見つけられないまま、目の前で繰り広げられる光景に手をだすことも出来なくて、ただ二人の攻防を見守るしかできない。
「――どこまで聞いてる?」
「え……? えっと、どこまで……って……」
唐突に向けられた問い掛けに、一瞬なにを聞かれているのか判らない。
「彼が今現在どういう状況にあるか、よ」
「あ……えっと、それなら|《変化》(へんげ)じゃなくて《獣化》してるだとか……だけど。って危ない!」
「心配無用っ!」
会話にも意識を向けているはずなのに、アルフはまるでジークの攻撃が全部見えているみたいに避けてゆく。
一度も当たらないせいだろうか、苛立ったジークの攻撃がだんだん早くなっているように見えるんだけど……全然焦った様子もない。
「アルフ……?」
「ん、何かな?」
「大丈夫……なの?」
「避けるだけなら、ねっ。それより、この状況は不味いのよ」
一撃でも当たればただでは済まないはずなのに、アルフの顔に焦りはない。受け答えだって普通にしている。むしろ告げられた言葉に不安が沸き上がる。
「不味いって? ジーク……どうしちゃったの?」
「簡単に言っちゃえば……《心臓石》の力が暴走してる」
「暴走?」
あっさりと答えた言葉とは正反対に、アルフの表情は険しい。それはジークの攻撃を避けるのが難しくなっているからじゃないとわかってしまう。
「そ、暴走。そもそもだけど、|《獣人》(けもののひと)の|《変化》(へんげ)は感情によるところが大きい――って、これは京子が説明したわね。ともかくっ、心の動きで《心臓石》の力を引き出して、己の体を変化させる、それが|《変化》(へんげ)。
でも、感情の揺れ幅が大きすぎた時、《心臓石》から力を引き出しすぎてしまうの。それが《獣化》。本人も制御不能の暴走状態――ってね」
振り下ろされた爪を杖で受け流し、振り向きざま噛み付こうとした口に氷の固まりをたたき込みながらアルフが口にした言葉は、とてもではないけれど聞き流すことが出来るものじゃなかった。
「じゃあ……元には、戻れない……の……?」
ようやく口にした言葉は、まるでその言葉を口にするだけで体の力が抜けていくような気がした。
ジークは、もうずっとこのままなんだろうか? 目の前が真っ暗になるような、途方もない絶望感。
そんなの――嫌だよ……っ!
「感情的なものだからね。落ち着けば元に戻る……普通は」
きっと、この時のわたしはすごく酷い顔をしていたんだと思う。気遣う素振りが、だけど余計胸にに突き刺さる。
「さっきも言ったけど、《獣化》は暴走状態。四神や《眠り姫》の加護でもない限り、《獣化》まで行っちゃうとちょっとやそっとじゃ元には――それこそ無理矢理意識を落としたところで、簡単に戻るかどうかっ」
「そんな……っ!」
「そりゃずーっと寝かしつけてれば、いつかは怒りも収まって戻りはするでしょうけど、ね。でもあんまりお勧めは、出来ないかな。いつ戻るのか解らない以上はっ、ここに止まり続けることになるし、何より時間がかかりすぎるから」
こんな状態のジークを一人にするなんて出来ない。それに見境なく暴れ回るジークの体は《獣化》していたって傷ついてしまう。今だって、|《魔石獣》(ユウェルディール)や榮と戦って出来た傷は塞がっているけれど……怪我は見た目だけじゃなくて、体の芯にまで痛みが残ることもあるから、そういうものが溜まっていったら……そう考えるだけでまた胸が締め付けられるように痛む。
「それに|《変化》(へんげ)も《獣化》もし続けている間は、嫌でも《心臓石》の力を消費する……本人が意図せずに|《変化》(へんげ)が解けるっていうのは、大抵が石の力が落ちた時だからね……《心臓石》は|《獣人》(けもののひと)の命そのもの。それを削るような真似は、流石に――ね」
「魔術で……どうにかできないの……?」
「……|《変化》(へんげ)を魔術で解除する方法は、ない訳じゃ、ない」
「! じゃあ――」
「落ち着きなさい。――方法が『ある』と『出来る』とは別なのよ!」
八方ふさがりの中、ようやく見えた希望にすがりついたわたしをだけどアルフは窘める。
「|《獣人》(けもののひと)とあたしたちルマソイドは、《大戦》時代以前から交流があったからね。その中で、色々とお互いの能力を研究したりがあった訳なんだけど――結論から言って、|《獣人》(けもののひと)が制御不能になった《心臓石》の魔力に、魔術師が同調することで石の力を鎮めた記録は、確かに存在している。だから暴走を止めることも出来る」
「じゃあ……なんで?」
「言ったでしょ、同調するって。つまりは相手の力と――魔力だけじゃなく、《心臓石》に干渉するには魂のある程度までをさらけ出し同調することになる。両者の間に相応の信頼関係、つまりは絆があって初めてなせることなのよ。
同調は言わば、他者の内に触れる事よ。信頼関係が無きゃ、先に待っているのは拒絶反応――最悪、暴走状態をさらに激化させたり、試みた両者の心が壊れる」
そう告げるアルフの顔は、やりきれない思いでいっぱいだった。方法は知っているのに、出来ない。その悔しさが、もどかしさが伝わってきて、それ以上何も言うことが出来なくなる。
「彼にとっちゃ、あたしは単なる仇、なんでしょうしね。――だいたい、万に一つ同調出来たとしてもあたしの魔力じゃどんな後遺症が残るか……」
自嘲的に呟かれた言葉は、最後の方は良く聞き取ることが出来なかった。
何を言ったのか聞くことも出来なくて、ただ《獣化》した姿のまま暴れ回るジークを見つめることしかできない自分がもどかしい。
「……とは言っても、こうしていつまでも相手してらんないし――そろそろ暴れ疲れてくれないか……」
そう言っている間にも、標的を避けてばかりのアルフから榮を捕まえた氷の蔦や檻に変更していた。一度二度とぶつかる度に、アルフが生み出した氷の壁にヒビが入る。
「ああもうっ! ほんっと、馬鹿力な……っ!」
苛立つように毒突いて、アルフはす、と腕を動かす。そんな動きに合わせるように、薄青色の燐光がアルフの左腕からジークの元へと伸びて――
「だ、だめっ!」
思わず制止の言葉が口をつく。だけど間に合わなくて――薄青色の燐光はジークを通り過ぎ、ヒビが入っていた氷の檻に触れるとまるで傷口を塞ぐ瘡蓋みたいにヒビを被う。
頭に浮かんだ光景が現実にならなかったことに、ほっと息をついた。
「リュート……? あなた、もしかしてさっきのが見えてるの?」
「え……?」
そんなわたしに向けられたのは、アルフの戸惑うような視線。
いったい何のことなのかわからなくて、首を傾げるわたしを余所に、アルフは一人納得したように独り言のように呟く。
「まさか《精霊の瞳》……? そうか……ユヴェリエ家は――」
「あ、あのっ。アルフもあれが見えるの? あれって……いったいなんなの?」
「魔力の残滓。あるいは魔力そのもの――活性化した魔力の脈動、と例える人もいるわ。とにかく、詳しい話しは後回し! あなたにこれが見えているのなら、彼をどうにかできる――かも、しれない!」
「本当なの!?」
内心に渦巻いていた疑問は、アルフの一言で吹き飛んだ。
思わず身を乗り出すわたしに、アルフは慌てることもなくでもその背中に苦笑の気配を浮かべていた。
「少なくともあたしがやるよりは成功率は高い。三年間一緒に旅をしてきたあなたたちなら、その絆で同調もしやすいだろうし、何より余計な魔力を持っていない分《心臓石》が拒絶反発を起こす可能性も押さえられる」
少なくとも、こんなあたしよりは。そう自嘲するように呟くアルフの言葉は、半分以上頭に入っていなかった。
だって――アルフは今、なんて言ったの?
言葉の意味は知っているのに、知っているからこそ信じられなくて。
「……どういう……? だって、わたし……」
「|《人喰らい》(どこかの大馬鹿野郎)と同じく、あなたにも《魔石使い》の素質があるってコトよ」
「え――」
《魔石使い》。榮と同じ。その言葉に喜ぶことも出来なくてただ戸惑ってしまう。
《魔石》――|《獣人》(けもののひと)の体の中にある《心臓石》を喰らって力をつけていたという榮。榮が生み出した禍々しい|《魔石獣》(ユウェルディール)の姿は記憶に新しいし、ジークがこんなことになってしまったのもある意味では榮のせいでもあって、だから同じと言われてもジークを元の姿に戻せる可能性に対する希望と同じくらい、嫌悪の気持ちがわいてくる。
「力はあくまでもその人が持つ手段の一つよ。それでその人の人となり全てが決定される訳じゃない。――だいたい、《魔石使い》の素質は本来得難いものだから……嫌悪するようなものじゃ、ない」
わたしの心を見透かしたように、アルフの言葉。そうやってわたしのことを気遣いながら、氷の盾を生み出してジークの動ける範囲を狭めようとしている。アルフが薄い青の燐光を纏った腕を一降りする度に、空気中に煌めく燐光が踊る。
幻想的な光景はまるで妖精と戯れているみたいで、でもその動きに合わせるようにジークの進行方向を塞ぐ形で氷の壁が次々生まれる。
「とにもかくにも! 《獣化》は暴走状態、これ以上長引かせられない。あたしと京子で彼の動きを封じるから、その隙にあなたは暴走を止めて! 役割分担よ!」
「で、でも――止めるって、どうやればいいの!?」
悲鳴のような問い掛けに、すぐに答は返ってこなかった。
二人の気配が変わったことに刺激されたのか、《獣化》したジークは生み出された氷の壁を無視してこちらに向かってくる。
威嚇だろうか、一際大きな咆吼とともに地面を蹴るジーク。簡易結界を解いて飛び出した京子と赤い飾りがついた杖を手にしたアルフが、応じるように相対する。
京子がジークに負けない動きで近付くと、その体を毛皮の上から殴りつける。だけどジークの狙いはアルフに固定されたままで、京子に対してはまるで羽虫でも追い払うみたいに鬱陶しそうに相手にするくらいだ。
反対に、アルフに対しては容赦ない、いっそしつこいくらいに爪や牙の攻撃を繰り返す。普通の人なら反応するのだってやっとだという猛烈な勢いに、だけどアルフは反応してみせる。
手にした杖を爪に絡めるよう差し出して、そのままジークの勢いを利用して受け流す。赤い布飾りや腰に巻いたスカートみたいな飾りが翻る様子は、まるで噂に聞く闘牛士を連想させた。
闘牛がそうなるように、避けてばかりのアルフに対し、ジークは苛立ちを募らせてゆく。忌々しげな唸り声が洞窟に反響する。
「させないよっ!」
頭に血が上ったせいか、だんだん単調になる攻撃。再びアルフに襲いかかろうとしたとき、その鼻先に何かが掠める。あまり相手にされていなかった京子が、横合いから飛び出して鼻先を思いきり殴ったんだ。
《獣化》で体が強化されていても、同じ|《獣人》(けもののひと)で腕力の強い京子の一撃は効いたみたい。痛みを誤魔化すようその場に足を止めて京子を睨む。
わたしだったら睨まれただけで腰が抜けてしまいそうな藍色の眼光。だけど京子は動きを鈍くすることもなくて、逆に正面から向かい合う。
《獣化》したジークと|《変化》(へんげ)した京子。二人の間にある体格差は獣の姿になった榮の時以上なのに、どうしてだろう、どうしてそんなに怯えることなく立ち向かえるんだろう。
アル姉が作った氷の壁を乗り越えて、黒い獣は勢いをそのままに向かってくる。
肌を刺すように伝わってくる、濃い殺気と憎しみ。
向けられてしまうもの無理はないって、頭ではわかっているのに、だけどどうしても理不尽だって思ってしまう。
今、じーくが《心臓石》の力を暴走させているのは、りゅーとが|《魔石獣》(ユウェルディール)に傷つけられて、それが切っ掛けに感情が爆発しちゃったからだ。
だから怒って、|《魔石獣》(ユウェルディール)を酷たらしく殺したし《心臓石》の力を使って獣の姿になった|《人喰らい》(マン・イーター)も見た目やニオイが似ていたから容赦なんて全然しなかった。
だけど|《魔石獣》(ユウェルディール)はもういない。全部じーくが噛み殺した。似たような姿になれる|《人喰らい》(マン・イーター)も、今はアル姉の術で動けない。
それで収まればよかったんだけど、今度の標的はアル姉になっちゃった。
みやはともかく、アル姉は|《獣人》(けもののひと)じゃないから獣の姿になれない。こーいう時、普通ならここまでしつこく狙われることなんて、ない。
でもじーくにとって、アル姉は仇だから――その感情があるから、今も鋭い爪と牙を躊躇うことなく振るっている。
あんなの、まともに受けたらいくらアル姉でも耐えられない。戦うとき、アル姉は|《変化》(へんげ)の代わりに魔力で体を強化しているけど、それでも、だ。
だから――
「とめる、よっ!」
アル姉に向けて振り下ろされた爪を横から殴りつける。横からの力で爪は方向を変えて、狙いをはずれ地面を削る。
「ん」
固い地面にすとんと着地。と、同時に背中に突き刺さる視線。《獣化》で獣のものになったじーくの目が、じろりとみやを睨んでいた。
どんなに睨まれたって、止まるわけにはいかない。止めない。
これだけ力が強いの、止めようと思ったらアル姉はいっぱい集中しなきゃいけないから。その間、今までみたいに避けながらじゃ、どうしても集中できないから。
だから、それを埋めるのがみやの役目っ!
またアル姉を狙おうとしたジークの鼻先を、上から叩き落とすみたいに殴りつける。こんな所を殴りに来るなんて思ってもいかなったのかな。ジークは小さく悲鳴を上げて足を止めた。
藍色の目が苛立ったみたいにみやを見下ろす。その目を睨み返して地面を蹴る。向かってきた牙を体を捻って避けて、そのままさっき叩いた鼻先を蹴りつける。
やったと思った瞬間、胸のあたりに鈍い痛み。みやが着地するのを見計らっていたみたいに、前脚でまるで小石でも跳ね飛ばすみたいに蹴散らされた。
「にゃ……」
勢いよく岩壁に打ち付けられたせいで、肺から空気が押し出される。咳をしながら目を開けると、黒い獣の頭がすぐそこにあった。……アル姉の前に、鬱陶しいみやを先にしとめるつもりかな。
だとしたら――それはすごい間違いだ。
みやのことを一のみにしようと開けられた口を思いきり蹴り上げて、仰け反った首の下を駆け抜ける。目指すのは前足。まだ痛みにのたうっているじーくは反応できない。
邪魔されることもなく前脚に飛びついて、木の幹みたいに太くてごわごわした毛並みに被われているそれに腕を回す。両手をいっぱいに広げてどうにか持てるくらいだからけっこうきついけど、できないことじゃないっ!
「う……なぁあああああぁああっ!」
そのまま体全体の力を使って前足を――じーくの《獣化》した体を投げ飛ばす。そのまま、さっきのお返しだって洞窟の壁におもいっきり叩きつけた。
どーんと、大きな音といっしょに地面がゆれた。
起き上がってくるようすは、ない。あれくらいで気絶するようなことはないと思うから、たぶん目を回しちゃったんだと思う。思いっきり振りまわしたし。
おぼつかない足で立ち上がろうとするじーく。だけどその時じーくの足下から氷の蔦が生えだす。アル姉の魔術。あっという間に成長した氷の蔦は、みるみるじーくの手足を、体を縛る。
「今よ! リュート、早く!」




