第五章:火の洗礼
春の祭りの夜。
宮廷は灯りで彩られ、舞姫たちが舞を踊っている。
その最中、紅蓮は突如、御前で舞い始めた。
赤い衣を翻し、炎のように踊る彼女は、まるで伝説の火の精霊のようである。
そして、舞の終わりに、彼女は皇帝に向かってこう宣言した。
「陛下、私はあなたの娘です。蘇婉の子、あなたの血を引く皇女。しかし、皇太后と暁皇子は、それを隠し、私を宰相の娘と偽った。なぜなら……私が、天命の子とされる『鳳凰の印』を持つ者だからです」
彼女の手首を掲げると、赤い紋が浮かび上がる。
それは、古代の予言に記された「鳳凰の胎記」。
その場が騒然となった。
「嘘だ! 宰相の娘が、皇帝の子などあり得ぬ!」
皇太后が叫んだ瞬間、紅蓮は古文書を床に投げる。
「これが記録です。母の日記、宮廷の産婆の証言、そして皇帝の密書。すべて、私が皇女である証拠です」
皇帝は、その文書を読み、顔を青ざめた。
「これは……私の筆跡だ。そして、この日付……婉が亡くなる三日前のもの……」
皇太后は、動揺して立ち上がる。
「止めろ! あの女は、国を乱す災いの子だ! 処刑しろ!」
だが、その時。
皇子の暁が前に出た。
「待て」
全員の視線が、彼に集まる。
「紅蓮……お前が、本当に父の娘なら……なぜ、今までそれを隠していた?」
「隠してなどいません。ただ、誰も真実を聞こうとしなかったのです。あなた方も、私を『悪女』と決めつけて、耳を塞いだ。ならば、私はその期待に応えて、悪役を演じたまでです」
暁の瞳に、わずかに揺らぎが走った。
「……お前は、本当に皇女なのか?」
「証明しましょう。古の儀式『火の試練』を受ければ、鳳凰の印が反応し、天が認める」