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第43話 新章、駅馬車編プロローグ

 夜、人気(ひとけ)のない裏道。馬車から下りてきた男の前に、頭を垂れる数人の男たち。

 

「アニエスカ・グレゴリアス、領主の娘か……まあ良い。始末しろ」

「本当によろしいのですか?」

子供(ガキ)が大人の世界に出しゃばって来るらいけないのだ。自業自得というものだ」


 命を受けた男は数人の部下を連れて、闇夜に姿を消した。


 ――――――

 ――――

 ――

 

 ◆ ◆ ◆

 

「それではアニエスカお嬢様、ステーションの運営権、運行するすべての馬車と馬を担保にするという条件で、二〇〇〇万エウロの融資の決済をさせていただきます」


 ロートシュヴェールト銀行の支店長が契約書にサインをし、続いて私の隣に座る領主、バルトス・グレゴリアスがサインした。



 やったわ! これでやっと、グレゴリアス領とヴァンドール領をつなぐ駅馬車事業を始められる。

 


 ここ数ヶ月、この事業を始めるために動いてきた。馬車の確保、経路の調査、資材の調達……机上の空論と、視察を繰り返し、ようやっと明確な計画が完成した。税収と銀行からの借入を財源に、担保もリスクの少ない条件で収まったのは、領地経営が赤字を脱却できたことが大きな要因だ。


「我が娘ながら凄いね、アニエスカは。二〇〇〇万エウロを頭を下げてお願いしなくても借りちゃうんだから」

「困ってる人にはお金なんて貸してくれませんのよ、お父様。儲かる人にお金を貸すのが銀行という商売なのだから」


 これは前世の苦い経験から得た教訓だ。


 起業して二年目を迎えた私は、新規事業の失敗で赤字に転落した。運転資金に困った私は、銀行借入をしようとしたが、どの銀行からも借り入れすることが出来なかった。


 苦渋の選択で、リストラやオフィスの縮小移転をし乗り切り経営を立て直した。既存事業が好調になり、再度新規事業に挑戦しようとした矢先、銀行から融資の提案が来たのだ。


 私は、銀行から借入した資金を元に新規事業を行った。しかし、プロジェクトは破綻。会社はというと、既存事業の収益で健全に回っていたし、借入の返済もそれで補えた。


 もし、二度目の新規事業も借入をせずに自己資金で行っていたら、再度経営難に陥っていた、いや、倒産していただろう。


 このことから〝困っている所にカネは貸してくれない〟という事を学んだのだ。

 

 事業資金の調達が出来たことで、駅馬車プロジェクトを実行に移すことが出来る。

 前途洋々なプロジェクトのスタート。


 私は俄然、溢れ出るやる気に満ちていた。



 しかし、神は必ず試練を与える。


 この事業が人生をどん底に落とす試練になることを、この時の私は知る由もなかった――

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