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第42話 終章、お金以外に興味ありませんから

 私は今、グレゴリアス領、グレゴリアス男爵邸の執務室にいる。

 領民から徴税した税の書類に集計。領主主導による公共事業の収支報告書、当家が経営する各事業の決算書類。


「ふぅ……まだまだね。でも、私が前世の記憶を取り戻してから八ヶ月。なら及第点か」

 

 領地経営としての赤字は脱出している。その点で言えば及第点。しかし、領民が豊かになったかと言うとまだまだ。就業率もまだ低く、雇用がない。それに貧民街と呼ばれる所もあるのが現状だ。これらに対する打ち手にはいくつか考えがある。


 一番大きいインパクトがある打ち手は、以前グレゴリアス領で見つかった鉱床。採掘設備を整えば、雇用も発生するし、輸出して領地の外からカネを稼ぐことが出来る。


 だけど……


「アニー様、お食事の準備が整いました。ダイニングへいらして下さい」

「わかったわ、ロベルト」


 公共事業としてやるべきは採掘設備、雇用の準備……うーん。


「アニー様、お食事が……」

「はーい」

「空返事はおやめなさい!」

「わっ! びっくりした。どうしたのロベルト。なにか用かしら?」

「お食事の時間です! ささ、行きますよ」


 半ば無理矢理にダイニングへと連れて行かれる。最近よくある光景だ。


「やっと来たか、アニエスカ。さあ、楽しく食事をしよう。春野菜を収穫したんだ」

「お父様が作った春野菜、もうそんな季節なのね。とっても美味しそう」


 父の趣味の菜園は屋敷が建っている敷地をどんどん侵食し、我が家は農園の様になっている。ここまで本格的にやるならば、別途農園を作るべきだ。


「最近、ずっと執務室に籠りっぱなしだねぇ。学院も急に退学しちゃったし」

「ヴァンドール経営サロンの会員になったから、もう学院には用が無いのです」

「でも、傘屋さんは続けてるんだろ? いいのかい? アニエスカが居なくて」

「傘屋じゃなくて傘メーカーよ。それは大丈夫。優秀な経営者たちが上手くやっているもの」


 アニー・アンブレラ商会は、ヴェロニカをシルビアとテレサがしっかりとサポートして、十分すぎる利益をだしている。高等学院との条件もすでにクリアしてしまったし、安心して任せていられる。


「ずっと籠もっていたから、久しぶりに足を伸ばしてヴァンドール領に行こうかしら」

 久しぶりに寿司も食べたいし。アニー・アンブレラ商会の皆にも会いたい。


 それに……うん。行こう。



 馬車に揺られること半日強、私は読書したり、資料見たり昼寝しながら馬車に乗っているだけでいいから気楽だ。それに比べてロベルトは大変だ。常に警戒しながら馬を御し、馬を休ませている間も野盗や山賊に襲われないように気を張り詰めている。


「ねえ、ずっと警戒してるの大変じゃない?」

「私は慣れてますから大丈夫ですが、普通の人間ならストレスで禿げますね」

「禿げ……というか、遂に自分が普通の人間でないのを認めたわね」

 

 現在、グレゴリアス領とヴァンドール領間に駅馬車のような乗合馬車は無く、馬車や荷馬車に何人もの護衛をつけて移動している。領内にあるリタの倉庫だって襲われるくらいの治安の悪さなのだから、移動だって命がけなのだ。


 

 日が沈んだヴァンドール領、中心地にほど近い飲食街の一等地。寿司ジョゼは今日も客で満席だ。私は二階にある自室だった部屋のドアを開けた。

 

「ジョゼさんったら……私の部屋をそのままにしておいてくれたんだ」


 食材や食器や調理器具を閉まっておく倉庫を他に借りているなら、この部屋を使えばいいのに。


 ガチャガチャ――

「ちょっと鍵開けっ放し? っていうか部屋に誰かいる!」


 勢いよくドアを開けて怒鳴るシルビアと目が合う。


「きゃー♡ アニーちゃん! 来るなら言ってよ、泥棒かと思ったじゃない」

「急遽思い立って来ちゃったから、ってなんでここに皆が?」

「ここね、アニー・アンブレラ商会の事務所として使わせてもらってるの」


 今日は一人でしっぽり寿司に酒を……と思っていたが、数カ月ぶりのこのメンバーも悪くない。私がグレゴリアス領に帰ってからの話を聞いた。定期的に送られてくる資料では把握していたけど、現場で起きたこと聞いて頭の中で追体験してみる。


 雨傘の色のバリエーションやデザインもラインナップが充実し、この春からブティックを構えてドレスの販売も始めるそうだ。リタが作った絹がついに再びドレスになって夜会で輝くのと思うと、胸がいっぱいになる。


 こうして考えると、私のやってきたことは間違えではなかったんだと誇らしく思えた。



 そして次の日、私が訪れた場所では……


 

「アニエスカ! 訪ねてくるなら予め言ってくれないか」

「ごめんね、ロメオ」

「お前がくるなら、もっといい服を着たのに」

「なんでよ! 別にアンタの服装に興味は無いわ」


 今回ヴァンドール領に来たのはロメオに話があったからなのだ。


「アンタのとこ、馬車の製造してたわよね?」

「ああ。しているな、ヴァンドールの主力産業の一角だからな」

「他の領との駅馬車ってあるでしょ?」

「ああ、交易都市だからな、陸路も海路も主要なところとは繋がってる」


 しかし、グレゴリアス領とは繋がっていない。だから輸送料が高くなるし、鮮度が命の品物の交易が活発にならない。

 

「グレゴリアス領との駅馬車とステーションを我が男爵家に独占させてもらえないかしら?」

「運輸関連は我が父、ヴァンドール侯爵の権限だが、進言することぐらいできるな」

「そう、それならば駅馬車の購入とメンテナンスは、全部アンタのところに任せるという条件で進言してくれないかしら」

「もちろんだ、アニエスカ! お前の頼みならなんでも聞いてやる」


 グレゴリアスとヴァンドールの領間が駅馬車で繋がれば、グレゴリアスの絹、水、鉄鉱石の交易が活発に鳴る。そして、ヴァンドールの新鮮な魚もグレゴリアス領に入ってくれば、寿司が頻繁に食べられる。


「アニエスカ、いつまでヴァンドールに滞在するんだ?」

「明後日には帰るわ」

「そうか、じゃあ明日は俺と出掛けようじゃないか。夜は食事して良いワインを開けよう」

「え? まるでデートじゃない。そんなの絶対いやよ」



 だって、私、お金以外に興味ありませんからっ――



 こうして、私の次なる挑戦、『貧乏貴族令嬢アニエスカの経営術、駅馬車作り編』が今はじまるのだった。



<了>

令嬢アニエスカの経営術【駅馬車作り編】

お読みいただきありがとうございました。すぐに新章の投稿ができればと思います。

ブクマと★評価よろしくお願いいたします。

がんばります!

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