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第41話 設立、アニー・アンブレラ商会

 「もし、学院長先生と私が決裂して、雨傘の製造販売事業をやらないと断固拒否したらどうなると思いますか?」

 学院長は肘を付く手の指を額に当て、目を細める。


「傘の素材、あの絹はグレゴリアス領主をしている実家から仕入れています。そう簡単に模倣できる技術のではありません」

 学院長の喉の奥から、微かに「うーん」と聞こえた。


「いくら学院の権限でも、無理矢理絹を仕入れさせろ、でなければ退学だぞ。とは行きませんよね」

 その場にいる全員が私から目を逸らし、沈黙を決め込む。もし学院という権力を振りかざしたら、こちらも領主という(破産寸前、没落寸前だけど)権力で対抗する気概を見せる。

 


「そうだ、アニー・アンブレラが一年間でどれくらい利益を出すか、予測できる人はいますか?」

 教師たちは各々の前に置いてある決算情報に目を通し、計算している。


 私は、一番早く計算する羽ペンを止めた教師を指さし、予測した答えを求める。


「一〇八万エウロだ。広告費、人件費を加味して……約一〇八万エウロだろう」

 他の教諭も頷いているところをみると、教科書通りに計算して算出したようだ。


「フフッ。甘いわね。一年後にはその三倍以上の利益を出すわ!」

「ば、バカをいうな! 経営学を理解していない学院生の拙い知識ごときで!」


 経営学ばかり勉強して、実際にビジネスをしたこと無い人達がよく言うわ。三ヶ月目に出した利益を一二ヶ月に横引きしただけじゃない。アップセル、クロスセル戦略、市場の拡大を加味すれば実際は三倍どころではない。が、今から更に交渉する手札を切るなら、予測よりネガティブな数字を出しておいたほうが良いだろう。


「より高額商品、ドレスやコートなどの商品展開、さらには他の領への輸出も実施してまいります。それならば三倍で収まるかしら、もっと利益を出してしまうかも知れませんね」


「そんなこと、学院生が出来ると思ってるのか?」

「お言葉ですが、学院ならそれが可能だと?」

「……」


 まずい、ちょっと煽り過ぎてしまったかしら。


「なので、条件付きならば、いかがでしょう? 一年間後、一〇八万エウロ以下の利益ならば、学院にその経営権を譲り、私達が従業員として働く。という条件」


 学院長が深く考え始めた。周りの教師はただそれを黙ってみている。


 さあ、飲め! 学院長ならばこれがどれほどの利益を学院にもたらすかわかるはずだ。


「……わかった。その条件で契約をしよう」


 全身の毛穴が開く感覚。この感覚……気持ちいーっ

 私はポーカーフェイスで学院長の言葉に頷く。



 本来私が事業資金の一部、もしくは現在の企業価値の八割を支払わないといけないのだけど、そこはまだ株式の概念が成熟していない世界。ごりごりに利益が出ていくる事業を、無償譲渡で手に入れてしまった。それがまた嬉しくて嬉しくて、卑弥呼の格好をして踊りたい気分だ。


「というわけで皆! 無事アニー・アンブレラの経営権は私達が握ったわ」

「すごーい、アニーちゃん! もう最高すぎて大好き」

「大好き度で言ったら私の方が上♡」

「私……感激で、涙が……えーん」


 戦いから威風堂々と帰ってきた私を、皆が英雄のように称える。いま、この瞬間を絵画にしたら私はさながらジャンヌ・ダルクね。

 その後、私達が大宴会に興じたのは言うまでもない。皆でジョゼ自慢の酒コレクションを次々と空ビンにし、ジョゼの顔が真っ青になったのはいい思い出になるだろう。悪ノリからロベルトの上裸を再び見られたことは眼福で、酒の肴として大いに盛り上がった。


 

 後日、アニー・アンブレラはヴァンドール領で会社登記しアニー・アンブレラ商会となった。これからは高等学院の教育の一環での免税は一切なく、一事業者として登録する必要があったからだ。学院との条件をまとめた契約書もしっかりと作成し、契約を締結。


「え……えぇぇ? わ、私……が、商会長ですか? いいんですか?」


 商会長、日本で言う社長に任命されたヴェロニカが驚愕している。


「これは私達三人の満場一致の意見なの」

「でも……なんで……私なんてデザインしかできないし」

「前に言ってたでしょ? もっと可愛い傘やドレスを作りたいって。アナタのヴィジョンに共感したのよ」


 勿論、ヴェロニカ以外もアニー・アンブレラの発展を願っているし、全力で邁進する思いだ。シルビアはそのコミュニケーション能力の高さを更に高めて経営サロンで何かを成すのが目標。テレサは経営学を極め経営能力を伸ばすことが目標だ。アニー・アンブレラを愛し、アニー・アンブレラが世の中に溢れるヴィジョンが一番強いヴェロニカが商会長に適任だ。


 こうして、学院生活を送りながらアニー・アンブレラ商会の経営をする、大忙しの日々が始まるのだった。


 私はというと、実は既に次の事業の準備を少しずつ始めていた。

 皆が、これ以上忙しくしてどうするの? 体壊すよ! と言うけれど、私は一切耳を貸さない。



 だって、私、お金以外に興味ありませんからっ――



 

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