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第40話 対決、アニー・アンブレラの権利の取り合い

 この日、私は授業の後に担任のラファウ主幹教師に呼び止められた。


「えー、アニエスカ君、今日の放課後職員会議室に来なさい」

「内容によります。何の御用でしょうか?」


 私は内容もわからないものに呼び出されたり、誘われたりするのが嫌いだ。前世ではスマホなんてものがあったから、その類の誘いが多い多い。「来週水曜の19時お時間ありますか?」。こういった物だ。


 空いてるけど、内容次第だ! アポの取り方下手くそかよ!


 辟易。これを思い出してしまい反射的にラファウ主幹教師に対して学院生ごときが生意気な口を聞いてしまった。


「……えー、アニー・アンブレラの今後の運営についてであーる」

 来たか、この話題。ちょうど、こちらからもその話をしたいと思ってた。


 きっと事業継続の話だろう。現在経営権は一〇〇%学院側にある。アニー・アンブレラは爆発的に売れていて、利益も多い商品。言わばドル箱、金のなる木、打ち出の小槌だ。学院としてはアニー・アンブレラの経営ノウハウ、取引先、リソースを根こそぎ奪いに来るはず。


 さて、どうやって戦うべきか。


「ねえ、皆聞いて。今日の放課後、学院側と今後のアニー・アンブレラの経営について話し合うんだけど……」

 私はシルビアたちに、現状がどうなっているか、このままだとどうなるかを説明する。

 

「エクイティ? そんなの習ったっけ? 難しい話しはわからないけど、私としてはアニー・アンブレラを私達の手で続けたい。もっと世の中にアニー・アンブレラを広めたいわ」


 エクイティ(株主資本)なんて勿論、授業では習っていない。一企業一オーナーが基本のこの世界で株式の概念が無いからだ。世界初の株式会社東インド会社が設立されたのは、一六〇〇年代。この世界の発展具合を鑑みて、少なくとも二〇〇年は先の概念だ。


「アニー先生の説明で理解した♡ エクイティの考え方では複数オーナーというのもありなのね」

 さすが才女テレサ。完全に理解している。


 今回の着地点は、オーナーシップを学院側より多く取得すること。五一%で経営権、三四%で拒否権。拒否権に関してはこの世界はほとんど意味をなさないだろう。


「わ、私は……もっと可愛い傘を……いえ、傘だけじゃなくて服も……ドレスも作りたい」

 控えめで受け身だったヴェロニカが、なんてヴィジョナリーな考えを持っていたなんて。


 たしかに、グレゴリアスの絹を使った商品は傘だけにとどまらず、多くの可能性を秘めているだろう。防水という分野でも、いずれゴムが輸入されるようになればレインコートだって、馬車の幌だって、船のマストだって革新的なものが出来るはず。


「みんな見ている方向は同じね! わかったわ、この交渉は私に任せて!」



 いざ、戦場へ。強い意志と信念で学院側をギャフンと言わせてやるわっ――



 職員会議室の分厚いドアが立ちはだかる。この扉の向こう側でこれから繰り広げられる攻防を想像すると、武者震いをした。


「アニエスカ君、どうぞお掛けなさい」

 学院長だ。進級式の時に壇上の学院長を遠くから見ただけだが、近くで見ると意外といかつい顔をしているというか、威厳がありそうな雰囲気を醸し出しているというか。


 学院長の隣にはラファウ主幹教師、その他の教師たち合わせて八名。こっちは学院生一人に対して八人とは……随分と身構えているじゃないか。


「えー、アニエスカ君を呼んだのは他でもない。アニー・アンブレラの今後についてであーる」

 ラファウ主幹教師がファシリテーターをする。

 

「今回の経営術オリンピアの優勝おめでとう。君たちの事業はとても優秀で今後、このヴァンドール領の発展にも大きな功績を残すだろう」

 学院長が手を組みながら、労いの言葉を言う。


「通常であれば、事業を解散し精算するわけだが、アニー・アンブレラに関しては継続したいと考えている」

 それはそうだろう。ドル箱なのだから学院としては喉から手が出るほどほしいに決まっている。


「そこでだ。今後は君たち四人にしっかりとした報酬を出す、全員学費免除。この条件でアニー・アンブレラの運営を続けてみないか?」

 随分とショボい条件を提示してくれたものだ。ヘソで紅茶が沸くとは当にこのことだろう。


「学院長、そのご提案ですが、条件がショボすぎて話にもなりませんわ」

「「「なっ」」」

「アニエスカ・グレゴリアス、学院長先生になんて不敬な!」


 まわりの教師たちが総立ちするほど憤慨している。


「では、逆に私から提案させていただきますわ。今後発生した利益、その二割を学院に上納いたしましょう」

「ふざけるのも大概にしろ、アニエスカ君。二割だと?」


 学院長の(ひたい)には怒りマークが見えるほどだ。

 

「学院長先生、税金のように何もしないで利益を徴収できる立場を想像してみてください」

「税金……決算資料を開示するということか?」

「ええ、勿論です。さらに、三ヶ月毎の四半期での決算情報をお出ししますわ」

「それならば、経営状態の把握はできるが」


 さすが経営粋が集まった高等学院の学院長、株主配当の原理を理解しメリットを何パターンも想定しているのだろう。


 

 私は、ここから学院長を始め雁首を揃える教師たち相手に、更に畳み掛ける。

 

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