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第33話 覚醒、チート能力〝経営ゾーン〟

「ごめんくださーい。ヴァンドール高等学院二年Bクラスのシルビアと申します」

「いらっしゃませ。お嬢様たち、経営術オリンピアの件でいらっしゃたのですか?」

「ええ、そうですの。私達、予選で一位通過いたしましてね、今回この商品を」


 シルビアが説明用に持参した雨傘を開いた瞬間、店主が気まずそうな顔をする。変な空気なのを察しながらも一通りの商品説明を終え、仕切価格の話へ。売値となる上代の参考価格に対して十分と利益になる卸価格。更に早期契約特約として更に一割を差し引いた五割だ。真っ当な商人ならばこの条件に、文句を言うものはいないだろう。


 しかし、結果はすべて契約に至らなかった。


 

 ◆ ◆ ◆


 

「そうだったのね。ね、えシルビア。なぜ契約しないかはヒヤリングしたのかしら?」

「勿論よ、相手の〝()()を聞く()()()になる〟が私のモットーだもん」

「そうよね、で、原因は何だったの?」

「それが、頑なに教えてくれないか、話を逸らされるの……これじゃお手上げよ」


 こういう場合には大体裏がある。


「まったく、なんでなのよぉ!」

「そんなの決まってるじゃない。ロメオたちに先に唾つけられたのよ」


 同じ商品を同じタイミングで発売するなら、相手を蹴落とす方法はいくらでもある。ましてや領主の息子というアドバンテージがあるならば尚更だ。私でも同じことをする。


「〝同じ商品を学院生が持ってきたら、断ってくれ。取引をしたら、家賃を倍にするぞ。条件を飲んでくれたら仕入れ代は我がヴァンドール家からキックバックしよう、何せ俺は領主の息子だからな。ハッハッハー! 〟十中八九こんな感じでしょうね」


「わー、ロメオが言いそう!」


 昔、前世で〝B to Bビジネス・トゥー・ビジネス〟をやった時をやった時に政治家がらみで同じことされたことを思い出した。たしか、あの時は……


「ウヒヒヒ! 私、思いついちゃったよー! 皆、安心して! 私達が絶対に勝つっ!」

 

 この閃きは偶然ではない、たまに降りてくるヤツだ。いままでの経営の経験から来るこれは経営者として長年培ったセンスなのだ。


「アニー先生♡ 早くその秘策を教えて下さい。私、我慢できない♡」

「まあ、待ちたまえテレサ君。色々とシミュレーションしてから皆に共有するから」

「アニーちゃん、勿体ぶらないで教えてよぉ。先っぽだけでいいから!」

「待て待て、忘れる前に考えたいの! 皆はお寿司を適当に食べたらさっさと帰って!」

「ひ、ひどい……扱いです……が、お寿司は、いただき……ます」


 一人になり、部屋の灯りを消す。光源はデスクに立ててある小さな炎のオイルランタンだけ。

 

「さあ、スペシャル集中モード〝経営ゾーン〟に入るぞ」

 

 私は、追い詰められた時、ウルトラCを決めないといけない時にこの状態になりやすい。まるでこれから起こる未来が映画のように脳内に流れ込んでくる、ファンタジーなスキルだ。長年の経営者としての経験から、その精度はもはや予知と言っても過言ではない。


 ――――――

 ――――

 ――


 店舗開拓できなかったアニエスカたち。どちらにしても納品が間に合わないので、彼女たちは急遽戦略を変えた。ターゲットを小売店ではなく飲食店にしたのだ。


 飲食店はなるべく仕入れを押さえたい。というのも、棚管理という概念がこの世界の飲食店には無いからだ。


 この世界の飲食店は、早朝、前日の売上金を握りしめて市場へとでかける。その日の予約状況や客入りの予測から食材の仕入れをする。冷蔵庫なんてない世界だ。ロスが出ないように最新の注意を払って一エウロだって無駄にしないように心がけている。


 小売店と違って月単位でお金を回すのでは無いのだ。


 では、そんな飲食店で雨傘が売れるシチュエーションってどんなものだろう? 食事をしていたら、急に雨が降ってきた。


「今日に限って雨が降ってくるなんて、お気に入りの服なのに」

 客は、雨が止むという希望にすがり、店に長居する。


 雨が降り、服が濡れるとすぐにカビてしまう。ハットを被っていても、型が崩れる。この世界はなにかと服に関する手入れが大変なのだ。


 すると、困るのは飲食店。追加注文がない客が席を占領すると、店の回転数が著しく落ちる。席数が決まっている飲食店は限界売上が顕著に出るのだ。


 そこに颯爽と現れる、四人の学院生。

 彼女たちは、傘立てに並ぶ雨傘を二人がかりで運んで店の中へ入ってきた。


「やぁやぁ、店主。この傘が入っている傘立てを、雨が降った日に会計台の横に置いてみませんか?」

「いやいや、ウチは物売りはやらないんだ。仕入れ代を圧迫したくないからね」

「なに、仕入れてくれなんて言っていやしませんよ。委託販売をして欲しいのです」

「い、委託販売? お嬢さんたち、それは何だい?」


 店に傘を置いてもらう段階では金銭のやり取りはない。客が傘を買ったら分だけお金を貰うシステムだ。一〇〇エウロの傘が一つ売れたら、店には二〇エウロ払う仕組みだ。

 

「雨が降って、長居するはずの客が傘を買って出ていってくれる。一つ売れたら二〇エウロ貰えるだって? そんなの断る理由がみつからないよ」


 ――

 ――――

 ――――――


 脳内に再生されていた映画が終わる。

 

「ふぅ……完璧っ」


 小売の店舗が開拓できなかった。

 納品する雨傘の生産が追いつかない。

 焼き菓子屋の〝お菓子くじ〟でガチャガチャのような委託販売すればいいというアイデア。


 私の〝経営ゾーン〟の中で、すべての点が一つの線に繋がった瞬間だった。

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