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第3話 到着、ヴァンドール侯爵領

「更に一〇〇〇万エウロ? お嬢様。自分が何を仰っているかわかってるのですか?」

「ええ、もちろんよ」

「無知にも程がある、いくら貴族でこの領の領主だからってそんな横暴は聞けません」

「まあ、落ち着きなさい。条件付きでの融資よ」

「条件? お聞かせ願えますか」


 食いついた。どうやらこの世界の金融業は信用取引。担保という概念が無いらしい。

 領土はすべて王国のもの、貴族は領主として領地を治めているだけだし、もちろん平民が土地を保有するなんてこともない。

 したがって、不動産担保などというものも存在しない。


「もし、返済が一日でも滞ったら、グレゴリアス男爵家が持つ税の徴収権を御行に差し出そう」

「なっ! 領主特権である税の徴収権の譲渡なんてできるわけがない」

「まあ、お聞きになって下さいな」


 この国の税の仕組みはこうだ。

 領民は自分の収入の三割から最大で六割を税として領主に納める決まりだ。この割合は領主が決めることが出来るのだ。集まった税の三割を国に納め二割を領主の取り分とする。余った五割の税で、道路を作ったり、森を伐採するなどの公共事業を行うのだ。


「この領地の年間の税収をご存知ですか?」

「いえ、納税は直接領主であるグレゴリアス男爵家がなさるので、詳細はわかりかねますが」

「八〇〇〇万エウロよ」

「は、八〇〇〇万……ということは、グレゴリアス男爵家は税の徴収で一六〇〇万エウロも」


 そう、グレゴリアス男爵家の税収は年間一六〇〇万エウロあるのだ。しかし、お人好しでお金にだらしないポンコツの父のせいでその税収は一瞬で溶けているのが現状だ。


「徴税業務として、当家がもらい受ける二割の半分を委託費用としてお支払いするのが条件よ」

「ということは、年間八〇〇万エウロ」

「その通り。今回の融資額と合わせると一七〇〇万エウロ。二年とちょっとで回収できるわよ」


 考え込む銀行の職員。脳みそをフル回転させているようだ。


 「アニエスカお嬢様、わかりました。如何せん前例のないことなので、上司に相談させていただきますが、前向きに検討させていただきます」


 銀行職員は大急ぎで銀行へと戻って行く。見送る後ろ姿はこころなしかスキップしているようにも見えた。



 父がそわそわしている。

 

「アニエスカよ、いくらなんでも大事な税収の一割を銀行へ渡すなんて。そんなことになったら領地の経営が……」

「相変わらずポンコツね、お父様。渡すわけないじゃない!」

「ポ、ポンコツ!? いや、嘘を付いたのか! さすがにそれは許されないぞ」

「違うわよ。返済期限なんて一秒たりとも遅れやしないってこと」


 私を誰だと思ってるの! 日本一の経営者よ。

 借り入れた資金を元手に、秒で再建してやるわ!


 予想通り、銀行の決済は無事に下り、その日の夜、十人の警護を引き連れた銀行職員が一〇〇〇万エウロ分の金貨を持ってきた。

 条件付きの借入証文に父がサインをし、これで金銭消費貸借契約は無事完了した。


「アニエスカ、お前の交渉力は凄いな。父……感動。そうだ、今日はパーッとお祝いを」

「借りたお金で宴会してどうするのよ、家の収益が黒字になるまでお預けよ」

「むぅ、ぐうの音も出ないよ。トホホ、父……落胆」


 

 次の日、遂に婚約者――ロメオ・ヴァンドールの屋敷に出向く日が来た。


 ロメオ・ヴァンドール――貴族院の議員も務める大貴族、ヴァンドール侯爵家の長男だ。絶大な父の権力を笠に着るドラ息子。私の令嬢友達の中でも悪名が高い、女癖が悪くて馬鹿でクズでカスである。


 もし、前世の記憶が戻らなかったら、父の言いつけ通り結婚していたと考えると身の毛がよだつ。


 父と執事のロベルトと私。四頭の馬が引く馬車に揺られ二日かけてヴァンドール領へ向うのだ。

 家にいる馬は二頭。見栄を張るために父がもう二頭の馬を借りてきた。

 

「ああ、領地経営のタスクが山ほどあるっていうのに、面倒くさいわ」

「そんな事、言うもんじゃないぞアニエスカ。無事結婚したら一生安泰だ」

「お父様? 私、結婚なんてしないわよ」

「な、なに冗談を言っている。せっかく良い家柄の令息を見つけてやったというのに」

「見つけてやったですって? お金目当てでしょ? 五〇〇万エウロだっけ?」

「ゴホン、えー、それはまぁ。なんというか、副産物てきな……」


 私とロベルトが冷たい視線を送るとバツが悪そうに窓の外を眺める父であった。

 この父親、本当にポンコツだ。でも憎めないのよね。優しくて性根はいい人だもの。


 ヴァンドール領に着いた頃には夜中になっていた。ずっと馬車を引いていた馬たちの汗は泡立つほど、びっしょりとしていた。


「ご苦労さま、本当はもっと休憩させてあげたかったけど。ごめんね」

 厩舎でぬるま湯を用意してもらい、体を綺麗にしてあげていると父が呼びに来た。


「アニエスカ! お腹が減ったね。馬と遊んでないでご飯にしよう」

「チッ……」

「えー、舌打ち!?」

 

 ポンコツめ……そういうところだ。前言撤回。父は性根も腐っている。


「お父様、馬の世話を手伝いなさい。ご飯はその後よ」

「えー、そんなの厩舎の者に賃金を渡してやらせればよいではないか」

「手伝わないなら、私はこのまま家に帰りますよ?」

「そんな、それではヴァンドール公爵に対して私の面子が潰れてしまう」

「チッ……」

「あー、また舌打ちっ。父……落ち込む」


 この日、無理矢理父を手伝わせ、明日のヴァンドール侯爵との対決に備えて寝ることにした。


 対決。そう、絶対に婚約破棄に持っていってやる――!!





―― 

あとがき


読んでくださりありがとうございます!

『落ちぶれ令嬢の経営術!』 お楽しみいただけましたか?


わぁ面白いわよー! 続き読みたいわよー! と思ってくれましたら

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