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第29話 外出、双子と買い物

 ガンガンガンガン――

  ガンガンガンガン――

   ガンガンガンガン――


 このドアノッカーの叩き方。あの子達ね。早朝に鳴り響くこの音を聞くとグ、レゴリアス領に帰ってきた実感が沸く。


『おはようございます! 領主様、お給料お貰いに来ました』

 『お金くださいー』


 ベッドの中にいても響き渡る大声、まるで借金の取り立てね。

 父を起こしに行こうかと自室を出と、珍しい光景が目に飛び込んでくる。いつもならボサボサの寝癖に浮腫んだ顔で目を擦っているはずの父が、さっぱりとした顔で廊下を歩いている。


「おはよう、アニエスカ。随分と早起きだねぇ」

「う、うん。ドアノッカーがうるさくて」

「あはは、あの双子たちは元気だからねぇ。もう一眠りしたらどうだい?」

「え、うん。お父様はなんでこんなに早くに?」

「ああ、庭の菜園の水やりさ。ちょうど秋ナスがいい感じなんだよねぇ」

 

 あの怠惰で凡愚な父が……なんて健康志向に。首にかけたタオルが馴染んでいるし。


「あ、アニーお嬢様だ」

 「お嬢様だー」

「久しぶりね。今日もアニーさんのところでお仕事かしら?」

「今日はお休みなのです」

 「なのですー」


 顔色が良くなったし不健康に痩せていたけど、随分と健康的に見える。きっと、ちゃんと仕事をして食費を削ったりする生活から脱出できたのね。

 

「そう、もし暇だったら一緒に街へ買い物をしに行かない?」

「なんか買ってくれるですか?」

 「買ってくれるなら行くですー」

「相変わらず、たくましいわね……」


 まあ、いつも絹づくりを頑張ってるご褒美だ。たまにはこういうのも良いだろう。

 私と双子は馬車の手入れをしているロベルトを待ってから、四人で屋敷を出た。


「あなた達はなにか欲しいものあるのかしら?」

「ロザリアは撚糸の時に使う、糸切りナイフが欲しいです」

 「ナタリアは織物の時に使う、糸切りナイフが欲しいですー」

「あなた達……」


 てっきり自分の洋服や嗜好品かと思ったら、仕事道具を欲しがるなんて。職人としての器になってきたのね。


「よし、その職人魂、恐れ入ったわ! とびっきり上等なナイフを買いましょう!」

 

 この街には腕の良い鍛冶屋の親子がいる。野鍛冶(のかじ)仕事だけでなく彫金もやってのける職人で、私のティアラもその鍛冶屋で誂えた。



 鍛冶屋からは金属を力強く叩く音が漏れている。鍛冶職人は割と歳を取っている印象だったが、この音を聞けば、まだまだ長く現役でいるだろう事がわかる。鍛冶場に併設されている店舗へ入ると、息子のカミルが品物の埃をはたいていた。


「こんにちは、ごきげんよう」

「あ、アニエスカお嬢様! ご無沙汰しております」

「カミルさん、お久しぶり、相変わらず背が高いのね」

「ええ、この身長のお陰で上の方の商品の掃除も楽でございます。今日はどのようなご要件で?」


 店に並べてあるナイフを眺める。芸術とも言える美しい刃に柄の彫金が素晴らしい。これらの刀剣バージョンを貴族や王族に売り込んだら儲かりそうだ。


「わあ、このナイフいいな」

 「綺麗な刃ですー」

 

 双子たち、お目当てのナイフが見つかったようだ。ロベルトは双子が手に取るナイフを覗き込むと、鋭い目をした。


「むむ、カミル殿。この鋼材……どこのですか?」

 そうか、元々剣士だったロベルトだ。刃物の類には詳しいのだろう。


「わかります? 流石だなあ。最近、親父が近くの山で偶然、鉄鉱石の鉱床(こうしょう)を見つけたんですよ。その質がとっても良くて。だから親父のヤツ、最近は鍛冶場と鉱床を行ったり来たりですよ」


 まさかグレゴリアス領で鉱床が見つかるなんて。これはいい。採掘場を作れば……


「ふふ……ふふふふ」

「ア、アニエスカお嬢様、急にどうなされたのですか」

「あ、私ったら、みっともない笑いを。カミルさん、オホホ、ごめんあそばせ」

 


 双子たちご所望のナイフを購入し、街を歩く。

 私の目当ては焼き菓子屋。お母様の作るクランペットのティーテイムをなんとか豊かなものにしたいのだ。


 グレゴリアス家が運営しているパン屋が目に入る。

 

「客足は……酷いわね。ロベルト、テコ入れしないと潰れるわ」

「え、ええ。アニー様がお時間があるときに、ご指示いただければ動きますので」


 このパン屋は私が幼少の頃に、母の趣味で始めた店だ。

 あの酷いクランペットを作れるような母が作った店なら、流行らないのは火を見るより明らかである。


 当該のパン屋の隣にある焼き菓子屋。ここが私のお気に入りだ。気さくでユニークなおじさんが営むこの店は、いつ行っても飽きることがない。


「おじさん、お久しぶりです」

「おお! アニエスカお嬢様じゃないか。久しぶりだね」

「お母様とのティーテイムの焼き菓子を買いに来たの、オススメはあるかしら」


 お勧めの焼き菓子を購入し、お釣りを受け取る。


「アニーお嬢様、これなにです?」

 「箱に番号が書いてあるですー」

「ああ、これね。ここのおじさんが考えた〝お菓子くじ〟よ」


 一エウロ払うと、くじが入っている箱から札を引ける。そして該当する番号のお菓子が貰える、という買い物に付いてきた子供が楽しめる物だ。


 なんか、カプセルトイのガチャガチャを思い出す。


「そうだ! おじさん、このお菓子くじを色んなお店においてもらったら、補充するだけで儲かるんじゃない?」

「ははは、別に設けたくてやってるわけじゃないんだ。それに焼き菓子だから日持ちしなくて補充がめんどくさいよ」

 

 それもそうだ。

 いつか玩具事業を始めたら試してみるのも良いかも知れない。

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