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第27話 逆風、プレゼンテーション

「こちらの一見、大きな日傘雨の日に使います。雨を通さない素材で出来ているのです」

 会場のあちこちから驚きに声が沸く。絹に油を塗った防水性の素材、実用的な大きさ、完璧にパクられた。


「さらに、ねじりながら閉じることで、ステッキとしても使えるデザイン」

 ヴェロニカのアイデアまで完全にコピーしている。きっと私達の傘を作った木工職人のおじさんが製作したものだ。


「あのジジイ、やってくれましたわね。アニーちゃん、あとで放火しに行きましょ」

「アニー先生、実行犯は私に任せて。木材がいっぱいあるからよく燃えそう」

「わ、私も……何か、て、手伝えることがあれば……」

「こらこら、物騒なことはやめなさいって。パクられる程度の事は想定済みよ」


 マッシュアップ(組み合わせ)によるビジネスモデルは研究開発が短い。それはメリットと同時に競合の参入障壁も低いというデメリットもある。ビジネスが飽和した現代日本ではよくあることだ。既存の技術やコンテンツを使っているため特許も取りづらい。商品やサービス名で商標登録するくらいが関の山だろう。だから、マーケティングや顧客満足度にリソースを割くのだ。


 今回の傘のようなものだって、他社のオリジナル製品を製造する業者にOEM発注をすることが多い。今回は企画やデザインは私達が主導で行ったが、これもOEMに該当する。

 OEMメーカーは、一度作ったノウハウがあるから他の企業に似たようなものを提案することもできる。これを企画から商品開発、製造までおこなうODM(オリジナルデザインマニュファクチュアリング)なんて呼ぶ。


「以上、私達のプレゼンテーションでした。ご清聴ありがとうございました」

 ロメオが深々と頭をさげると、会場中から拍手喝采。まるで優勝が決定したかのようだ。


 次の発表者は私達だ。

「さて、皆。多分、会場は変な空気になるよわ。覚悟しておいてね!」

 


 壇上に上がり、プレゼン資料を広げと、この感覚に株主総会を思い出す。

 あれは本当に苦痛だった。株主総会直前まで資料の作り込みで徹夜が続く。業績が良い時は穏やかな顔をしている株主だが、少しでも業績が落ちると鬼の形相をする。新規事業を始めれば赤字を掘ることなんて常識だし、世界情勢や感染症の流行など外部要因があれば仕方ないのに。


「アニエスカ・グレゴリアス、以下三名。プレゼンテーションを始めます。今回私達が企画したのは、奇しくも先程のチームと同じもの。雨傘です」

 私は、二本の傘を取り出し開いて見せる。男性用の黒い傘と女性用の淡いピンクの傘だ。


 会場は予想通りどよめく。そして一人が発した野次が伝播し、荒れた海の様にブーイングがうねりだす。


「人のアイデアを盗むな! 引っ込め」

「そんなことしてまで優勝したいのか! 卑しい奴らめ」


 罵声を浴びせられる様をニヤニヤとほくそ笑みながらロメオが見ている。本当に小憎たらしい男だ。こんなことなら、婚約破棄の時、もっとコテンパンにしておけばよかったと心底思う。


「ヴェロニカ、シルビア。アレを!」

 私の合図で彼女たちは丸めてある、模造紙のような大きな紙を二人がかりで広げると、会場は静寂を取り戻した。


 プレゼン資料だ。プロジェクターが無いこの世界では、皆が口頭でプレゼンテーションをしている。どうすれば人に伝わるかを、ひたすらに研ぎ澄ませてきた私のプレゼンテーション能力を見せつけてやるわ。


 「こちらの図を御覧ください。この設計図はチームメンバーのヴェロニカとテレサが描いたものです」


 図には、開閉機構とボタンによるステッキへの変形機構。絹のオイルスキン加工の工程が記されている。


「こちら、特に防水素材に関しては製造した木工職人もしらない内容です。これ鑑みれば、私達が先程の雨傘を模倣、盗作したものではないことが証明できるはずです」


 会場の人たちが小声で隣の人と話し出す。「これって盗作したのはロメオじゃないのか?」。多分そんな事をささやきあっているのだろう。


 ひっくり返したわ。


「そして、この製品を世の中に広めるためのプロモーションにも秘策があります! それは……」

 会場中の人が私の次の言葉に注目している。しかし。


「それは今は秘密です。この予選を通過し、本選のプレゼンテーションをお楽しみにして下さい」


 決まった。


 それは、観客の目を見ればわかる。そして、ロメオのチームのプレゼンテーション以上の鳴り止まぬ拍手が証明している。


 壇上から降り、席に戻る途中にロメオの視線を感じた。歯ぎしりをしながらおでこに怒りマークが見えるようだ。


「パクるなら、徹底的にパクらないと。相変わらず詰めが甘いわね。ボンクラロメオ君」

「き、き、貴様ぁぁ!」


 ロメオの叫び声は、未だ止まぬ拍手にかき消されるのだった。



「アニーちゃん! すっごーい! 私、感動しちゃった」

「わ、私も、震え……ちゃいました」

「さすが私のアニー先生です♡」

「だれが、アンタのアニー先生よ……テレサ、暑苦しいから離れて」



 この日、私の部屋では打ち上げの寿司パーティーが開催された。


「アニー先生、さっきのプレゼンで言ってた、プロモーションの秘策、教えて下さい♡」

「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれたテレサちゃん。その秘策とは……」


 三人がゴクリと生唾を飲む。


「今から考えるのよ! あははは」

「「「え……」」」



 そう、ハッタリだったのだ。

 

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