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第25話 構想、絹の雨傘

「この世界、ビニールなんて無いわよね」

「ビニール? なんですかアニー先生ビニールって、エッチな響き♡」

「テレサ、アンタ変わったわね、初対面の冷徹キャラはどこに行ったの?」


 テレサの私に対するデレ感が加速している。彼女曰く、〝自分より知識のない者に人権なし〟という信条らしく、彼女にとって私は神らしい。

 

 今、私達は傘の材質に悩んでいる。既存の日傘は開閉式で、フレームの素材は違えど現代日本のものと構造は変わらない。以前、寿司ジョゼの寿司桶を作ってくれた木工職人に、日傘より大きめのフレームの試作品の依頼をした。


 問題は、布の材質だ。ビニールなんて勿論無いし、日傘で使う薄い木綿の布は、船の帆の様にオイルスキン加工を施しても雨が染みてしまう。



「アニー様、ただいま戻りました」

 グレゴリアス領から帰って来たロベルトが水の入った二〇〇キロ以上ある樽を抱えている。


「お帰りなさい……って、あなた一体どんな筋肉をしてるのよ」

「不肖、ロベルト。ここに来て筋力が増強されたようです」

「齢五十にして、第三次性徴来たーっ! もはや化け物ね」

 

 寿司ジョゼが相変わらず大繁盛なのは嬉しいことなのだが、水問題にも頭を悩ませている。グレゴリアス領に流れる軟水が決め手だからだ。今は、定期的にロベルトが運んでくれているが、彼もこれからどんどん忙しくなっていく。こうなったら駅馬車でも作ってやろうかと思うくらいだ。

 

「それと、これ。リタからです。新しく導入した撚糸機械で作った絹だそうで」

「もう絹を生産し始めているのね……って、なにこれ!」


 驚いた。元々キメ細かい絹だったが、更に細かく真珠のような光を反射させている。

 絹というものは綿よりも吸水性に優れているので、雨傘の素材としては鼻から除外していた。しかし、これほど密度の高い絹ならばオイルスキン加工すれば十分に実用レベルの防水性があるのではないだろうか。


 「これはもはや新素材よ! 皆、この絹で傘を作りましょう!」


 方向性は決まった。経営術オリンピアの予選ピッチ大会までに試作品を作り、本選までにプロモーション方法をブラッシュアップする。



 私はこの事業プランに自信があった。自分が審査員でも合格点。いや、むしろ今すぐに自分の資本で始めたいレベルなのだから。

 滞り無く試作品が完成し、予選当日を迎えた。


 コストの算出はテレサ、傘のデザインはヴェロニカ。完璧な状態で三日間に及ぶ予選が開会される。


 私達の出番は三日目。一応ほかの学院生たちのピッチも観戦しているのは、将来有望な人材に目をつけ、唾を付けたかったからだ。しかし、期待外れな程低レベルなプレゼンの連続で、興味が唆られないプレゼンは私の子守唄になるのだった。


「ねね、アニーちゃん起きて! アニーちゃんの大嫌いなロメオのプレゼンが始まるよ」

「ん、んん。あんま興味ないんだけど」


 どうせ、アイツのことだ。大した事業プランじゃないだろう。けど、一応聞いておいてやるか。


「二年Aクラス、ロメオ・ヴァンドールです。プレゼンを始めます」

 自信満々の顔。このボンクラのどこからその自信が湧いて出るのかが不思議だ。


「今回、我々は、人々の生活を豊かにするアイテムの制作、販売の事業プランを作りました」

 果たしてどんな物を作ろうとしているのか。陳腐で凡愚なものだったら大笑いをしてやろう。


 私は、この男を見くびっていた。


「今回私達はが制作するのは、こちらです! この試作品を御覧ください」


 目を疑った。全身の毛穴が開いたような感覚に襲われる。

 


 ロメオが手に持っていたのは、私達が試作したものとほぼ同じ、雨傘だったのだ。

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