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第22話 才女、テレサからの挑戦

 シルビアは暗算で難問を解いたという噂を聞いて、私のことを探していたのだという。


「経営術オリンピア、私と一緒に出ない?」

「え、本当に? でも、なんで私と? なにか企んでない?」

「もちろん、企んでるわ。ヴァンドール経営サロンに入会するためよ」


 領地経営、商会経営をする者ならば誰しもが入会したいヴァンドール経営サロン。調べたところ女性の会員は数名、莫大な資産を持つ大貴族の未亡人や豪商の女性商会長だ。こんなアイドルみたいな子が一体何のために、このサロンに入りたいのだろう。


「まあ、いいわ。とにかく今は私と組んでくれるだけでもありがたいもの」

「うふふ。よかった。他にアテはある?」

「いいえ、誰もいないわ」

「なら、あと二人ね。私、狙ってる子がいるの。今から誘いに行きましょ」


 シルビアという子、なんだか既視感があるわ。

 そうだ、前世で私の会社に居たトップ営業の人材だ。彼はシルビアと違い男性だったが、物怖じしない性格、このグイグイと牽引していく感じ、当にそっくりだ。


 彼は採用人事も兼任していたが、人を見る目、口説きのテクニックたるや、とても華麗で鮮やかだったと記憶している。


「私と同じ二年B組の子なんだけどね、ほら、あの子よ」

 シルビアが指差す教室の最前列のど真ん中に居たのは、ショートカットのメガネっ子。背中を丸くして分厚い本に齧り付くように読書をしている。


「目ぇ近っ! 目が悪くなるわよ」


 私の声に気づいたその子は、本を閉じこちらを向きメガネを外した。


「私になにか用?」

 鋭い眼光でこちらを睨んでいる。


「テレサちゃん、今お話しいい?」

「ダメ。見てわからない? 今、読書中」

「そっか、テレサちゃん勉強好きだもんねぇ。そうだ、試験勉強はしてる?」

「試験に興味はない。私は知識が欲しいだけ」


 すごいわね、シルビア。話しかけるなって断られてるのに会話してる。これは天性の営業パーソンね。


「知識が欲しいの? 経営術オリンピアに出てみない? 新たな知識が獲られるかもよ」

「興味はある、でも一緒に出る友達いない」

「テレサちゃん、貴女ツイてるわ。ちょうど一緒に出る友達がいない子がいるのよ」


 シルビアが私に手招きをしている。


「紹介するね、アニエスカちゃんっていうの。先生でも計算が難しい問題を暗算しちゃう凄い子なんだよ」

「む、この女、先生より頭いいの?」

「そうよ、もしかしたらテレサちゃんより頭いいかもねぇ。うふふ」


 テレサがその悪い目つきで私を舐め回すように見る。

 

「頭良さそうには見えないから信じられない。ただの美女にしか見えない」

 なんて失礼なことと嬉しいことを同時に言う子なのだろう。


「じゃあさ、テレサちゃん。アニエスカちゃんのこと試してみれば?」

「わかった、最近先生に聞いても納得のいかなかった事があるから、それを解説してみて」

「いいわね、なんだか勉強バトルみたいねワクワクしちゃう。ね!いいでしょ、アニー」


 いつの間にか愛称で……。凄いコミュ力ね。


「昼休みが終わっちゃうから放課後でよろしければ」

「わかった、放課後にまた来て」


 

 テレサか。シルビアも大概だけど、彼女とは正反対のクセ強めキャラね。

 授業の合間にシルビアが私の教室にやってきて、テレサの情報を教えてくれた。彼女は王都にある商会の末娘で、シンプルに知的好奇心のみでこの高等学院へ入学した。試験を真面目にやれば確実にAクラスに上がれる知力があるのに、落第しない程度の点数を取ると残りの試験を欠席するらしい。


 そんな彼女がわからないこと。一体どんなことなのだろう。

 高等学院の教科書は全部目を通したけど、さして難しいものは無かったから解説できないものは無いはずかだけれども。



 放課後、テレサとシルビアの教室へと向かった。

 

「じゃあ、そこの女。早速いい?」

「女って……まぁ、呼び方はどうでもいいけど」


 テレサは会計学の専門書を開くと、決算に関する図を指さした。

 

「T字勘定について解説して。貸方と借方は同じになるけど、実際の事業に当てはめるとどうしてもずれる」

「え? テレサちゃん、知らない単語が三個以上あるわ、質問の意図がわからないわよ」

「バカのシルビアは黙ってて。そこの女に聞いてるの」

「バカですって? キーッ」


 なるほど、教科書の内容じゃなくて専門書の内容なのね。

 T字勘定。たしかバランスシート(貸借対照表)の元となった会計の仕方ね。


「実際の事業に当てはめた、と言うけど、何に当てはめたの?」

「交易と小売をする、一般的な中規模商会。私の実家に当てはめた」

「なるほどね。そのT字勘定はある?」

「うん。これ」


 差し出された資料を見てみる。

 驚いた。租税公課や利息までちゃんと入れてあるじゃない。この子、現代日本でも十分通用する知識を持ってるわ。


「あなた、凄いわね。きっと高等学院へ入る前は、ご実家の商売を手伝っていたのね」

「うん。会計の資料は全部覚えてる」

「よし、じゃぁこのアニエスカ先生が教えてあげましょうかね、と言いたいところだけど。テレサさん、実は貴女、ほぼ答えにたどり着いてるのよ」


 テレサは資料を見つめると、再度、私を睨む。


「あ、私のこと疑ってるわね。もういいわ。答えを言うわね。【資産】を固定資産と流動資産に、【負債】を固定資産と流動資産に分けてみなさい」

「固定? 流動? 定義は?」

「一年以内に現金化出来るものは流動資産。出来ないものは固定資産。負債はその逆よ」

「一年以内に返す銀行から借入……あっ♡」


 テレサが変な声を上げて、わなわなと震えている。

 うんうん、疑問が理解できたときの気持ち良い感覚はわかるわ。

 

 それにしても理解の早い子だ。ちょっとコミュニケーションを取るのには苦労しそうだけど、もし経営術オリンピアのチームに加わってくれたら、相当な戦力になりそう。


「アニー先生、天才! 好きです♡」

 テレサが涙を浮かべ、私に抱きつく。


 なんだ、この急なキャラのギャップは……


「アニーちゃん、これで残りはあと一人ね!」

「う、うん。でもその前に、この子を私から引き離して……」


 結局、私から離れないテレサは寿司ジョゼの二階(私の自宅)まで付いてくるのだった。

 

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