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第21話 危機、経営術オリンピア

「クビは酷いですぅ……ヒック、明日からどうやって生活すれば……ヒック」

「可哀そうだが、ロメオ様に粗相してしまったんだ……ごめんよ、他の職を探してくれ」


 泣きやまない店員の娘に料理長が言う。


「そこの貴女、こっちにいらっしゃい! ワインで濡れて風邪引くわ」

 私は娘に優しくタオルを渡すと、店の中の更衣室へと連れて行った。


「災難だったわね。かわいそうに」

「いえ、あたしがワインをこぼしたのが悪いのですぅ」

「いえ、あんな店で働いちゃってたことが災難だったわね、と言いたいの」


 聞けば、出稼ぎでこの街に来て実家に仕送りまでしているらしい。頑張っている人が報われないこの世界……いや、それは日本も同じだったか。どこの世界もこズルくて、小賢しくて腹黒い人間がいい思いをする。


 その全てに当てはまる私が、こういう頑張っている子に救いの手を差し伸べなければ。

 ワインで服までびしょびしょだ。しょうがない、この店のユニフォームを着させるしかないわね。


「この服って、お嬢様が着ているのと一緒……」

「ええ、サイズもピッタリ。よく似合ってるわ。さて、今からウチの店で働きなさい」

「ええーっ、でも、バイトが勝手に人を雇っていいのですかぁ?」

「私はね、この店のオーナーよ! ジョゼさんから買い取ったの」

「買い取ったって、だってまだジョゼさん、この店で料理してるですぅ」


 理解できないのもしょうがない。オーナーシップ――権利の譲渡での買収はこの世界では類を見ないのだ。買収にも色んな種類がある、M&Aの概念が無いこの世界、意外とチョロいかも知れない。

 

 「あたし、ウルスラと申しますぅ。これからよろしくお願いしますぅ」

 

 これで従業員も確保できた。見た目も良いし客受けするだろう。

 棚ぼただったわ。ボンクラのロメオに感謝しなくては。

 

「ふふふ 待ってなさい。向かいのマルイル商会のレストランも直に買収してやるわ」

「お、お嬢様、邪悪な顔しているですぅ」



 ビジネスは計画通りうまく行っているのだが、一方、学院生活では困ったことが起きている。


「えー、来月行われる、経営術オリンピアですが、参加する学院生は四人組を作り参加申請するのであーる」


 ヴァンドール高等学院で一番盛り上がるというこのイベント。学院生たちが四人一組で経営に関する様々な課題をこなして、学院一位の座を狙うという催しだ。優勝したチームには、〝ヴァンドール経営サロン〟と呼ばれる、この領地のハイソサエティ達が集まるコミュニティへの参加が許される。


 このサロンの参加者は有力貴族や豪商など、カネとコネの宝庫なのだ。私が学院へ編入したのもこのサロンに入るのが一番の目的だった。領地だけではなく、国の政策にまで意見が通ってしまう、日本で言う()()()みたいなものね。


 私のビジネス、グレゴリアスの領地経営、果てはこの国で一番の経営者になるために利用しない手はない。だから、このサロンの登竜門である経営術オリンピアで、なんとしても優勝しなければならないのだ。


 だけど。


「私と組んでくれる友達がいないのよぉぉ」

 

 学院生食堂で一人ぽつんと頭を抱えていると、ニヤニヤ顔のロメオが取り巻きを引き連れてやってくる。


「おい、アニエスカ。お前経営術オリンピアの仲間が見つからないんだって?」

「ふん、アンタには関係ないでしょ。ほうっておいてくれないかしら」

「哀れだな。お前が学院生に声を掛けては撃沈してるのを見て、笑い者にしてたんだ」

「相変わらず、随分といい性格してるわね」


 ロメオめ、コイツは絶対にコテンパンにしてやる。私は追い詰められて力を発揮するタイプなのよ。


「アニエスカ。土下座して靴を舐めたら俺達のチームに入れてやらないでもないが?」

「おいボンクラ、あんまり調子に乗るなよ? どつき回すわよ」


 ロメオの胸ぐらを掴み、鬼の形相で睨みつける。

 冷や汗を流しながら目を逸らすロメオは、私の手を払い除けてその場を去っていく。


「ふん、小心者のふにゃチン野郎め。覚えてやがれ」

「あれが例の転入生? やっぱり怖い人なのね……」


 その様子を見ていた学院生たちのヒソヒソと囁く声が、あちこちから聞こえる。

 しまったー。更にチーム集めがしづらくなってしまったわ!


「オホホ、オホホホ。それでは皆さんごきげんよう」

 私は食べかけの昼食のトレーを持ち上げて、そそくさと逃げ出した。



 最悪だ。経営術オリンピアで負けるならまだしも、参加すらできないなんて事態になったら、退学して実家に帰るしか無いわ。

 中庭のテラスのテーブルで突っ伏してうなだれていると、一人の女子学院生が声を掛けてきた。


「貴方が噂のアニエスカちゃんね」

「ん? そうよ。そういう貴女はどちら様かしら」

「私は二年B組のシルビア。ルードヴィング子爵家の三女よ」


 まるでアイドルのような艷のあるツーサイドアップ。小柄なのに見事に実った胸。モテに極振りしたような女の子だ。


「細い腰ね……どっかに、あばら骨を二本落としたのかしら? ここには無いわよ」

「うふふ。アニエスカちゃんって噂通り面白い方ね。気に入ったわ」

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