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第17話 新章、高等学院編のプロローグ

 夏が訪れ、グレゴリアス領の木々の葉も青々と力強く茂り風に揺れる。新緑の桑の葉を食べる蚕もきっと、すくすくと成長していることだろう。


 視察のためロベルトが御する荷馬車で領地のあちこちへ行くと、夏の装いをした領民たちも日々の営み勤しんでいる。

 

 

「リタさん、新しく導入した設備はいかがしら?」

「あら、アニーお嬢様、いらっしゃい。最新式はすごいわ、早く稼働させたいものです」


 蚕室から出て来たリタが溌剌とした顔で出迎えてくれた。彼女の後から桑の葉が入った箱を抱える双子も駆け寄ってくる。


「お嬢様たち、ティータイムにしましょ。アルベルトー、アンタもおいで!」

 リタの呼びかけに大きな荷物を運んでいたアルベルトが私に気づき会釈をした。

 


 グレゴリアス家から投資した八〇万エウロ、日本の価値にして八〇〇〇万円で、撚糸の機械や機織り機の増設、作業所の増築をした。これであと二〇人は従業員を雇えるだろう。

 ロザリアとナタリアも適材適所、技術を学び着々と成長しているとのこと。アルベルトに関してはまるでリタの息子のように……こき使われている。


「今日は、ここに流れる小川の上流で水を汲もうと思って、ついでに寄ったのですわ」

「だから今日は樽を乗せた荷馬車で。そうだ、アルベルトに手伝わせましょう」

「ありがとうございますリタさん。助かりますわ」


 二二五リットルの樽に水を入れたら二七〇キロぐらいの重さになる。ロベルト一人では大変だろう。それに荷運びに関してはアルベルトはプロだもの。


「ロベルトもいい歳だからね」

「何を言うんだ、リタ。まだまだ樽の一つや二つ余裕だよ」


 ロベルトは強がってそう言うが、ぎっくり腰になってもらっても困る。


「ロベルト、やっぱり一人じゃ持ち上げられないわ。ここはお言葉に甘えましょう」

「アニー様、本当に大丈夫なんですけれど」


 

 清流に着くと早速、手桶を使って水汲み作業をし、樽は綺麗な軟水で満たされる。

 驚いたのはロベルトが本当に一人で、満杯になった樽を荷馬車に上げたことだ。きっと、独りじゃ持ち上げられない、といった私の言葉が原因だろう。


「ロベルト……あなた意外と負けず嫌いなのね」

「いいえアニー様、有言実行しただけでございます」



 夜、いつもどおり家族での食事の時間が訪れる。


「お父様、お母様。アニエスカは明日からヴァンドール領に住もうと思います」

「えぇ? ロメオとの縁組を再度復活させようと思っているのかい」

「そんなわけ無いでしょ! ポンコツ脳みそ!」

「ひえぇっ」


 私の目的は、ヴァンドール領立高等学院への編入。アルベルトの話を聞く限りこの学園で高度な教育、それを受ける有能な学生が多い。私自身、学ぶことがあればいいけど正直、そこは期待していない。


 有能な学生、この世界の経済会てきな人物とのコネクションを得るためというのが目的だ。


「アニエスカがそう言うなら、私達は応援するよ。さっそく推薦状を」

「推薦状はいらないわ。ちゃんと真正面から編入試験を受けます」

「まかりなりにも領主である私の推薦状があれば試験は受けなくてもよいのだよ?」

「私、特待生枠で行くの。授業料なんて払いたくないもの」


 

 こうして、九月に始まる学院生活に向けた私の熱い夏は始まるのだった。

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