第2話:男装の陰陽師は半妖を拾う?1
暇つぶしにお読みいただけたら幸いですm(__)m
次の日の昼下がり。
僕は夜刀と一緒に、都の東市へ足を運んでいた。
昨日の襲撃で霊符をがっつり消耗しちゃって、材料を補充しなきゃならなかったんだ。
市はいつも通り活気にあふれてて、露店がズラリと並び、人の波にのまれそうになる。
威勢のいい掛け声に、商人と客の押し問答、荷馬車のきしむ音――
そんな喧噪が、都の日常って感じで、ちょっとだけ安心する。
「主、こちらに霊符の材料を多く扱う店がございます」
夜刀が人混みの中をスルスルと抜けて、道を切り開いてくれる。
いやほんと、頼れる式神である。
彼の後ろをついて歩いていたら、不意に前方の広場から怒鳴り声が響いた。
何だろうと思って足を速めると、人だかりができていて、
その中心で役人がひとりの少年を取り囲んでいた。
少年はまだ若い。十三か十四くらいかな?
着古した藍色の小袖を着て、手には干し果実の袋。
……って、それ盗んだやつじゃん。
黒髪はぼさぼさ、目はギラついてて、何より――左の頭に、小さな角が一本。
「半妖……か」
夜刀がぽつりと呟いた。その声に、かすかな哀しみがにじんでいた。
人でも妖でもない、どっちつかずの存在――
半妖。彼らは、どちらの世界からも疎まれて生きる運命にあるらしい。
夜刀も、人ではないから……何か感じるところがあったんだろう。
「こらっ、小僧! 盗みに刃向かいだと⁈ 許さんぞ!」
役人のひとりが太刀を抜いて、少年に向かって怒鳴っている。
他の役人も威圧的に囲んでいて、傍観する野次馬たちの目も冷たい。
でも、少年は全然怯えてなかった。
むしろ、挑発するようにニヤリと笑って、役人たちを見返している。
「腹が減ってたんだ。仕方ないだろ? それに、先に手を出したのはそっちじゃないか」
年のわりに妙に達観した声だった。
達観っていうか、もう色々と諦めちゃってる感じ。
「問答無用! 捕えろ!」
役人たちが一斉に動いた、その瞬間――
「お待ちください」
僕は声を張って、人垣をかき分けた。
「何者だ、貴様!」
睨まれたけど、こっちはちゃんと陰陽師の装束着てるし、
気合い入れて威厳あるっぽい佇まいを心がけた(つもり)。
そしたら、案の定ちょっとだけたじろいでくれた。よし。
「陰陽寮所属の安部朔夜と申します。この少年が盗みを働いたのは事実かもしれません。でも、まずは事情を聞いてからでも遅くないでしょう?」
僕の視線は、少年へと向かう。
紫の瞳が、一瞬見開かれた。かなり警戒されてる。
いやもう、全力で敵認定されてる感ある。
「陰陽師様が……こんな穢らわしい半妖を庇うとは!」
周囲からも、「半妖だって」「気味悪っ」とか、そんな声が上がる。
そのたびに、少年の顔が歪んでいく。拳が震えているのが、痛々しいほどだった。
「半妖だろうと、理由も聞かずに断罪するのは早計です。まずは、話を」
毅然と、真っ直ぐに。
できるだけ偏見のない目で彼を見た。
「君、名前は?」
返事はない。
僕を睨みつけるその瞳に、人間に対する不信感が渦巻いていた。
「……」
「話す気はなさそうだね。……じゃあ、代金は僕が払おうか」
そう言って懐に手を入れると、少年は鼻で笑った。
「偽善者ぶるなよ、人間。そういうの、いちばん嫌いなんだ」
「偽善か。うん、そうかもね」
僕はあっさり認めて肩をすくめた。
その反応に、ちょっと面食らってる。よし、揺さぶれてる。
「でも、お腹が減ってるなら、偽善でも食べた方がいい」
「……何か裏があるんだろ⁈」
少年が叫ぶと同時に、黒い妖気が彼の足元から立ち昇った。
空気が一気に重くなり、ざわめきが走る。
「ほう、なかなかの妖力。だが……白昼堂々とは困ったものだな」
夜刀が一歩前に出て、圧を放つ。
圧倒的な霊気に、少年はビリッと怯んだが、すぐにまた反抗的な顔になる。
「邪魔するなよ! アンタら人間なんかに、ボクの気持ちがわかってたまるか!」
そして、懐から苦無を抜き、僕に向かって飛びかかってきた。
「おっと」
動きは素早いが、ギリギリで回避。ちょっと本気出さないとやばそうだな。
「聞くだけって言ってるのに、なんでそうすぐ刃を向けるかな?」
「うるさい! 信じられるわけないだろ!」
少年の攻撃は執拗で鋭い。
なるほど、これはかなり場数を踏んでる。
……この歳で、どれだけ過酷な世界を生きてきたんだろう。
「仕方ない」
僕は袖から符を取り出し、唱える。
「――縛!」
光の縄が少年を絡め取り、動きを封じる。
妖力ごと、封じ込めるように。
「離せよっ! なんなんだよ、これ!」
「ちょっと落ち着こう。でないと――」
「グルルル……」
そのとき、市場の片隅から現れたのは、獣型の妖魔。しかも、八体もいる。
おいおい、昼間に大集合ってどういうこと!?
「くっ……こんなときに!」
縛られたままの少年が苦い顔をしたのと同時に、最初の妖魔が役人を襲う。
もし楽しんでいただけたら、ブクマや下の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎で評価していただけると、ありがたいです。