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転生陰陽師は男装少女!?~月影の少女と神々の呪い~(ライト版)  作者: 水無月 星璃
終章:新たなる世界、選ばれし未来

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第1話:男装の陰陽師は神々の終焉を見届ける1

本当に長かった姉様との戦いが、やっと、やっと終わった。


月神ツクヨミの力を全部解放した僕――朔夜によって、ボロボロになった世界はちゃんと再生されていた。

一度死んだ大地には草木が生い茂り、瀕死だった生き物たちも息を吹き返した。


金烏京の上空には、雲ひとつない真っ青な空が広がっている。

瓦礫の山だった街にも、活気のある声とトントンカンカンっていう槌の音が響いている。

みんな、平和が戻ってきたことを喜んでる。

降り注ぐ太陽の光はぽかぽかしてて、頬をなでる風も優しい。


だけど……僕にはわかった。

この平和な景色の中に、まだ消えていない小さな「染み」があるのが。

放っておいたら、せっかくキレイになった世界を、また真っ黒に塗りつぶしちゃうような、嫌な気配。


(……まだ、全部は終わってないんだ)


僕の隣に立つ姉様も、同じことを感じていたみたいだ。


「……しぶとい奴め」


吐き捨てるような声。

でも、昔みたいに傲慢な響きはない。

むしろ、自分がやらかしちゃったことの後始末に対する、苛立ちと責任感みたいなものが滲んでる。


「行くぞ、ツクヨミ」

「はい、姉様!」


力強い声に頷くと、姉様は僕を見て少しだけ表情を和らげた。

呪いから解放された姉様は、もうピリピリしてない。

その金色の瞳には、世界を照らす神様らしい優しさと、深い後悔の色が静かに浮かんでいた。


(姉様も、苦しんできたんだ……)


壊しかけたこの世界を、今度こそ絶対に守る。

そんな強い意志が、横顔からビンビン伝わってくる。


口を引き結んでズンズン歩き出す姉様を、僕は小走りで追いかけた。


「姉様……」


気負い過ぎてる感じが心配で、隣に並んで顔を覗き込む。

昔は憎まれて、嫉妬されて、その視線にビクビクするだけだったのに。

今はただ純粋に姉様を心配してるなんて、なんだか不思議な感じ。

でも、嬉しくもある。


僕の気持ちが伝わったのか、姉様の強張っていた頬が、ふっと緩んだ。


「大丈夫じゃ」


そう言って笑った顔は、僕がずっと、ずーっと焦がれてきた、優しいお姉ちゃんの顔だった。



***



僕たちが向かっているのは、都から少し離れた森の奥。

そこに、忘れ去られた古い祠があって、最後の「染み」はそこから発生しているらしい。


森に一歩足を踏み入れると、ひんやりとした空気に変わった。

ジメッとした土と、苔の匂いがツンと鼻をつく。

進めば進むほど、空気がどんどん重くなって、肌にじっとり纏わりついてくる感じ。


「……酷い怨嗟の気配じゃな」


姉様は不快そうに眉をひそめた。

太陽の神様である姉様にとって、このドロドロしたマイナスのオーラは、生理的に無理なんだろうな。

でも……。


「私には……なんだか、すごく悲しい声に聞こえます」

「……なに?」


姉様が少しだけ目を見開く。


「見捨てられちゃったものたちの……泣き声みたい」


姉様は何も言わずに前を向いた。

でも、その口元がほんの少しだけ、嬉しそうに綻んだのを僕は見逃さなかった。


僕の月の力は荒ぶる魂を鎮められるものなんだけど、その方法は、奥底に秘められた哀しみに寄り添って癒すって感じなんだ。

だから、僕は誰かの哀しみに敏感なところがある。

それは、正義の名のもとに力で全部をねじ伏せようとしてきた姉様にはない力。

かつて姉様は、僕のこの力を妬んでいた。

でも、微笑んでくれたってことは、今は誇らしいと思ってくれてる……のかな?


そうだったら良いな、なんて思いながら歩いていると、苔だらけの鳥居が見えてきた。

その奥の祠はボロボロで、後ろにある洞窟を隠せてすらいない。


真っ黒な洞窟の入り口からは、邪悪な空気が陽炎みたいに溢れ出ていて、空間がぐにゃぐにゃに歪んで見える。

普通の人が一歩でも入ったら、魂ごとドロドロに溶かされちゃいそうだ。


僕と姉様は、それぞれの神気でバリアを張って、慎重に洞窟の中へ入っていった。

洞窟の突き当りは、ちょっとした広間になっていた。


「ここが一番奥みたいだね、姉様」


僕が呟いた声に反応するように、広間の真ん中に集まっていた闇が、もぞっ、と蠢いた。

そして、ゆっくりとこっちを向く。


「来たか。忌々しき姉妹神よ」


闇の中から聞こえてきたのは、カサカサに乾いた、気味の悪い声だった。

現れたのは、骨と皮だけみたいに痩せこけた、おじいさんの姿をした神様。

でも、その窪んだ目だけは、消えない恨みの炎で赤黒くギラギラ燃えている。


「やはり、そなたか……ヤソマガツヒ」


姉様の目が、抜き身の剣みたいに鋭くなった。


ヤソマガツヒ――穢れから生まれ、(わざわい)を司る厄神。

僕たちの父様、イザナギが生み出した神様の一人だけど、禍の神様っていう理由で追放されてしまった存在だ。


彼の後ろには、同じように不遇をかこってきた元神様たちの気配が、ゆらゆら揺れている。

彼らは、姉様が正気を失っている隙に、この世界に隠れ家を作って、復讐のチャンスを狙ってたんだ。


でも、ヤソマガツヒ以外の者たちは、もう正気じゃなさそうだ。

彼の背中に隠れるようにして、虚ろな目で唸ってるだけ。

見た目はすっかり妖魔そのもの。

神様だった頃の面影なんてどこにもなくて、なんだかすごく哀れだった。


「よくも我らをこのような場所に追いやり、永きにわたり蔑ろにしてくれたな!」


憎しみのこもった言葉が、呪いになって僕たちに降りかかる。


「イザナギの寵愛を一身に受け、光り輝く玉座に座るそなたらには、この闇の底で生きる我らの苦しみなど、万分の一もわかるまい!」


だけど、姉様は静かにそれを受け止めた。


「そなたたちの恨み、わからぬでもない。じゃが、その個人的な怨念で、再生されたばかりのこの世界を再び穢すというのなら、容赦はせぬ」

「一度その手で壊しておきながら、どの口が言うか!その恵まれた立場から引きずり降ろしてくれるわ!」


ヤソマガツヒが獣みたいに吼える。

でも姉様は全然気にしてない様子で、ふう、と息を吐いた。


「……恵まれた、か」


その声は、なんだかすごく寂しそうだった。

姉様は、今にも襲いかかってきそうなヤソマガツヒを威圧しながら、不意に僕に視線を向けた。

その瞳は、迷いで揺れているみたいに見える。


何だろう。

言いにくいことでもあるのかな?


「ツクヨミ。そなたに、話しておかねばならぬことがある。……父神イザナギのことじゃ」


姉様の決意に、洞窟の空気がビリッと震えた。


「現世に顕現する前に、妾は……イザナギを常世へと追放した。神々の長たる父を、母神イザナミが支配する、あの死者の国へとな」

「……え?」


僕は息を呑んだ。


父神イザナギの追放。

それは、神様の世界のルールを根っこからひっくり返す、絶対にやっちゃいけない大罪だ。


「なんで、そんなことを……」

「あやつは、妾に『完全なる太陽神たれ』とだけ命じ続けた。妾がどれほど世界の安寧に尽くしても、どれほどその威光を高めるために努めても、褒めることも、労うことも、一度としてなかった」


その声は、太陽神のものじゃなかった。

ただ、お父さんに認めてほしかっただけの、一人の女の子の悲しい叫びだった。


「あやつにとって子は……己が創りし世界を、意のままに永続させるための駒でしかなかったのじゃ。父に愛されたかった。ただの一度で良い、『ようやったな』と、その頭を撫でて欲しかった。じゃが、その目は妾を世界統治のための機構(システム)の一部としか捉えていなかった……」


姉様はもう、イザナギ父様を「父」って呼ばなかった。


「そなたの持つ静謐なる美しさと才能に嫉妬したのも、元を辿ればあやつが原因よ。あやつが、妾にない輝きを持つそなたに目をかけ、己の駒としての価値を見出すことを、妾は心の底から恐れていた。妾の存在価値が、そなたによって脅かされることが、許せなかった……」


その告白は、ナイフみたいに僕の胸に突き刺さった。


知らなかった。

姉様が、そんな孤独と絶望を抱えていたなんて。


そして、その心の闇に、悪い神様たちが呪いの種を植え付けて、育てて……。

全ての元凶は、あまりにも傲慢で、自分の子供を道具としか見なかった父様にあったんだ。


でも、それは僕にも覚えのある感情だった。

ツクヨミはアマテラス姉様の影となることでしか、存在を許されなかった。

父様が僕を真っすぐに見れくれたことなんて、ただの一度もなかった。

その寂しさと虚しさを思い出して、胸がチクリと痛んだ。


姉様も、同じだったんだね……。


「……故に、妾はイザナギを常世へと送った。このまま利用され続けることに耐え切れなくなったのじゃ。母神の元を選んだのは、それが奴にとって最も屈辱的な罰であると知っていたからじゃ」


姉様が僕の額にそっと指を触れる。


「妾が見届けた顛末を、そなたにも見せよう」


その瞬間、僕の頭の中に、鮮烈な映像が流れ込んできた。

これは……姉様の記憶?

ここまで読んでくださってありがとうございます!

本作は同タイトルの通常版をベースに、文体をライトノベル調にリライトした“別バージョン”です。通常版はカクヨム様とnoteに掲載中。noteは一部有料でSS(キャライメージイラスト付)付いてます。※2話まではSSも無料で読めます!


もし楽しんでいただけたら、ブクマや下の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎で評価していただけると、ありがたいです。

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