第2話:男装の陰陽師は愛と悲しみを知る2
「あとがきカオス会議」あります!
姉様は慈しむように僕の名前を呼んで、穏やかに微笑んでる。
「姉様……」
僕は思わず手を止めた。
姉様の瞳はまだ焦点が合ってなくて、完全に正気に戻ったわけじゃなさそう。
油断すれば、次の瞬間には殺されるかもしれない。
でも、その瞳は、僕の向こうに、確かにツクヨミの姿を見ているようにも思えた。
姉様は微笑んだまま、ゆっくり僕に近づいてきて、その白い手で僕の頬を優しく撫でた。
懐かしい温もりに、胸が締め付けられる。
一緒に綺麗なタカマガハラを眺めて、どうでもいい話で笑い合った日々。
温かくて、幸せだった記憶が、涙と一緒に溢れてきそうになる。
(ああ、姉様……)
もし、この呪いを解けなかったら、僕はこの優しい姉様を、この手で斬らなきゃいけないの?
そんなの、絶対に嫌だ。
僕は、姉様の手の上に自分の手を重ねて、そこから僕の神力を少しずつ流し込んでみた。
月影刀に頼らなくても、僕の浄化の力なら、もしかしたら呪いを中和できるかもしれない。
その、ほんの一瞬の迷いが、命取りの隙になった。
「主、いけません!」
夜刀の絶叫が響いて、僕ははっと我に返る。
姉様の表情は、また醜い憎悪に歪んでいた。
そしてその両手は、容赦なく僕の首に食い込んでいた。
「……くっ……!」
「……ツグナエ」
「……姉様……! 正気に、戻ってください……!」
ありったけの力でその手から逃れて、僕は必死に訴える。
でも、その声は届かない。
(諦めるもんか……!)
迷いを振り払って、僕はもう一度月影刀を構え直し、猛攻を仕掛けた。
僕の気迫に、さすがの姉様もじりじりと後ずさる。
そして、初めて姉様の顔に、焦りのような色が浮かんだ。
(いける……! このまま押せば!)
勝利は目前。
そう思った、その刹那。
姉様の全身から、黒い瘴気が爆発みたいに噴き上がった。
「大神の呪い」が、完全に暴走したんだ。
その凄まじい力は、雅姐さんの力がギリギリで保っていたこの幽玄領域そのものを、内側から破壊しようと膨張していく。
ミシミシ……パリンッ!
空間のあちこちに亀裂が走って、硬いガラスが砕け散るような音が響き渡った。
「しまった……!」
この力が外に漏れたら、金烏京どころじゃない。
この世界が終わる。
茫然とする僕の目の前で、呪いの力は、この決戦の舞台を木っ端微塵に破壊し尽くした。
***
幽玄領域が壊れると同時に、姉様の瘴気が黒い濁流となって現実世界に溢れ出した。
それはもう神様の力なんかじゃない。
世界そのものを殺してしまう、猛毒だ。
崩壊した空間から正陽殿の庭に叩きつけられた僕と夜刀は、想像を絶する力で暴走する太陽神を前に、ただ立ち尽くすしかなかった。
「このままじゃ、全部……終わる」
僕の唇から、絶望の言葉がこぼれた。
世界が、仲間たちが、僕の愛する人たちが、みんな妖魔になって、人の世界は終わってしまう。
その光景を前に、僕は静かに心を決めた。
僕の命と引き換えに、この世界を救う。
あまりにも残酷で、無茶な選択。
でも、僕にはもう、それしか残されていなかった。
全身が悲鳴を上げても、魂が砕け散っても、もう迷いはない。
「夜刀……」
僕の静かな呼びかけに、彼は全てを悟ったみたいだった。
「いけません、主! それだけは!」
夜刀が必死に叫ぶけど、僕の決意はもう変わらない。
僕が決めたのは、自殺行為と同じ、禁断の術。
人間の体のまま、月神ツクヨミの力を限界まで解放して、僕の魂そのものを燃やす最後の秘儀。
自分の魂と神様の核を全部融合させて、たった一度だけの奇跡を起こす。
そうすれば、僕が司る浄化と再生の力で、穢された世界を元に戻せるはずだ。
でも、その代償は、僕の存在そのものがこの世界から消えること。
「止めないで、夜刀」
僕は静かにそう告げた。
どこまでも固い意志を込めて。
そして、今までで一番綺麗に見えるように意識しながら、彼に微笑みを向けた。
ごめんね。
君を一人にして、ごめん。
「──我が身に宿りし神核よ、我が玉を喰らいて、ただひと度の奇跡を起こせ……魂核融合」
唱えた瞬間、人間の器には耐えられないほどの力が、僕の体を内側から焼いて、軋ませる。
骨が砕けて、血が沸騰するみたいな激痛。
でも、術は止めない。
光の粒が、僕の体から立ち上り始める。
体がどんどん薄くなっていく中で、僕は最後の力を振り絞って、僕の忠実な式神に、僕の……大切な人に、もう一度微笑みかけた。
「夜刀、ごめんね。……あとは、頼んだよ……」
それが、僕の最後の言葉だった。
次の瞬間、世界はまばゆい銀色の光に包まれた。
【あとがき】
カオス会議:第10章第2話「男装の陰陽師は愛と悲しみを知る」編
登場人物
真白:現場の特攻隊長。結界術も得意で攻守に隙が無い天才陰陽師。おお、第10章にして初めてまともに褒めたかも(笑)
玄道:元陰陽頭の大罪人。実力は言わずもがな。本気出したら脱獄できるレベル。朔夜への執着は健在。
牢屋番のおじさん:たまたま当番だったためにとばっちり喰らった可哀想な人。かあちゃん怖い。
牢屋番の若者:可哀想な人その2。真面目くんが報われますように。
★今回は都合により省略した(通常版には記述あり)、真白が玄道を脱獄させるシーンを「カオス会議版」に修正してお届けします! 朔夜と夜刀が幽玄領域でアマテラスと戦っている裏でのお話です★
真白 (歯噛みしつつ):
「くそっ!妖魔多過ぎだろ!埒あかねえ!……あいつだけは頼りたくねえけど、仕方ねえか……」
牢屋番のおじさん (暇そうにあくびをしている):
「ふわあああ……。外は何やら騒がしいみたいだが、ここは平和だねえ」
牢屋番の若者 (しかめっ面で):
「気を抜きすぎですよ。何があるかわからないんですから」
牢屋番のおじさん (肩をすくめつつ):
「へいへい、お前さんは真面目だねえ。ここは地下だし、強~い結界の中なんだから、大丈夫だって」
真白 (ドタバタと派手な足音を立て、バーンと扉を蹴破って派手に登場):
「ぜえぜえ……げ、玄道はどこだあああああ!!」
牢屋番のおじさん (腰を抜かして):
「うわあああ!な、何事だ!?妖魔か!?妖魔の襲来か!?」
牢屋番の若者 (腰が引けつつも槍を構えて):
「お、落ち着いてください! お前は何者だ!?」
真白 (二人を睨みつつ):
「陰陽寮の、賀茂真白だ。勅命を受けて、藤原玄道の身柄を預かりに来た(ウソだけど)」
牢屋番のおじさん (立ち上がりつつ):
「勅許!?大変だ、すぐに案内する!」
牢屋番の若者 (訝しんで):
「待ってください。勅許状は?」
牢屋番のおじさん (目を見開きつつ):
「お、おお。お前冷静だな。勅許状を提示してくれ」
真白 (しれっと):
「今は一刻を争う。それは後だ」
牢屋番の若者 (更に訝しんで):
「怪しいですね」
牢屋番のおじさん (頭を掻きつつ):
「悪いね、兄ちゃん。規則なもんで」
真白 (イライラしつつ):
「くっ……融通利かねえなあ……仕方ねえ、強行突破するしか……」
玄道 (奥の牢屋の中から優雅な声で):
「……相変わらず騒がしいな、賀茂の」
真白 (ハッとして):
「玄道!……あんたは相変わらずスカしてやがんな」
玄道 (からかう様な声で):
「朔夜の腰巾着が、一体何用だ」
真白 (仏頂面で):
「誰が腰巾着だ! ……なんて悠長に言ってる場合じゃねえんだよ! 力を貸してくれ」
玄道 (呆れつつ):
「やれやれ。それが人にものを頼む態度か?」
真白 (焦りつつ、ズカズカと玄道の牢屋の前に進み):
「罪人が何言ってやがる。本当に時間が無いんだ!」
牢屋番の若者 (憤慨して):
「お、おい、お前たち!何を勝手に話してるんだ!」
牢屋番のおじさん (オロオロしつつ):
「ちょっと、ちょっと!勝手に困るよ……」
玄道 (牢屋番‘sを無視して、ちょっと愉しそうに):
「……ふん。アマテラス様がご降臨なされたのだろう」
真白 (牢屋番‘sを無視して、真剣に):
「分かってるなら協力しろ! これは、朔夜のためだ」
玄道 (眉をピクリと動かしつつ):
「……彼女の、指示か?」
真白 (舌打ちしつつ):
「……そうだ! 不本意この上ないがな!」
玄道 (不敵に笑いながら):
「よかろう。だが、この借りは、高くつくぞ」
牢屋番の若者 (真白の後を慌てて追いかけてきて):
「お、おい!無視するな!」
玄道 (ござの下をゴソゴソして大量の式符を出して):
「……ふむ。これだけあれば。」
真白&牢屋番の若者 (驚いて):
「「はあ!? どうやって隠し持ってたんだよ、それ!」」
玄道 (気にも留めず、大量の式神を放って現場に指示を出す):
「聞こえるか。私だ。各隊、数名ごとに陣を組み防衛に当たれ。上級妖魔を発見次第、即座に報告せよ。大物の相手は我らが行う」
真白 (悔しそうに):
「……ちっ、さすがは元陰陽頭か」
牢屋番のおじさん (遅れて追いかけてきて):
「兄ちゃんたち、勘弁してくれよ!俺の首が飛んじまう!」
玄道 (涼しい顔で):
「今、私が動かねば、都中の人間の首が物理的に飛ぶことになるぞ?」
牢屋番のおじさん (目を白黒させて):
「ひいっ……!」
牢屋番の若者 (ためらいがちに):
「で、でも……!」
真白 (ちょっとだけ申し訳なさそうに):
「悪いな!あんたたちに責任が及ばないようにちゃんとするからさ。世界の危機なんだ。今回だけ見逃してくれ!」
牢屋番の若者 (ため息をついて):
「……本当に緊急事態みたいですね。ですが、約束は守ってもらいますよ?」
牢屋番のおじさん (頭を抱えて):
「……お、俺は何も見てないぞ!」
真白 (ニカッと笑って):
「ありがとな!」
玄道 (いつの間にか牢から抜け出して、地上への階段を上がろうとしている):
「おい、遊んでないで、我らも出るぞ。まずはお前たちの仲間と合流する」
真白 (慌てて追いかけて、バタバタと階段を上がっていく):
「あ、遊んでねえし!……おっちゃんたち、邪魔したな!」
牢屋番のおじさん (ガックリとうなだれて):
「……減給かなあ」
牢屋番の若者 (深くため息をついて):
「……都が滅ぶよりましでしょう。とりあえず、彼の言葉を信じるしかないですね」
牢屋番のおじさん (涙目で):
「……かあちゃんに怒られるううう!」
◇◇◇
はい、今回は「本編の補完+あとがきオリジナルキャラの牢屋番‘s」でお届けしました!
楽しんでいただけましたか?
自分を犠牲にした朔夜はどうなるのか!?
それを目の当たりにした夜刀は!?
世界は滅んでしまうのか!?
怒涛の第3話、お楽しみに!




