第1話:男装の陰陽師は危険な来訪者に襲われる1
目に留めていただきありがとうございます。まずは完結を目指します!
※本作は同タイトルの通常版をベースに、文体をライトノベル調にリライトした“別バージョン”です。通常版はカクヨム様とnoteに掲載中。noteの通常版は有料でSS(キャライメージイラスト付)と用語解説も付いてます。
常世でのあの一件から、もう半月――。
西市で志乃さんを助けられなかった悔しさは、今も胸の奥にどっぷり沈んだままだ。
どうして間に合わなかったんだろう。
目を閉じると、あの時の光景が何度も何度もよみがえる。
志乃さんの冷たくなった手。
月明かりに照らされた彼女の、安らかなようで、どこか悲しげな顔。
そして何より、彼女の両親に渡す時の、あの重い責任が。
志乃さんの亡骸をご家族のもとへ届けた日、玄関先で僕を迎えたのは期待に満ちた表情だった。
彼らはまだ、娘の死を知らなかったから。
「陰陽師様、うちの娘は……」
言葉を遮るように僕が頭を深く下げた瞬間、すべてを悟ったのだろう。
泣き崩れた志乃さんの母の声が、今でも耳に焼き付いている。
僕は、ただ頭を下げることしかできなかった。
陰陽師として、人として、守れなかった命。
でも、僕には立ち止まってる暇なんてない。
全てが僕の無力さのせいだ。
もっと早く気づいていれば、もっと強ければ、あるいは……。
だからこそ、二度とあんな思いを誰にもさせたくないんだ。
せめて、これからは誰も犠牲にしない。
その想いだけが、今の僕を支えている。
その後も、都には低級妖魔が頻繁に出没するようになってる。
明らかに何かがおかしい。
常世での事件と、この異常な妖魔の活動は繋がっているはずだ。
市井の人々からも、小さな依頼がちょこちょこ舞い込んでくる。
陰陽寮の規定じゃ受けられないような内容ばかりだけど、僕は見過ごせない。
どんな些細な依頼でも、そこには志乃さんのような犠牲者が生まれる可能性がある。
今の僕にできることは、ただひとつ。弱い者を守り抜くこと。それだけだ。
気づけば、討伐と依頼で毎日バタバタ。
今日も、自室で山のような書簡と格闘中。
筆を持つ手が痺れてきた頃、ふと気づくと、部屋はしんと静まり返ってた。
灯台の光がぼんやり机を照らしてて、なんだか夢の中みたいな空気。
そんな中、式神たちはいつものように僕のそばに控えてる。
壁にもたれて瞑想してるのは夜刀。
銀髪に紅い瞳の、冷静で無口な剣士。
目は閉じてるけど、気配はしっかり僕に向いてる。
頼れる相棒ってやつだ。
部屋の隅では、双子の狗と狛が、子犬の姿で丸まってた。
兄の狗は熟睡モードでスゥスゥ寝息を立ててて、妹の狛は耳をピクピク動かしながら警戒中。
「……スゥ、スゥ……」
(お兄ちゃん、ちゃんと起きててください)
……あれ? 今、狛の声が聞こえたような?
ピクリと狗の耳が動いた瞬間、その小さな体がキュッとこわばった。
「……グゥ!?」
狛が唸り声を上げた時、夜刀の片目がパッと開いた。
あ、やばい。これは……。
「朔夜様。何者かの気配、近づいています」
狛が少女の姿へと戻り、凛とした声で告げる。
夜刀も静かに立ち上がり、剣の柄に手をかけた。
「三体。尋常じゃない妖気です」
夜刀がそこまで言うなんて、よっぽどだ。
僕も立ち上がり、窓の外を見つめる。
まだ何も見えないけど、肌がチリチリする。
この感じ、絶対ただ事じゃない。
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