表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生陰陽師は男装少女!?~月影の少女と神々の呪い~(ライト版)  作者: 水無月 星璃
第7章: 常世の囁き、初恋の残照

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/84

第1話:男装の陰陽師は金色の追憶に揺れる2

僕と真白が後を追って足を踏み入れると、景色は一瞬で陰陽寮の書庫から、埃っぽい市井の裏路地へと切り替わった。


「やっぱり、ここか……」

「例の西市の裏路地……だな」


まだ夕暮れ前なのに、辺りは不気味なくらい静まり返っている。

壁には、かつて僕が常世に引きずり込まれた時と同じ紋様が、前よりもずっと強い瘴気を放って描かれていた。


僕たちが戸惑っていると、更衣がその紋様にそっと手を触れた。

紋様が一層強く輝き、ぽっかりと黒い穴が口を開ける。


「さあ、こちらへ。"常夜宮"にご案内いたしますわ」


冷たくて暗い風が、穴の奥から吹きつけてくる。

死の匂いを運んでくる、常世の風だ。


「やっぱり、僕を常世に引きずり込んだのは、あなただったんだな……」


僕の問いに、更衣はただ妖艶に微笑むだけだった。

以前、常世で対峙したあの声の主。

口調も纏う雰囲気も違う。

でも、目の前のこの女こそが、あの声の主なんだって、僕の魂が叫んでいた。


前回は、何もできずに負けた。

自分の無力さに、絶望した。

でも、今は違う。

それに、戦うなら常世の方が好都合だ。

現世を巻き込まなくて済むなら、むしろ願ったり叶ったりだ。


(今度こそ、決着をつけてやる……!)


覚悟を決めて、僕は隣の真白をじっと見つめた。

僕のただならぬ気配を感じ取ったのか、真白も真剣な眼差しで僕を見つめ返す。


「真白、ここから先は僕一人で行く。お前はここで、万が一の事態に備えてくれ」


僕がそう言うと、真白がすぐに食ってかかった。


「は!? ふざけんな! 危ない場所に、お前ひとりで行かせるわけないだろ!」

「……だからこそだよ。僕一人なら、たぶん何とかなる。でも、お前を守りながら戦う余裕はない」

「馬鹿にすんな! オレだって自分の身くらい守れる! それに、お前の『何とかなる』ほど信用できない言葉はねえんだよ!」


なおも食い下がる真白に、僕は静かに首を振って、ふう、と息を吐いた。


「……真白。お前は強いよ。でも、常世は生身の人間が耐えられる場所じゃないんだ。言いたくないけど……足手まといになる」

「……で、でも!」


悔しさに肩を震わせる真白の背中を、僕は宥めるようにポンと叩いた。

そして、覚悟を決めて一歩を踏み出す。


その瞬間、僕の意識の中に、留守を預けていた式神たちからの鋭い警告が響き渡った。


『主、お待ちください! お一人では危険です!』

『朔夜様、危ないよ! 考え直して!』


冷静だけど切羽詰まった夜刀の声に、焦りを隠せない竜胆丸の叫びが重なる。


『朔! 行っちゃダメだ!』

『朔夜様が行かれるなら、わたしもっ……』


狗と狛の悲痛な叫びが、胸を締め付ける。


ツクヨミの力が目覚めてから、式神たちとの繋がりもより強くなった。

それに伴って、彼らの察知能力も格段に上がったみたいだ。

今回は、それが裏目に出ちゃったな……。

僕はため息をついて、胸の中で彼らに強く念を送った。


『ごめん。でも、行かなきゃいけない。みんなは留守を頼む』


納得できない、と騒ぐ声をあえて無視して、僕は式神たちとの精神的な繋がりを一時的に断ち切った。

しん、と静寂が戻る。

これ以上、大切な仲間を危険な目に遭わせるわけにはいかない。

この戦いは、僕一人で――。


そう決意した僕の隣に、音もなく漆黒の影が一つ、舞い降りた。

墨色の剣客風装束をまとった、僕の一番の式神、夜刀だった。

深い忠誠心と、誰よりも高い霊力を持つ彼だけは、僕の命令に逆らって行動できるんだ。


「主のお側を離れるわけにはまいりません。私もお供いたします」


夜刀の瞳には、決して揺らぐことのない強い光が宿っていた。

彼は誰よりも僕への想い入れが強い。

どうしてそんなに想ってくれるんだろう……。

でも、だからこそ。

できれば、彼を巻き込みたくはなかった。

正直に言えば、彼がいてくれるならこれほど心強いことはない。

夜刀には、前に常世で僕が窮地に陥った時、助け出してくれた実績があるから。

僕は少し迷って、結局、同行を許した。


「……わかった。頼む、夜刀」

「御意」


更衣は、そんな僕たちを黙って見ていた。

たかが式神一匹、何の脅威にもならないと高を括っているんだろう。

その侮りが、夜刀のプライドを傷つけているのがわかったけど、彼は何も言わなかった。

主を守る機会を得られただけで十分、そう思おうとしているみたいだった。


門の向こうへ歩いていく更衣を追って、僕と夜刀が門をくぐる。

その背中を見送りながら、真白が唇を噛み締めているのが見えた。

朔夜は夜刀を選んだ――そんなふうに、彼の目には映ったのかもしれない。

自分の無力さを恨めしく思ってるような表情。


でも――

拳を握り締め、真白は顔を上げた。


「……やっぱり、納得いかねえ」


そう呟くと、力強い足取りで門に向かってくる。

そうだ。

あいつは誰よりも諦めの悪い男だった。


だけど、運命は時に残酷だ。

門を潜ろうとした真白は、まるで透明な壁にぶつかったかのように、空間ごと弾き返された。


「なっ……!?」


何度も試しているけど、常世の空気に触れた瞬間にバチバチと火花が散って、魂ごと拒絶されているような激しい痛みが走るみたいだ。


「くそっ……朔夜……!」


振り返った僕に、更衣がくすくすと笑いかける。


「残念でしたわね。常世は、招かれざる者を受け入れませんの。とりわけ、生命力に満ち溢れた若者など、ね」


つまり、どうやっても、真白はこの先へは進めないってことか。

更衣が真白の同行を止めなかったのは、こうなることがわかっていたからなんだ。


(最初から……“僕だけ”を、狙っていたってことか……)


僕の背中に、ぞわりと嫌な寒気が這い上がった。


「くっ……! ここまで、か……!」


気持ちのやり場をなくして、真白は拳を強く握りしめる。

その目には、悔しさと、僕を心配する涙が滲んでいた。


「朔夜、必ず戻ってこい! オレはここで待ってるからな! 夜刀、朔夜を頼むぞ!」


魂の底から絞り出すような、悲痛な叫びだった。

その声に背中を押されるように、僕は夜刀と共に、暗く冷たい穴の中へと消えていった。

ここまで読んでくださってありがとうございます!

本作は同タイトルの通常版をベースに、文体をライトノベル調にリライトした“別バージョン”です。通常版はカクヨム様とnoteに掲載中。noteは一部有料でSS(キャライメージイラスト付)付いてます。※2話まではSSも無料で読めます!


もし楽しんでいただけたら、ブクマや下の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎で評価していただけると、ありがたいです。

応援が励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ