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転生陰陽師は男装少女!?~月影の少女と神々の呪い~(ライト版)  作者: 水無月 星璃
第7章: 常世の囁き、初恋の残照

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第1話:男装の陰陽師は金色の追憶に揺れる1

ボス戦その1に突入します!

陰陽寮の書庫は、墨と古紙の匂いがツンと鼻をつく。

ちょっと埃っぽいけど、この時間の流れから切り離されたみたいな静かな空間は、考え事をするのにぴったりだ。


僕は、うず高く積まれた文献の山に埋もれるようにして、都で次々と起こっている妖魔変異体の記録を睨んでいた。

今朝、僕の式神たちが集めてきてくれた調査結果に、どうにも引っかかる点があったからだ。


僕が自分の正体――月神ツクヨミの力をその身に宿していることを告白してから、仲間たちはそれぞれ、すごく精力的に動いてくれていた。

雅姐さんからは、帝の寵姫である萩壺更衣や、僕たちの上司である陰陽頭・藤原玄道の怪しい動きについて、次々と報告が上がってきている。

紅子さんからは、僕の身体の中で暴走しがちなツクヨミの神力を、どうすれば安定させられるか、役立ちそうな情報をたくさんもらった。


みんなのお陰で、僕の修行もかなり進んだ。

最近じゃ、短い時間なら自分の意思で神力をコントロールできるようになったんだ。

あと一歩。

事前に妖魔の動きを予測できれば、被害をもっと減らせるかもしれない。

そんな思いで、僕は朝からこの書庫に籠もりっきりになっている。


(……変異体の出没箇所には、何か法則がありそうなんだけど……うーん、わからない)


頭を抱えて唸っていると、背後からひょいっと明るい茶髪が覗き込んできた。


「朔夜、また根を詰めてるのか。少しは休めよ」


呆れたような声色だけど、その奥に心配が滲んでいるのがわかる。


「真白……」


顔を上げると、彼はやれやれって感じで肩をすくめてみせた。


「変異体の出現パターンに、何か規則性があるんじゃないかって睨んでるんだ。これ以上被害が広がる前に、何とか突き止めたい」

「お前は真面目すぎんだよ」


真白は小さく息を吐いた。


(だから、放っておけないんだよな……)


とでも思ってそうな顔してる。

いつも手のかかるワンコなくせに、急に見守りポジ感出すのやめて欲しい。

気恥ずかしくて、再び目の前の書物に視線を落とす。


***


その時だった。

書庫の入り口に、ふわりと甘い香りが漂った。

白檀を基調とした、とろけるように甘くて極上の、《《あの》》香り。


振り返った先に立っていたのは――帝の寵愛を一身に受ける萩壺更衣。

息を呑むほど美しい人だけど、その身に纏う空気は、やっぱり前に感じたのと同じ。

妖気とも霊気ともつかない、底知れない何かを感じさせる。

僕たちを見めて、彼女はただ妖艶に微笑んでいた。


(どうして、こんなところに……?)


高貴な人が、お付きの者も連れずに後宮を抜け出して、男ばかりの陰陽寮に現れるなんて。

どう考えたって普通じゃない。

緊張が、ビリビリと肌を刺す。

彼女は常世事件を始めとする、一連の事件の黒幕である可能性が高い。

しかも、あの藤原玄道とも繋がりがあるかもしれない、要注意人物。

雅姐さんの集めてきた証拠で、それも確信に変わりつつあったんだけど。


だからって、今ここで帝の寵姫相手に下手に動くのはまずい。

ここは陰陽寮のど真ん中。

いざとなれば、同僚たちに助けを求めることだってできるはずだ。

僕と真白は、無言で視線を交わす。

どうやら考えていることは同じみたいだ。

僕たちは警戒心を隠したまま、恭しく頭を下げた。


「……更衣様。このような場所に、何用でしょうか?」


声が震えないように、努めて冷静に問いかける。


「ふふ。そう警戒なさらないで」


更衣は可笑しそうに笑うと、その瞳にゾッとするほど冷たい光を宿らせて、こう言った。


「ああ、そうそう。他のみなさまは、眠っていただきましたわ」


心臓が、氷水でギュッと掴まれたみたいに冷たくなった。


(眠ってもらった……? 嘘……!)


退路を、ひとつ断たれた。

額にじっとりと冷たい汗が滲む。


「あなたに用があってまいりました」


唇には優雅な笑みを浮かべたまま、更衣の瞳はまっすぐに僕だけを射抜いていた。

ねっとりとした、獲物を品定めするような視線。

思わず顔がこわばる。


「お連れしたいところがございますの。ついていらっしゃい」


有無を言わせない物言いに、真白が弾かれたように顔を上げた。


「更衣様、お待ちください! 朔夜をどこへ連れていくつもりですか!」


言葉遣いは丁寧だけど、その声には剥き出しの警戒が込められている。

でも、更衣はそんな真白の態度なんて、まったく気にも留めない。


「更衣様、お答えください!」

「真白、落ち着いて。声が大きい」

「でもよ……!」


僕たちのやり取りなんてまるで聞こえていないかのように、更衣は書庫の壁の一点を見つめると、すっと優雅に指を滑らせた。

何もないはずの壁に、禍々しい紫色の紋様が、光と共にじわりと浮かび上がる。

次の瞬間、空間がぐにゃりと歪んだ。

その向こうに見えるのは、見覚えのある西市の、薄暗い裏路地。


ごくり、と僕と真白が同時に喉を鳴らしたのがわかった。

普通の人間ができることじゃない。

しかも、連れて行こうとしている先が、《《あの》》場所だなんて。

彼女は、もう隠す気がないんだ。

自分が、事件の黒幕だってことを。


「さあ」


更衣が、僕を手招きする。

これは、罠だ。

脳が、魂が、けたたましく警報を鳴らしている。

でも、行かなきゃいけない。

この先に、僕がずっと追い求めてきた答えがある。

僕の直感が、そう告げていた。


僕が決意を固めて、一歩を踏み出そうとした、その時。


「待て、朔夜!」


力強い声と一緒に、真白が僕の隣に並び立った。


「真白……」

「お前一人で、危険な場所に行かせるかよ!」


不意に見せた真剣な横顔に、思わずドキッとする。

いざという時に見せる、彼のこういう頼もしさに、僕は昔から弱いんだ。

胸のドキドキを誤魔化すように、僕は再び歪んだ空間の向こうに意識を向けた。


更衣は、そんな真白をちらりと見たけど、すぐに興味を失ったように視線を逸らし、先に歪んだ空間の中へと姿を消した。

ここまで読んでくださってありがとうございます!

本作は同タイトルの通常版をベースに、文体をライトノベル調にリライトした“別バージョン”です。通常版はカクヨム様とnoteに掲載中。noteは一部有料でSS(キャライメージイラスト付)付いてます。※2話まではSSも無料で読めます!


もし楽しんでいただけたら、ブクマや下の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎で評価していただけると、ありがたいです。

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