第2話:男装の陰陽師は絆を深める1
ふ、と小さく息をついて、僕は改めてみんなを見据えた。
「みんな、本当にありがとう。……僕がまず向き合わなきゃいけないのは、このツクヨミの力だ」
声が、少しだけ切実に響いた。
「金烏の一件では、もう無我夢中で……。どうやってあの力を引き出したのかも、どうすればコントロールできるのかも、まだ全然わからないんだ」
思わず目を瞑る。
(怖い。自分の身体の中にあるのに、全く言うことを聞かないこの力が)
僕の心の中に、小さな恐怖が渦巻いてる。
「確かに、神の御力となれば、その制御は容易ではございませんでしょう。ですが、大内裏の朝堂院秘蔵の書物や古い文献の中に、何か手がかりがあるやもしれません。わたくしのほうでも調べてみましょう」
紅子さんの言葉に、少しだけ光が差した気がした。
「ありがとう、紅子さん。頼りにしてる」
「お任せください」
と力強く頷いてくれるのが心強い。
次に夜刀が、静だけど強い意志を込めた声で進み出た。
「主のお身体への負担も計り知れません。闇雲に力を引き出そうとなされば、魂そのものを消耗します。まずは、ご自身の魂と深く対話し、その内なる力の源泉を探ることから始められてはいかがでしょう。必要とあらば、私も微力ながらお手伝いいたします」
(魂の深淵に触れる……)
彼の言葉はいつも的確だけど、今日の言葉はなんだか特別に聞こえた。
彼の深い忠誠心が、僕の魂のすぐそばにあるような気がして、ドキリとする。
「夜刀……心強いよ」
僕は彼の深紅の瞳を見つめて、頷いた。
「修行、か……」
真白が腕を組んで、真剣な顔で唸ってる。
「オレには難しいことはさっぱり分からねえけど、朔夜がやるってんなら全力で応援するぜ! 何か手伝えることがあったら、どんなことでも言えよな! 気合入れるとか、見守るとか、そういうのなら任せとけ!」
(それだけじゃない……お前の隣で、一番近くで、見ててやる)
彼の心の声が聞こえた気がした。
迷わないように、一人で抱え込まないようにって。
いつものように元気に宣言して、彼はニカッと笑った。
その太陽みたいな笑顔に、張り詰めていた僕の心が少しだけ和らぐ。
思わず、僕もふっと笑みがこぼれた。
「ありがとう、真白。その気持ちだけで十分だよ」
僕の微笑みに、真白の目がちょっと見開かれる。
顔、赤くない?
そんな反応されたら、こっちまで照れくさくなるよ……
みんなの言葉を胸に、一度目を閉じる。
(内なる力の源泉……魂との対話……)
夜刀の言葉を繰り返しながら、意識を自分の内側へと集中させてみる。
でも、焦れば焦るほど、あの感覚は遠のいていくみたいだ。
額にじわりと汗が滲む。
「……やっぱり、簡単じゃないな」
目を開けて、苦笑いを浮かべた。
「焦ることはありません、主」
「そうですわ、朔夜様。時間をかけて、ゆっくりと」
夜刀と紅子さんが優しく声をかけてくれる。
「ああ、ありがとう。その通りだね」
僕が頷いた、まさにその時だった。
「あらあら、なんだかシリアスな雰囲気じゃない。アタシにも聞かせてくれるかしら?」
艶やかな声と一緒に、ひらりと姿を現したのは、白拍子の雅姐さんだった。
「アタシも混ぜてちょうだいよ」
いつもの蠱惑的な笑みだけど、金色の瞳は真剣そのものだ。
「雅姐さん! 来てくれたんだ」
僕の表情がぱっと明るくなるのが自分でもわかった。
「朔夜ちゃんのためとあらば、どんな饗応だって蹴って駆けつけるわよ」
雅姐さんはそう言うと、慣れた様子で僕の隣にすっと腰を下ろした。
僕はこれまでのことを全部話した。
前世のこと、ツクヨミの記憶、アマテラスとの確執。
聞き終えた雅姐さんは、ふう、と長い息を吐いた。
「なるほどね……。幻術で垣間見た時から薄々感じてはいたけど、本人の口から聞くと、なかなか強烈だわ……」
そして、おもむろに口を開いた。
「朔夜ちゃんの神としての力の覚醒と、最近の妖魔の変異、関係があるのかもしれないわね」
「どういうことだ?」
と真白が身を乗り出す。
「ねえ、朔夜ちゃん。神の記憶が蘇り始めたのはいつ頃から?」
「確か……常世の事件の前後とか、妖魔が屋敷を襲ってきた後。金烏が現れた辺りからは毎晩のように……」
「やっぱり……」
雅姐さんは頷く。
「常世事件から現れ始めた霊気混じりの妖魔、金烏の一件以降に現れ始めた神気混じりの妖魔……。こいつらの出現と呼応するように、朔夜ちゃんの記憶が蘇ってる。それに伴って、神の力が目覚めた……そんなところかしら」
やっぱり。
でもそれって……
顔が青ざめるのがわかった。
「もしかして、僕が……僕のせいで、都の人々が危険に……」
「朔夜、それは違う!」
真白が強い声で否定してくれた。
その声に、ハッとする。
「お前は何も悪くない!」
「そうですわ。たぶん、逆」
と紅子さんが続ける。
「朔夜様の覚醒が妖魔を変異させたのではなく、何者かが妖魔を変異させて、朔夜様の覚醒を無理やり促したのですわ」
雅姐さんが静かに頷く。
「その通りよ、紅子ちゃん」
僕の脳裏に、二人の顔が浮かんだ。
「陰陽頭・藤原玄道様……そして、萩壺更衣様……」
「ビンゴ。その二人、最近頻繁に密会を重ねてるって噂よ。そして、その度に都の妖魔の動きが活発になってる」
雅姐さんの情報に、緊張が走る。
「許せねえ……!」
真白が声を荒らげる。
「それと、もうひとつ気になることがあるの」
と雅姐さんは続けた。
「朔夜ちゃん、金烏の出現、あれは玄道の仕業じゃなかったんでしょ?」
「うん。彼は『いきさつはわからぬ』とか言ってた……」
「となると、別の要因があるってこと。うちの一族の連中が言うには、『太陽神様の怒りだ』って話なのよ」
「金烏襲撃に、姉様が……アマテラス様が関わっていると?」
僕の心臓が、嫌な音を立てて軋む。
姉様、どうして……
「可能性の話よ。そもそも金烏は太陽神の御遣いだしね。太陽神に関するうちの文献、調べておくわ」
「お願いします」
頭の中がごちゃごちゃしてきた真白が「くそっ!」と頭を抱えているのを見て、雅姐さんがからかう。
「あら、真白ちゃんには難しすぎたかしら?」
「姐さん、バカにしてんだろ!? あと、真白“ちゃん”はやめてくれ!」
「ふふ、ごめんなさいね。可愛くてつい」
二人のやり取りに、張り詰めた空気が一気に緩んだ。
僕も思わずクスッと笑ってしまう。
「何にせよ、僕が力の制御を身につけることは、単に自分のためだけじゃない。都の平和を守るためにも急務だね」
「だな。なら、なおさら、みんなで朔夜を支えなきゃならねえってことだ」
真白の言葉に、みんなが頷く。
その時、ずっと黙っていた夜刀が口を開いた。
「主。力の制御について、一つご提案がございます」
みんなが夜刀に注目した。
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本作は同タイトルの通常版をベースに、文体をライトノベル調にリライトした“別バージョン”です。通常版はカクヨム様とnoteに掲載中。noteは一部有料でSS(キャライメージイラスト付)付いてます。※2話まではSSも無料で読めます!
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