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第1話:男装の陰陽師は正体を隠す

本編シリアスなので「あとがき」で遊んでます(笑)

※本作は同タイトルの通常版をベースに、文体をライトノベル調にリライトした“別バージョン”です。通常版はカクヨム様とnoteに掲載中。noteの通常版は有料でSS(キャライメージイラスト付)と用語解説も付いてます。

都に災厄をもたらす妖魔を(はら)う――

それが、僕の使命。

安部朔夜(あべのさくや)陰陽師(おんみょうじ)。年は十六。

立場は……まぁ、ちょっと特殊な少年、ってことになってる。


「はっ……間に合えっ!」


白の狩衣(かりぎぬ)(貴族のスポーツウェア的なやつね)をひるがえしながら、僕は南天殿(なんてんでん)(みかど)が住んでるとこ!)の門前を駆け抜けた。

汗が額ににじんで、息が少しずつ荒くなる。

でも、足は止まらない。

止めるわけには、いかないんだ。

僕が働いてる陰陽寮(おんようりょう)じゃそれなりに名は知られてて、

占術(せんじゅつ)も妖魔退治も、実力は認められてる……“少年”陰陽師として、だけど。


誰にも言えない秘密――それは僕が女だってこと。


でも、それよりも、今は“彼女”を助けなきゃ。

懐から取り出した姿絵(すがたえ)を、そっと見つめる。

綺麗な子だ。

凛としてて、でもどこか儚げで。

まるで、夢の中で見た誰かに似てる……気がした。

あの夢――女神と、鏡の中にいた“僕じゃない誰か”。

なんでこんなに胸がざわつくんだろう。

僕はこの子に会ったことなんてないはずなのに。

なのに、なぜか懐かしくて、少し、怖い――


「……でも、今は考えてる暇ない」


夕陽が、南天殿の柱を真っ赤に染めていた。

ここは都のど真ん中。

朱雀門(すざくもん)を抜ければ、そこから先はもう市井(しせい)(街のことね)。

本来、陰陽寮は民間の依頼には関わらない。

国のための組織っていうか、(みかど)の一族や貴族のための組織だからね。

だから、僕個人で引き受けることにした。

志乃(しの)っていう商家の娘さんが、妖魔にさらわれたって聞いて。

――でも、それだけじゃない。

あの子の両親の顔が、頭から離れないんだ。

必死にすがってきた、あの涙の跡。


(……僕が、行くしかない)


その時だった。


「おーい、朔夜ー! 待てってば!」


聞き慣れた声に振り返る。

息を切らして駆けてきたのは、賀茂真白(かものましろ)

僕が唯一、心を許せる……まあ、親友ってやつだ。


(……自分で言うと恥ずかしっ)


同じ陰陽師だけど、僕とは真逆。

明るくて、おしゃべりで、ちょっとだけおせっかい。

いや、けっこうおせっかいかも。しかも変な方向に。


「ったく、お前ってほんと忙しそうだよな~」

「……急ぎの用があるんだ」


歩き出そうとする僕の隣に、真白がぴたりと並んでくる。

その顔が、ちょっとだけ心配そうだった。


「また市井しせいの依頼か? 無理してんじゃないの?」

「大丈夫だってば」


心配かけたくない。だから、笑って答えた。……つもりなんだけど。


「ホントかよ?」


信じてなさそうな顔で真白がじと目で見てくる。

う……やめろ。その目、弱いんだよ。


「どうせまた金が必要なんだろ? 式神の食料とか道具とか……」

「違……いや、まあ……必要なんだよ、色々と」


うっかり言い淀んで、袖口に手を添える。

真白の視線が、ちらっとそこに向いた。しまった……。


「……ふ~ん? もしかして、また何か変なアイテム買ったとか?」

「変じゃない。ちゃんと陰陽術に使うものだもん……!」


思わず語尾がゆるむ。しまった。地が出た。


「だもん、て。お前……」


くく、と真白が笑って、僕の顔をじっと見つめてくる。

だからやめろ、その目。なんか怖い。


「……可愛いじゃん」

「っ⁈」


え、なに言った今こいつ。

思わず心臓が跳ねて、うっかりつまずきそうになる。


「いや、なんかこう……時々不思議なんだよな、お前って。」

「は? な、何が⁈」

「可愛いっていうか……女の子っぽいっていうか?」


やばいやばいやばい。


「オレ、男になんか微塵も興味ないけどさ。お前はなんか可愛いって思っちまうわ」

「き、気のせいだろ」


必死に平静装って歩を速めるけど、頬の熱は隠せない。

真白にだけは、バレたくない。僕の正体も、気持ちも。

僕は男として生きてる。陰陽師でいるために。

だけど、真白の前では、時々……素の自分が顔を出しそうになるんだ。


(――気をつけなきゃ)


気を抜けば、すべてが壊れる気がする。

それでも、真白と並んで歩くこの時間が、どこか心地いいと思ってしまうのは……秘密だ。


幸いなことに、真白の興味は、ちょうど道端を横切った尻尾の短い野良猫にあっさり持っていかれた。


(……僕は、男として生きるって決めたんだ。師匠の遺志を継いで、誰かを護れる陰陽師になるって……)


胸の奥にひっそりとしまったその誓いを、僕は再確認するように心の中で呟く。

誰にも言えない、大切な秘密。

幼い頃に選んだ――自分だけの生き方。


「へいへい、さいですかーっと」


真白がやる気のない声で返しつつ、猫を追って視線を滑らせる。

その気楽そうな横顔に、つい微笑みがこぼれた。


(こうしてると、ちょっとだけ……楽なんだよね)


ふと、真白の視線がこちらに戻ってくる。

あれ?ちょっと表情が固い?


(……なんか、見てる?)


「……ん?」


僕が首を傾げながら髪を耳にかけると、真白がびくっと肩を跳ねさせた。


「ど、どうした? 真白」

「う、うぇ!?」


見透かされたような顔して、あいつはいきなり目を逸らすと、バツが悪そうに足を速めた。


「ちょ、待ってよ! 真白ー!」


慌てて僕も足を速める。

……なんか、やっぱり変だったな。


***


やがて、僕らは朱雀門へと辿り着いた。

夕暮れの空が、街を柔らかな茜色に染めていく。


「で、今日の依頼ってなんだっけ?」


後ろから声をかけてきた真白に、僕は立ち止まりながら答える。


「西市で、女性が“黒い影”に(さら)われたらしい。これが、被害者の姿絵」


懐から取り出した紙には、どこか儚げな笑みを浮かべた女性の絵姿。

市にある店で働いていた彼女は、仕事終わりに一人でいたところを、何者かに連れ去られたという。


「夕方の市って、あんまり人通りないよな……油断してたのか」

「かもな。最近は特に、みんな気が緩んでる」


陰陽寮が妖魔退治を定期的に行っているせいで、かえって都の人々の警戒心は薄れてる。


「それ、完全にオレらの努力が裏目に出てんじゃん……」


真白が肩を落とすのを見て、思わず苦笑いしてしまった。


「……でな、目撃者の話では、相手は彼女の“顔”を確認してから連れて行ったらしい」

「……ってことは、狙って攫ったってこと? マジで?」

「もし本当なら……知性のある中級妖魔、あるいはそれ以上かもしれない」

「面食いな妖魔かよ。最悪~」


思わず横目で睨むと、真白は「冗談だって」と苦笑いしていた。


(……それにしても)


僕の手元の姿絵を見つめていた視線が、ふと揺れる。


(……この人、夢に出てきた“あの人”に……少し似てる。でも――違う)


既視感だけがやけに強くて、でも何かが決定的に違う。

夢の中にいた、あの男装の麗人。

その気配は、彼女というより……僕自身に近かった気がする。

“ツグナエ。ソノ死ヲモッテ――”

あの声が、突然、魂の奥で響いた。


「……ッ!」


痛みが、こめかみを鋭く貫く。


「おい、朔夜!? 大丈夫かっ?」


真白が慌てて駆け寄ってくる。

僕は額に手を当てたまま、ゆっくりと答えた。


「……うん、大丈夫。ちょっと……何かを思い出しそうになって……」

「思い出しそうになったって……何を?」


言葉に詰まる。説明できるほど、明確じゃない。

ただ……何かが、心の奥に引っかかっている。

そんな僕を見て、真白が何かを思い出したように口を開いた。


「……夢……見てないか? 最近さ、変なやつ」


急な問いに、胸がぴくりと跳ねた。


「夢、って……?」

「前に話してたじゃん。朝から目腫らしてたとき。夢の中で、女の人が泣いてたって――あれ」

「……覚えてるんだ」

「なんか今のお前、あの時と同じ顔してる。別人みたいで……正直、ちょっと怖ぇよ」


(夢……二人の……女の人……)


ぼんやりと浮かぶ、あの神殿の光景。

黄金の女神。

そして、鏡の中の――僕に似た誰か。


「……あり得るかも。事件と……何か繋がってる気がする」

「だよな? オレ、意外と勘いいんだぜ」


ふざけたような口ぶりだけど、真白の勘は案外バカにできない。


僕はもう一度、姿絵に目を向けた。


(この人の“気”を……探ってみる)


手をかざし、意識を集中する。

気配を探ると、すぐに――不快なざわつきが指先を走った。


「……妖気と、霊気。混じってる……しかも、気分悪くなるほど強烈」

「混じってるって、それって……ヤバい系?」

「うん、かなり。普通じゃあり得ないことだし」


妖魔と人間、まったく違う性質の“気”が混ざるなんて、本来なら起こるはずがない。

けれど、今目の前にあるのは、その禁忌(きんき)が犯された“痕跡”。


「お前、やっぱすごいわ……さすが稀代の陰陽師様」


ニヤニヤと笑ってからかってくる真白に、僕はじと目で睨み返した。


「まじめにやってるんだけど」

「わーったよ。……でも、霊気が絡んでるってことは、陰陽師が関係してる可能性もあるのか?」

「陰陽寮に所属しない“野良(のら)”の陰陽師、の仕業かもしれないけど……今はまだ断定できない」

「……そっか。で、行くんだろ?」

「うん。今なら、痕跡を追えるかもしれない」


真白がポンと僕の背を叩いた。


「油断すんなよ、朔夜」

「大丈夫!」

「何かあったら、式神飛ばして呼べよ!」


なんだかんだで心配してくれるんだから、ホントいい奴。

僕は静かに笑って、夕暮れに染まる街へと足を踏み出した。


月がうっすら空へ昇る頃、僕は運命の渦へと、確かに引き寄せられていた――

【あとがき】

カオス会議:第1話「男装の陰陽師は正体を隠す」編


登場人物:

朔夜:男装陰陽師。自分ツッコミ系主人公。真面目。

真白:おしゃべり親友系陰陽師。ツッコミもボケも両立できる陽キャ。

夜刀:朔夜の式神。クール担当。過保護。若干ポンコツ疑惑あり。

謎の女神:今後のシナリオをかき回す予感のする存在。出番少ないのに存在感バグってる。


女神:

「ツグナエ。ソノ死ヲモッテ――」


朔夜:

「やめて。いきなり出てくるの禁止って言ったじゃん。てか、それ僕の夢の中限定セリフでは!?」


真白:

「あとがきにまで重苦しい呪文やめてくれない!? ここ、ギャグゾーンなんだってば!!」


夜刀:

「……主、あのような胡乱な者に脳内を侵食されるとは、セキュリティ甘いのでは」


朔夜:

「いや夢だし!てか夢じゃなかったし!てかなんなんですかあれ!?」


女神:

(無言でニヤリ)


真白:

「そのニヤリが一番怖ぇんだって!てかさ、オレの出番、完全に“かわいい”連呼担当じゃね!?」


朔夜:(赤面)

「……ち、違っ……あ、あれは、演出というか、その、台本の、事故っていうか……!」


真白:(ニヤニヤ)

「オレ、男に興味ないけど、お前は可愛いと思うわ~♪」


朔夜:

「やめろぉぉぉーーーっ!! あとがきで再放送しないで!!」


夜刀:

「……主が照れる姿、非常に愛らしい。記録しておこう」


朔夜:

「お前もか!?」


女神:

「愛とは、すなわち混沌カオス


真白:

「……なんか名言っぽいこと言ってるけど、意味わかんないし!?」


朔夜:(溜息)

「というわけで、第一話いかがだったでしょうか……。まだまだ謎だらけですが、今後もよろしくお願いします。あと、正体バレないように頑張ります……ほんとに」


真白:

「フラグ立てたな今!?」


夜刀:

「心配ご無用。私が主の秘密も命も守り抜きます」


女神:

「運命に抗う者たちよ――次なる章で、待つ」


全員:

「……締めるの勝手すぎない!?」


作者:

(いや、君たち暴走しすぎな!?)


◇◇◇


ここまで読んでくださってありがとうございます!

ブクマや下の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎で評価していただけると、ありがたいです。

「このキャラが好き」ってお声いただけたら出番増えちゃうかも!?(笑)

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