第2話:男装の陰陽師は黒炎の怪物と対峙する1
金烏出現の知らせを受けて、僕と真白は西市の現場へと急いだ。
活気あふれた市場は、見るも無残な地獄絵図と化していた。
屋台はぐしゃぐしゃ、商品はめちゃくちゃ。
そして何より、恐怖に顔を歪めて、逃げ惑う人々の姿――。
火事の現場特有のイヤな臭いが、濃い煙と一緒に立ち込めていて、思わず鼻を覆った。
「……ひどいな。これが本当に……あの金烏の仕業だってのかよ?」
真白が目の前の悲惨な光景に顔をしかめてる。
僕も同感だ。
これが、あの神聖なはずの鳥の仕業だなんて、信じられない。
僕は言葉も出なくて、ただ全神経を研ぎ澄ませて、周囲の気配を探った。
ピリピリとした、肌を刺すような緊張感。
普通じゃない、めちゃくちゃ強大な"何か"の気配を感じる。
それは、妖魔が発する妖気とは明らかに違う、もっとこう……神聖なはずなのに、どこか深く穢れてて、禍々しさを纏った不吉な波動だった。
神聖と邪悪がごちゃ混ぜになってるみたいな、混沌とした気配。
胸騒ぎが、ヤバいって警鐘を鳴らしてる。
「手分けして、情報を集めよう」
「ああ、そうだな!」
僕たちは頷き合って、現場にいた人たちから、震える声で語られる状況の聞き込みを始めた。
目撃した人たちの話は、恐怖と混乱でしっちゃかめっちゃかだったけど、ある一点だけは奇妙なくらいみんな同じことを言っていた。
「金色の……それはもう、目も眩むような、神々しい金色の鳥だったんじゃ……」
「体からは、まるで地獄の業火のような、どす黒い光がゆらゆらと立ち昇っておって……あんな恐ろしいもの、見たことがない……」
腰を抜かしたままガタガタ震えてるおじいさんたちが、そう語る。
「三本足の大きな烏だ」
「あれは間違いなく、伝承に聞く金烏様よ!」
「俺たちの守り神のはずなのに、あんな恐ろしい目つきをなさるなんて……」
「魂ごと吸い取られてしまいそうだったわ!」
若い夫婦が、子供をぎゅっと抱きしめながら涙声で訴えた。
黒い炎みたいな不気味な光を纏った金色の鳥。
見る者の魂を根こそぎ奪い去るかのような、血走った恐ろしい目。
それらのバラバラな証言のピースが、僕の胸に重くのしかかる。
やっぱり、ただの偶然じゃない。
あの夢と、繋がってる……。
聞き込みを進める中で、真白が時々、心配そうに僕の顔を窺ってくるのに気づいた。
いつもは冷静沈着で、どんなピンチでもポーカーフェイスを崩さない(と自分では思ってる)僕が、今日に限ってはどこか上の空で、顔には深い苦悩の色が浮かんでたんだろう。
まあ、実際、頭の中はぐちゃぐちゃだったし。
「……朔夜、大丈夫か? 顔色、悪いぜ。何か考え事か?」
真白の気遣う声に、僕はハッと我に返った。
彼の大きな手が、僕の肩にそっと触れようとしているのが見えた。
その手の温かさを想像して、少しだけドキッとしてしまう。
「あ、ああ……いや、なんでもない。大丈夫だ」
咄嗟にそう答えたけど、僕の心は千々に乱れていた。
あの神代の夢。
アマテラス様の瞳の奥に潜んでいた、あの仄暗い光。
そして今、目の前で起きてる、この狂った金烏の出現。
もし全部がひとつに繋がってるんだとしたら、一体全体、これから何が起ころうとしてるんだろう?
想像するだけで背筋がゾッとするような感覚に襲われる。
その時、なぜかあの夜の真白の言葉が胸をよぎった。
——「お前がとんでもない秘密抱えてたとしても、オレは気にしない。オレは、これからも、ずっとお前のそばにいる。」。
あのまっすぐなまなざしを思い出して、心が揺れた。
でも、この複雑でまだ確証のない胸の内を、今、真白に話すのは違うって、なんとなく思った
ただでさえ危険な任務だ。
根拠のない僕の憶測で、大切な親友をこれ以上不安にさせたくなかった。
真白には、いつも太陽みたいに笑っていてほしいから。
(今は、目の前のことに集中しないと……)
僕は、そっと真白の視線から逃れるように顔を伏せた。
そんな僕の様子に、真白は何か言いたそうだったけど、結局は黙って前を向いた。
ただ、その眉間の皺は、さっきより深くなってる気がした。
ごめん、真白。
その時だった。
「キャアアアアアアアアッ!」
市場の奥まった方角から、鼓膜を劈くような甲高い女の人の悲鳴が響き渡った。
続いて、地響きにも似た巨大な羽ばたきの音と、何かが派手に壊れる轟音が連続して、都の空気をビリビリ震わせる。
「……あっちだ! 行くぞ、真白!」
「おう!」
僕と真白は顔を見合わせると同時に、音がした方角へと全力で駆け出した。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
本作は同タイトルの通常版をベースに、文体をライトノベル調にリライトした“別バージョン”です。通常版はカクヨム様とnoteに掲載中。noteは一部有料でSS(キャライメージイラスト付)と用語解説も付いてます。
もし楽しんでいただけたら、ブクマや下の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎で評価していただけると、ありがたいです。
応援が励みになります!




