第3話:男装の陰陽師は秘密を問われる1
真白くん、再登場です!
※整合性が気になったところがあり、少し修正しました。すみません...(2025/05/07/10:30)
屋敷に帰ると、玄関先に仁王立ちしてる誰かがいた。
……ああ、見慣れた茶髪。
狩衣姿がやけにキマってるのは、親友の賀茂真白だ。
「おっそい!! 朔夜、どれだけ心配させりゃ気が済むんだ!」
腕組みして仁王立ち、顔は半分スネてて、半分マジで怒ってる。
……いや、あれだ。
顔は怒ってるけど、目が完全に“泣きそう”。
これが真白の“心配しすぎて逆にキレてる”モードである。
「真白? なんでここに?」
「なんでって、陰陽寮で聞いたんだよ!昨日の夜、お前が妖魔に襲われたって!仕事終わって速攻飛んできたんだよ! お前、何考えてんだよ!? 無事って連絡もないし、この時間までほっつき歩いてるって、正気か!? ……オレの寿命が縮むわ!!」
怒涛のマシンガントークに僕は苦笑。
いつものことだけど、今日の真白はいつも以上に焦ってるっぽい。
ありがたいけど、なんかこう、じわっとくすぐったい。
「ごめん。ちょっと用事があってて……でも心配かけたな」
「……まったく……って、誰だそいつ?」
ぴたっ。
真白の視線が、僕の背後にいた竜胆丸にロックオン。
すぐさま警戒レベルMAX、初対面の相手を一瞬でスキャンするモード発動。
「竜胆丸。今日から僕の式神になるよ」
「式神、ね……」
視線の動きが完全にボディチェック。
顔立ちから気配、持ち物まで全部見抜く勢いでジロリ。
竜胆丸は竜胆丸で、「人間とか眼中にないけど」みたいな態度で顔をそらす。
うん、わかりやすい。
「よろしくな、竜胆丸。オレは賀茂真白。朔夜の親友で、同僚で、まあ、兄弟子ってやつ?」
とびきりの笑顔で手を差し出す真白。
親しげだけど、圧がすごい。
でも――
「……仲良くするつもり、ないけど」
冷たくピシャリ。
一瞬、場の空気が凍る。
けど真白はすぐに、ニカッと笑って手を引っ込めた。
「そっかそっか~。人見知りか~。ま、いずれ打ち解けようぜ? オレ、しつこいから」
(……顔は笑ってるけど、内心「コイツ、何様だ」って思ってる顔なの、僕は見逃さない)
「で、お前怪我してないのか? 昨日の妖魔、かなりヤバかったって聞いたぞ」
「大丈夫だよ。式神たちも無事だ」
真白がホッとした表情を見せたのも束の間、僕の全身を視線でじっくりチェックしはじめる。
……視線が熱い。背中、見られないようにしないと。
「よし、ホントに大丈夫そうだな」
頭の先から足の先までひと通り確認して納得したのか、真白は満足そうに頷いた。
近づかれたら色々気付かれてヤバかったけど。
そこは夜刀が、僕に必要以上に近づくなって、真白を威圧してくれたから助かった。
ホント、夜刀は有能だなあ。
「屋敷を襲ってきたってことは、やっぱり狙われてるのか? 心当たりはあるのか?」
「……たぶん、以前の件とつながってる」
説明すると、真白の目つきがガラリと変わる。
陽気な顔は封印、いつものキリッとした陰陽師モードに。
こういうスイッチの切り替え、正直ずるいよな。かっこいいんだよ。
「攫うってことは、お前の力が狙いか。マジで気をつけろよ。お前さ、昔から変に我慢して無理するし……オレ、ほんとお前のそういうとこ心配なんだよ」
「わかってる。ありがとう」
褒められたわけじゃないのに、ちょっと嬉しい。心がふわっと温かくなる。
でも――油断してた。
屋敷に入ろうと不用意に振り向いて、真白に背中を見られてしまった。
「なッ!? その傷、いつのだよ!? 血、出てんじゃねーか! 痛くないのかよ!? っつーかお前っ……バカか!!」
「いや、治ってるし。見た目だけだから。セーフセーフ」
「どこがセーフだよバカァァ!!」
いつもの騒動。
真白が大騒ぎする横で、狗と狛が「またか」と言わんばかりにお茶の用意を始めてる。
で、ふと視線を感じてそっちを見れば――
夜刀が、無言のまま、真白をすごい目で見ていた。
冷静な顔の奥に、怒気と殺気と“これはワタクシの大切な主でございますが何か?”っていう牽制が凝縮されている。
「……主の身体に、過度に触れるのは、あまりお勧めできませんよ。賀茂真白殿」
「ん? なんだよ、夜刀。オレはただ心配して――」
「“ただ”であればよいのですが」
微笑んでる、けど、笑ってない。
すごく怖い。
空気が5度下がった気がする。
……まあまあ落ち着いて夜刀、真白も悪気はないんだって。
僕は内心でそう思いながら、彼らの間に小さくため息をついた。
で、竜胆丸はというと、完全に借りてきた猫状態で部屋の隅に佇んでる。
ちょっと気の毒だけど……まあ、慣れてもらおう。
僕は竜胆丸を仕事部屋へと案内する。
水鏡が置かれた神聖な空間。
「これは、水鏡っていう道具だよ。占いにも使うし、式神との契約にも使える」
水面に呪符を浮かべて、呪文を唱えると、光がふわり。
竜胆丸の目がまん丸になる。
「わっ……」
ビビってる顔、ちょっと可愛い。
契約のために、僕は指先に小さく刃を当てて、血を垂らす。
「えっ、ボ、ボクもやんの? い、痛いのはヤダな……」
「ちょっとだけ。大丈夫だよ、ね?」
半ば強引に竜胆丸の指に刃を当てると、彼は「んん〜っ」と情けない声を漏らして目をぎゅっと閉じた。
……契約の光が、部屋を包みこむ。
「これで正式に、君は僕の式神だよ。よろしくね、竜胆丸」
契約の光の中で、僕の血に触れた竜胆丸が、はっと息を呑むのが分かった。
彼の瞳が、一瞬だけ驚きと……何かを探るような、強い光をたたえて僕を見つめている。
まるで、僕の奥にある何か、予想だにしないものに触れたかのように見えた。
小声で「……よろしくお願いします」と返す彼は、なんだかちょっとだけ、雰囲気が変わったような気がした。
僕のお下がりの着物を着た竜胆丸とともに居間へ戻る。
あれ?真白が居ない。厠かな?
そんなことを思っていたら、竜胆丸が急に立ち止まって声をかけてきた。
「なあ、朔夜様」
呼び方が変わってる!? と驚く間もなく、彼の目が真っ直ぐ僕を射抜く。
「なんで、アンタは男の格好をしてるんだ?」
その瞬間、室外から真白の足音が。
心臓がドクンと跳ねた。
部屋の中の空気が、ピタリと止まる。
幸い、真白はまだ部屋までたどり着いていなそうだ。
僕は、ゆっくりと答えた。
「陰陽師の世界は、基本、男のものなんだ。だから僕は――この姿でいる必要があるんだ」
静かな声に込めたのは、覚悟と、ちょっとの痛み。
竜胆丸は、それ以上何も言わなかった。
ただ、彼の目に浮かぶ何かが、僕を見つめていた。
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