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春の花嫁  作者: 夜凪
第1章 農村のお姫様
9/9

好き嫌いとお母さん

さっさと森に行ってドレス作りを始めたいところだが、そうもいかない。最近は朝起きて掃除をしたら、ソーセージや加工肉を作ると言う生活をずっと繰り返している。冬備えと言われるとし方がないことだが、変わり映えがしなくて飽きてきた。どうせなら違うことがしたいが、他に私ができることはないので仕方がない。


ため息を吐きながらもコツコツと手を動かす。普段あまり手に入らないお肉がこんなにもあるのは、仕事がない冬の間、民衆は自分たちを労い、肉を食べ、厳しい冬を乗り越えるというこの地方の慣わしだ。私が倒れて寝込んでいる間に行われた収穫祭で、肉や小麦、野菜などが分け与えられたらしい。お肉は嬉しいが、そのためにお仕事が増えるのは、いささか納得いかない。


「おや?うちのお姫様はご機嫌斜めかな?」

「あ、お父さん。これ作るの飽きちゃっただけ」

「そーかそーか。だが大事なお仕事だからな」

それはわかってるよと口を尖らせると、お父さんが楽しそうにこっちを見ている。どうやら今日の仕事は片付いたらしい。ふと外を覗いてみると、もう夕日が暮れていた。いつのまにか夕方になっていることに気づかなかった。


「リーゼにいい報告があるぞ」

「なーに?」

どうせまた新しいお仕事だろうとあまり期待しないでいると、それを見透かしたのかますますニヤニヤしている。


「明日港町に行くことになった。前に俺の兄弟が港町にいるって言っただろ?今年は大漁らしくてな、少し魚を分けてくれるってついこの間連絡が来たんだ。リーゼも行くか?」


港?お出かけ?!


「行く!行きたい!」

どこに行くかは正直どうでも良かった。お家に缶詰状態で外に出たくてたまらなかったのだ。


「よーし!決まりだな。ティーラには俺から伝えておく。明日は朝早いからな、早く寝るんだぞ」

「何時に行くの?」

「1の刻過ぎには家を出るからな。早いぞ~」

1刻か。ん?1刻?!夜じゃん!と言うかもうすぐじゃん!

さっき9の刻を知らせる鐘が鳴ったことを思い出し、急いで仕事を片付ける。


「あぁ、それと海風は寒いから、明日はあったかい恰好をしていくんだぞ」

くれぐれも足の出るスカートをはかないようにという念押しをされたので、良い子である私は言うことを聞くことにした。女子高生でもあるまいし、さすがの私もこの時期の海辺でミニスカートは履かない。


今日の分のソーセージを作り終わったころにはもうすっかり星空が広がっていた。明日の支度があるからとお姉ちゃんはテキパキと支度をし、あっという間に夕食を平らげ、2階に行ってしまった。アリシアに頼まれ机の上を片付けていると、2階からのそのそとお母さんが降りてきた。


「リーゼ、夜ご飯は食べた?」

「さっきお姉ちゃんが先食べちゃったから今から食べるとこ。お母さんは起きてきちゃって大丈夫なの?」

「ええ、大丈夫よ。さっきまでアデルが付き添ってくれてたから」

そういえばアデルを見ていなかったが、どうやらお母さんと一緒にいたらしい。


「リュークはまだ畑?」

「うん、なんかまだやりたい作業残ってるからって)

「そう、」

「お母さんご飯食べられそう?」

「うん、スープだけ貰おうかしら」

「わかった」

普段みんなでご飯を食べることがほとんどだから1人で食べるの寂しかったんだよね。お母さんと一緒に食べられるの久しぶりだし。

竈に踏み台を運び、スープをよそう。背伸びをしなくても料理ができるようになったことに、私の成長を感じる。


ーーそう言えば、最近お姉ちゃんとだいぶ身長変わらなくなってきた気もする。はっ!このまま順調に背が伸びれば、モデル兼デザイナーになれる?!


溢さない様にと慎重にモデル歩きをしながら料理を運ぶ。


「はい、どうぞ」

「いつもありがとね」

「いいんだよ!お母さんと産まれてくる私の可愛い妹か弟のためだもん!なんでもお手伝いするよ!」

「あら、じゃあお言葉に甘えちゃおうかしら」


くすくすと笑いながら、隣に座っている私の頭をそっと撫でてくれた。少しだけくすぐったくて、だけど嬉しくて、私はそっと体を母の方に寄せた。


しばらくすると、ティーラは少し寂しそうな顔をした。

「どーしたの?」

「ううん、最近あんまりこうして撫でてあげられてなかったなーって思って」


ひょっとしたら罪悪感を感じているのかもしれない。一番手のかかるレオンに対して、私やアリシアの優先順位はどうしても下になる。私は実際に子育てをしたわけではないけれど、前世の友人達が子育てに追われている姿を間近に見ていた。子供が多い上にまだみんな幼く、その上妊娠しているとなれば子供に構えない状況なんて別におかしくはないと思う。それでもこうして自分の事も、もちろんアリシアやレオンのことも気にかけて大切に育ててくれている母が誇らしく思うし、私は大好きだ。


ふと、「母」を思い出した。


小さい頃病室のベッドで、元気に産んであげられなくてごめんねと泣きながら謝っている母の声を聞いてしまったことがある。当時の私は何か聞いてはいけないものを聞いた気になり寝たふりをした。今なら母が何故泣いていたかはよくわかる。


気づいたら今度は私が母の頭を撫でていた。ふと目線を上げると、母は目をまんまるにしていた。


「リーゼ?」

「お母さん、ありがとう」


そのまま私はそっと抱きしめた。前世で母にしてあげられなかった分も、どうか親孝行させて欲しい。母を置いて死んだ親不孝な娘をどうか許して欲しい。そう思いながら抱きしめた腕の力をギュッと強めた。母から返される抱擁もまた強く、少し震えている気がした。


「不思議ね」

「???」

「今リーゼが大人のお姉さんに見えたのよ。そんなことあるわけないのにね」


核心を突かれたようで、ドキリと冷や汗が垂れる。

ティーラは冗談めかしに笑っているが、まだ瞳が揺れていた。そんな私の不安をよそに、母もまた不安を見せまいと、パンと軽く自分の頬を叩いた。


「さ、残ってるきのこも食べちゃいなさい!好き嫌いはダメよ?」


バレてる。


よっこいしょと立ち上がり洗い場に向かう母は、さっきまでと違い、なんだか楽しそうである。


母に見つからない様に誤魔化そうとするも、再び見つかり、結局鼻をつまみながら一気に口に掻きこんだ。

やっぱりまだまだ子供ねと言った母は、もう私の知るいつものお母さんだった。


「さ!食べ終わったなら早く寝なさい。明日は朝早いんでしょ?」


すっかり忘れていた。慌てて片付けをし、二階に駆け上る。暖かい格好という言葉が完全に抜け落ちていた私は、少しだけ可愛いワンピースを選びそのまま就寝した。

ほっこり回です。


この世界の時間は1日を12等分しており、私たちの感覚で言う2時間に一回、鐘がなると言った感じです。ですが、時計が家庭には浸透していないため、街にある時計台とその鐘、後は体内時計などの感覚を頼りに生活しています。

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