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春の花嫁  作者: 夜凪
第1章 農村のお姫様
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北部商店街

街の北部を囲っている城壁は今まで通った二つの壁よりもはるかに高く、立派だった。列に並び、街に入るための検問を待つ。街の北部はセキュリティーがかなり厳しいらしい。


なんか高そうな馬車とか、お偉いさんも多いな…

心なしか衛兵の鎧も立派な気がする、多分気のせいではない。


「これだけ厳しくチェックしてるんだったら、街は安全だね!」

「そうとも限りませんよ。いくら厳しく検問をしていたとしても、誘拐犯や犯罪者を完全に見分けられるわけではありませんからね。街に入っても離れてはいけませんよ」


はぁーいと返事をし、仲良く手を繋ぎながら検問を待つ。


長い待ち列の割に、私たちの順番はあっという間に来た。途中列抜かしていく馬車が数台あったが、どうやら貴族の馬車らしい。


貴族の馬車でもちゃんと検問しなきゃいけないなんて、衛兵達も大変だね…


衛兵には何でこんなチビがと不思議な顔をされたけど、アデルのお陰で難なく通過できた。感謝しかない。


ついに!ついについに北部商店街!


門を潜り抜けると、そこはまさに別世界だった。


中央商店街もすごかったけど、次元が違う。


中央商店街はいわゆる賑わっているおっきな街って感じだけど、ここは何でいうか、お城みたい…


北部商店街には貴族御用達のお店もあるらしく、街の綺麗さが段違いだ。この街は全体的に石畳が敷かれているが、北部商店街の石畳は他と違い、なんかキラキラしてる。街並みの統一感もすごく、建物の高さや色、形まで揃っている。屋根が青っぽいのはこの領地の色が青だかららしい。領地の色だとかはよくわからないが、本当に綺麗である。


まるで物語の世界に飛び込んだみたい…


感動しているのは私だけではなく、さっきまで疲れたとぐちぐち言っていたアリシアも一緒のようで、目をキラキラ輝かせながら、すごい…と感動している。


「初めてリーゼのここに来たいって気持ちがわかったよ、同じ領地なのに全然違うんだね」


私が夢が叶ったと涙を流していると、後ろが詰まっていますよ、さっさも行きましょうとアデルに急かされた。泣いている私を見たアリシアの気持ち悪いという声は聞こえなかったことにする。


なんかもう幸せ、死んでもいいかも。うん、流石にそれは嘘。


道幅がとても広く、歩いている人よりは馬車の方が目立つ気もするが、それでも賑わっているのがわかる。


そう考えたら中央商店街ってものすごい賑わってたんだね、人の数がすごかったもん。


「ねぇねぇこの像ってだーれ?」

「これは初代シュナイツハウガー領主ですね」

「領主…なんか英雄みたいだね」

「彼は遥か昔この地を救った英雄ともされていますからね」

「そんな昔の人なの?」

「そうですね、千年ほど前でしょうか?シュナイツハウガー領はかなり歴史ある領地ですからね」

「「千年??!!!」」


あまりの歴史の長さに私とアリシアはぶつぶつと数え始めた。


この領地がそんな前からあったなんて知らなかった。私たち以外とすごいとこに生まれたのかも…


街の至る所に銅像や領旗が飾られていて、私たちの住む農村とはまるで雰囲気が違っていた。

ソワソワしながら街中を進んでいくと、目的のお店に辿り着いた。


「こちらのお店ですよ」

「ここがお店…」


そう言って案内されたお店は私達が普段服を買っているお店とは似ても似つかない、お屋敷のようなお店だった。お店の前には兵士が立っており、私たちが入っていいようなお店とは思えない。


よくアデルはこんなところに連れてきてくれたね、本当に感謝しかないよ。ありがとう、大好き。


少し店の前で待っていると、中から身なりの良い男性がやって来た。


「いらっしゃいませ。お待ちしておりました、アデル様。ようこそロレアヌス商会へおいで下さいました。さあ、中へどうぞ」

「私のこと覚えて下さっていたのですね」

「ええ、私達は一度いらっしゃったお客様のことは忘れません」


お店に入った途端、飾られた刺繍や小物、ドレスのデッサンが視界に入り、感動が止まらない。刺繍や布地のデザインは完全に私好みで、興奮が収まらない。あぁぁぁぁ生きててよかった…


私の感動をよそに、こちらでお待ちくださいと、いかにも高そうなソファーに案内された。


こんな高そうなソファー我が家には一生縁がないと思ってたよ…うぅっ、なんか今更緊張して来た…


「ねぇ、アリシア。なんか私達お貴族様みたいじゃない???」

「うん、なんか緊張する…」


そんな私たちの緊張を感じ取ったのか、どうぞお寛ぎ下さいとお菓子を持って来てくれた。普段滅多に登場しないお菓子に私とアリシアは目を輝かせて飛びついた。


何で仕事のできる人なんだろう、あ、これ美味しい…


2人でお菓子を食べていると、奥から優しそうなおじいさんがやって来た。


「お待たせいたしました、アデル様。そちらのお嬢様方は初めてましてですな。ようこそロレアヌス商会へ。私は当主のキリアンと申します。」


当主まで登場すると思っていなかった私たちは、お菓子を詰まらせ、むせてしまった。


いやいやいや、聞いてないよ。アデルほんとに何者?!


「この子がこう言ったお店に興味がありましてね、今日は一緒に連れて参りました。」

アデルに促され、私達はガチガチのまま挨拶をする。


「は、初めまして。アリシアです。」

「リーゼです!ここで働かせて下さい!」


あっ。


しまったと思った時にはもうすでに時が遅かった。アリシアは目ん玉が落っこちそうなほど驚いていて、何言ってるの!と軽く叩かれてしまった。アデルには呆れられたような反応をされ、お店の人を含めみんなを困らせてしまった。


何言ってんの私!初めて来て、働かせて下さいとか意味がわからないよ!


「この店が気に入ってくれたのかな?」

「はい!」

それは良かったと孫を見守るかのように微笑んで、お店の中を案内してくれた。何て優しいおじいちゃんなんだろう。


このお店は300年ほど昔から続く歴史あるお店で、シュナイツハウガー領の三大服飾商会に数えられる程の名店らしい。


通りで立派なお店のはずだよ…


北部商店街では北側に行けば行くほど位の高いお店が構えられており、ロレアヌス商会は一等地と呼ばれるかなり北側に店を構えている。

アデルが言うには、この店は腕の良さと人柄の良さが売りらしい。それでいて強かな店主だからこそ、惹き込まれるとのことだ。


難しいことはよくわからないけど、とりあえず凄い人で尚且ついい人ってことはわかったよ。


「こちらは先日アデル様がご覧になっていた髪飾りです」

「か、かわいぃぃぃぃ〜!」


繊細な刺繍とフリル、そして透け感のあるレースがとっても可愛い。それに色味も私好みだ。個人的に髪飾りのリボンは大きいのが好きなんだよね。ちなみにこの間アデルがくれた靴もここのお店のものらしい。今日履いて来て正解だった。履いているのを見たキリアンさんがとても似合っていると褒めてくれた。仮にお世辞だとしてもとっても嬉しい。嬉しいものは嬉しいのだ。


はぁん、もうこのお店本当に全部大好き!


「これ欲しい!」

「ねぇ、決めるの早くない?もうちょっとゆっくり悩みなよ」

「この世には一目惚れってものがあるの!」

「何それ」


おませさんかなとキリアンさんには言われたが、そんなことは気にしない。


「ねぇ、どっちがいいと思う?」

「うーん、どっちも似合うと思うけどこっちの緑のリボンの方が、目の色ともお揃いで可愛いんじゃない?」

「そっか、じゃあこっちにする!」


こういう姉妹って感じのお買い物が私は大好きだ。お姉ちゃんは美人だからなんでも似合うだろうけど、あのリボンをつけたらもっと可愛いだろうなぁ。


私たちが楽しく買い物をしている間、アデルはいつものように服を仕立てている。


どうせならそっちも見たい。


「どんな服にするの?」

「お仕事で着られる服ですよ。ドレスではありません」

「ドレス??!!」


違うって言ってるじゃんと言うアリシアの言葉は残念ながら私の耳には届かなかった。


「あの、一生のお願いです!どうか私にドレスを見せていただけませんか!あわよくば着させて欲しいとか触らせて欲しいとか匂い嗅ぎたいとかだなんてことは一切言いません!どうか一目だけでも見せていただけませんか!!!」

「ドレスの匂いを嗅ぎたいって何、意味わかんないよ」

「リーゼ、一度落ち着いたらどうですか?」


こんなに饒舌に喋る子供がいるのかと呆気に取られている店主をよそに、いよいよ私は暴走し始めた。


「ほんとにほんとに夢なんです!夢で何度も見たんです!お願いします!」


なんでこんなに必死かは自分でもわからないけれども、とにかくドレスを見るまでは帰れないと思ってしまった。


呆れたのか、はたまた折れたのか、そこまで言うのならとキリアンは裏から新作のドレスを見せてくれることになった。


2人に大人しくしててね、見るだけだよ、と何度も釘を刺された。それくらいのことはわかっている。私はそこまで馬鹿ではない。


あぁぁぁぁ!いよいよ夢が叶ってしまう!


「こちらです」


そう言われてドレスに目をやった途端、猛烈な頭痛に襲われた。


「痛っ!」


その瞬間私の知らない記憶が頭の中に雪崩れ込むように押し寄せる。


なに、これ…知らない、私は誰?私に話しかけているこの人は誰?夢花?夢花ってだれ?だれ、それ、だれ??ほんとに?ここはどこ?病院?病院って何?知らない、知らない?痛い、寒い、怖い、死にたくない。死?これは何?紙?デザイン?ドレス…?


…違う、知ってる。これは「私」の記憶だ。


私は、日本で生まれ、病気で死んだ、源夢花だ。


私、死んじゃったんだ…


そう思ったのと同時に、元の現実世界に引き戻される。



「…ゼ、リーゼ、リーゼ!大丈夫?!!」

「リーゼ、大丈夫ですか?」

「お姉ちゃん、アデル…」


必死に2人が名前を呼んでいる気がしたが、私の意識はそのまま暗転した。

遂に北部商店街へと到着しました。が、ハプニング発生です。


リーゼの住んでいる領地はシュナイツハウガー領と言います。長くてややこしい名前ですが、覚えていただけると嬉しいです。



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