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転生令嬢の生存戦略のすゝめ  作者: 草野宝湖
第二編
67/152

67.要(もとめ②)

 レンは、ラティエースたちに聖女の現状を伝えた。

 その前に、以下のようなやり取りがあった。

「聞いてほしいことがあるんだけど」

「いえ、結構です」

「もうラティたちにしかお願いできないんだよね」

「いえ、遠慮します」

 ラティエースたちは両手で両耳を塞ぎ、拒否の意を示したが、レンは構わず話し始めた。

「実はさ、僕の上司が、子どもが大嫌いってことでね・・・・・・」

「うぐっ・・・・・・・・」

 レイナードの肌が青紫色になりかけていることに気づき、ラティエースたちは早々に降参したのだった。

 聖女と呼ばれる少女の状態は、ラティエースが考えているよりもひどい状況のようだった。

 ハンガーストライキの状態であるということ。

 誰とも話をしようとしないこと。

 このままではらちが明かず、聖法による回復も効かなくなるということ。

「で、ラティたちに助けて欲しいなって」

「いや、わたしら、ドラ〇もんじゃないから」

 ラティエースは立てた手のひらを眼前で左右に振りながら、真顔で言った。そうそう、とエレノア達も賛同の頷きをする。

「どら?何、それ」

「いや、いい。こっちの話」

「2か月以上経っているのよ?あなたたちは何をしていたの?」

 エレノアが詰問口調で言った。

「あらゆるご機嫌取りをしたんですけど。ただ、あっちにしちゃ、誘拐犯と同じでしょうから……。名前すら教えてもらえません」

(そりゃそうだ。召喚していいですか?なんて事前申請して召喚するもんでもないだろうし)

「元の世界に返してあげたら?」

 アマリアが言った。片手には水の入ったグラスを持っていた。それを、床にへたり込んだままのレイナードに差し出す。

「少なくとも、そういったことは過去の事例としてなかったと思います。そもそも聖女召喚自体そうほいほいできる聖法ではないです」

「そもそも、さ。聖女召喚して何するの」

「さーねー。それも、ロフルトに来てくれたら分かるんじゃない?」

 レイは頭の後ろで手を組み、ラティエースたちから視線を外す。

「イヤな言い方するよね、相変わらず」

 ラティエースが口を尖らせる。

「だって、ラティを籠絡するには、好奇心を突くしか思いつかない。聖女なんて本来、ラティには関係ないことでしょ?」

(ホント、イヤな奴ね)

 エレノアは自身の認識が間違っていないことを改めて自覚する。胡散臭い。言葉巧みに真意を隠し、目的のために他人を利用する。選択させているようで選択肢はないようなものだ。

 よくラティエースの性格を見抜いている。ラティエースは一見、冷たい、愛想がないなどと言われているが、一番情にあついのは意外にもラティエースなのだ。興味のないものにはとことん冷たいが、一度懐に入れたものは、その逆だ。そして、途中で放り出すことを嫌う。

「・・・・・・少し考えさせてくれ」


 ――――――3ヶ月後。

 その日、ユリの前に現れたのは、三人の女性であった。他の人と違うのは、三人とも修道女のような真っ黒な衣装に、白い頭巾をかぶった格好ではなかったということだ。3人とも、シンプルなワンピースとパンプス、それぞれ、ピアスやネックレス、結婚指輪を付けていたりする。

「初めまして。わたしは、エレノア・ダルウィンと申します。後ろにいるのは、ラティエース・ミルドゥナとアマリア・ワイズ。本日より、あなたのお世話をさせて頂きます」

 そう言ったのは、金髪に翡翠の瞳をした優しげな女性であった。スラッとした体躯で、女優と言っても驚かないくらいきれいな人だった。

「アマリアです。よろしくお願いしますね」

 3人の中で、一番小柄な女性が言った。結婚指輪を付けている。褐色の肌と黒い髪。髪はゆったりとしたカールで、肩にかかっていた。エレノアともう一人の女性よりも、ややふくよかで小さい。ただ、親しみやすさを感じる口調と笑顔だった。

「ラティエースと言います。よろしければ、ラティと呼んで下さい」

 そう言ったのは、黒髪と黒い瞳を持つ、少し冷たい雰囲気の女性だ。二人に比べ、平凡だ。少しつり目で、きつそうな顔立ちで、口調も冷たい。不美人ではないが、美人でもない。ただ、三人の中で一番、信用できそうだと思えるのは、言葉に裏がない気がするからだ。

 エレノアと名乗った女性は、ユリのいるベッドの端に腰掛けた。そうして、ユリをのぞき込むようにして言った。

「さて。あなた、日本語分かる?」

 えっ、とユリは瞬いた。今の今まで話していたのは日本語ではないのか。

「あのね、この世界の秘密その一。わたしたちが話している言葉は、他の人たちにはロフルト語で話してるって思われているの。でもね、お互いが「今から話す言葉は日本語」って認識したら、他の人には日本語に聞こえるのよ?そして、日本語を聞き取れる人はこの世界にはほとんどいないの」

(そうだったんだ・・・・・・)

 エレノアは微笑んで、ユリのTシャツを指さした。

「そのTシャツ、魔女っこ○○ちゃんのキャラクターでしょう?アリスちゃんだっけ?」

 この世界に来てから、入れ替わり立ち替わりに人がやってきては、食事を取らせようとしたり、風呂に入れようとしたりとした。しかし、ユリは断固として拒否した。聖女様、聖女様と呼ばれる度に、ユリは怖くなった。だがユリが出来ることなどたかがしれている。それでもユリは抵抗した。部屋に閉じこもり、ひがな一日中ベッドの隅で固まっていた。時々、大人たちがユリに光を浴びせたり、呪文を唱えていったが、ユリは目を瞑って耐えた。

 このTシャツは唯一のユリと元の世界の接点なのだ。手放したくはなかった。

「あの、何で・・・・・・」

「わたしも元は日本にいたのよ?」

「でも・・・・・・」

 容姿はどう見ても外国の人だ。辛うじてラティエースは日本人に見えなくもないが。

「ちょっと事情があってこういう容姿(なり)なんだけど。ねぇ、まずは名前を教えてくれない?」

「・・・・・・ハタナカユリ」

 言葉はスルリと出た。今までの大人たちとは違う。ユリのことを聖女様と呼ばないし、彼女たちは優しい大人そのもので、ユリに何かを求めたりもしない。ただ気遣ってくれている。だから、話してみても良いと思ったのだ。

「そう、ユリちゃんね。急にこんな処に連れてこられて怖かったわよね。でも、もう大丈夫よ。わたしたちがあなたを守るからね」

 ユリはどう答えて良いか分からなかった。守って欲しいわけではない。ユリは元いた世界に帰りたいのだ。

 ――――――帰れませんよ?あなたは生け贄になって死ぬのだから。

 そう言われて頭が真っ白になった。急に訳の分からないところに飛ばされ、混乱しているうちにそう言われた。

「ねえ、元いた世界に帰りたい?」

 心の内を読み取られたようで、ユリは驚いた。弾かれたように顔を上げれば、エレノアが困ったような微笑を浮かべていた。

「ごめんなさいね、わたしも元いた世界に帰る方法は知らないの」

 そう、とユリは俯いた。でもね、と頭上から声が降りかかる。

「一緒に考えることは出来るわ」

 えっ、とユリは顔を上げた。

「あなたが帰りたいというならば、わたしたちは協力する。一緒に帰れる方法を探しましょう?でも、その前にしっかり準備をしないとね?」

「準備・・・・・・?」

「そうよ。まずはお風呂に入りましょう。その後、ご飯を食べましょう。そうして寝て、またご飯を食べて。そうやって、体力を付けるのよ。何をするにしても、身体に力を蓄えないと動けないわ」

「でも、でも・・・・・・」

 この世界に来て、初めて「帰ること」を肯定してくれる大人に出会った。ユリはフッと緊張が解けたかのように声を上げた。

「もう二度と帰れないって、言われた。だから、だから・・・・・・」

 言って、ユリは顔をくしゃくしゃにして涙を流す。やがて、うわーん、と声を上げて泣き始めた。

「そんな意地悪なことを言ったのは誰かしら?わたしがやっつけにいってあげるわ」

 そう言って、エレノアはユリを抱きしめた。泣き続けるユリに、好きなだけくよう、背中をポンポンと優しく叩き、頭を撫でる。

 ユリが泣き止んだのは、二時間後であった。その間、エレノア以外の二人も辛抱強く待機していた。

「じゃあ、まずはお風呂ね。ああ、その前に水分を取った方がいいわね」

「うっ、うん・・・・・・」

「エリー。わたしが連れて行くよ」言って、「ほら、ユリ。行こう?」

 ドア付近に立っていたアマリアがユリに向って手を差し出す。チラリとエレノアを見れば、「行ってらっしゃい」と無言の微笑を浮かべた。

「此処のお風呂、凄いんだよ!噴水見たいのがあって、滝もあったよ!」

 アマリアが無邪気な笑顔で言うので、ユリもつられて笑顔になる。その二人を少し離れた場所で、エレノア、ラティエースが見やる。

「さすがだ、みんなのママ」

 胸元で腕を組んで、壁にもたれ掛っていたラティエースが言った。

「誰が、ママよ」ラティエースの胸骨辺りに、拳をトンと当て、「まずはお風呂よ。虐待されていないか、確認して」と耳打ちする。

「りょ!」

 了解の意味で、ラティエースはおなざりの敬礼ポーズで応じた。

「あと、ユリちゃんに帰れないっていった人物の特定ね」

「それ、難しいだろうな」エレノアが重ねて問う前にラティエースは続ける。「ロフルトの人たちにとっては、聖女が元の世界に帰るなんてとんでもないってスタンスだろ。聖女が帰れるわけがないっていうのが常識だから、言った言葉なんじゃないのかな」

「皆、帰れないって知ってるのね」

 うん、とラティエースは頷いて、「人物特定は後回し。まずは、帰れないと思ってる根拠を調べる」

「それは同時に還る手段を探すということになるわね」

「ああ。前回の禁書写本も一部だけだったし、聖女のことだけじゃなかったから。聖女のことを中心に調べてみるよ」

「わかったわ。ラティはそっちを優先して。ユリちゃんはわたしとアマリアでケアするわ」

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