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転生令嬢の生存戦略のすゝめ  作者: 草野宝湖
第一編
55/152

55.が、何とか回避して、今も生きています。

 旅立ちの日。雲一つない晴天である。

 エレノアを見送るポモーナの腕には赤ん坊がいた。ダルウィン公爵家待望の男子、ウィル・ダルウィン公爵令息である。両親にもエレノアにも似た元気な赤ん坊であった。

 玄関前には、家族だけでなく、執事やメイドたちが勢揃いしていた。サリーだけは最後までついて行くと主張していたが、弟を任せられるのはサリーしかいない、というエレノアの説得にようやく頷いたのだった。それが今日の明け方のことである。それでも、名残惜しさを隠しもせず、ハンカチを片手に涙している。

 エレノアの足下には、旅行鞄一つのみであった。残りは皆、邸宅に置いていく。

 エレノアは、おくるみに包まれた弟の頬を軽く突く。ウィルは、気持ちよさそうに寝息を立てている。ふんわりとミルクの香りがした。

「もう少しゆっくりしていったら?」

 ポモーナは、朝食から何度目になるか分からない言葉を掛けた。

「ラティたちも、もう帝都を出てるだろうから」

 そう、とポモーナが残念そうに言う。

「手紙は書いてくれるんだろう?」

 キンバートが、しょげる妻の肩を抱き、娘に言った。

「ええ、もちろんですわ」

「元気でな。いつでも帰っておいで。皆、君たちを待っているから」

 そう言って、娘を抱きしめる。

「はい。お父様、お母様。それに、ウィル。どうか元気で。また、会いましょう」


 その頃、ラティエースはメブロ近くの海岸、小さな波止場に来ていた。地元民が使う簡素な船着き場で、此処を巻き込んで、メブロを拡張するつもりであったが、さすがにまだ着工はできていない。

 エレノア、アマリアとはメブロで待ち合わせをしている。

 帝都のギルドから護衛も手配済だ。まずはラドナ王国を目指し、そこで生活を落ち着けてから、旅に出ようと思っているのだ。そのときは、ひょっとすると3人ではないかもしれない。

 アマリアは、クレイと結婚式を挙げ、晴れて夫婦となった。二人はそのまま、ラドナ王国で生活をする予定だ。今回の旅にも、もちろんクレイも同行する。

 等間隔に設置された係船柱の一つに片足を置き、黄昏れているラティエースに、カスバートが気まずそうに声を掛けた。

「あのー・・・・・・。ラティエースさん?」

「船長と呼べ」

「船で旅しないじゃん」

「・・・・・・。で、何?」

「マジでオレを連れて行くの?」

「イヤ?」

「イヤじゃないけど、オレ、一応、罪人じゃん」

「そうだね。ウィズなんて、いまだに君の命を狙っているからね」

「そう、そうなんだよね・・・・・・」

「でもさ。君も、龍や魔法。ファンタジーの世界が現実にあるっていうことで、色々、見て回りたかったんでしょう?わたしたち、そのつもりで旅するから、ついてきたらいいんじゃない?と言っても、すぐには無理だろうけどね。でも、わたしと一緒に居た方がいいと思うよ?少なくとも、ウィズはわたしの前では君の命は狙わない」

「そりゃ、そうだけど・・・・・・」

 ラティエースは係船柱から足を離し、振り返る。

「とりあえず、ラドナまでは一緒に行こう。関所はわたしたちと一緒に行けば、スルーできるし。で、ラドナからは好きにすれば良い。独りで旅をしたいならそうすればいいし、何なら資金も出すよ。その場合、仕事を依頼することになると思うけど」

「仕事?」

「うん。他に転生者がいないか探して欲しい」

「あっ・・・・・・」

「もし、わたしたちのようにある程度、受け入れているなら良いけど。そうじゃないなら、保護してやりたい。帰りたいなら、その方策を一緒に見つけても良いと思っている」

「やるよ。ってか、やりたい」

 カスバートは勢いよく言った。

「決まりだね」

 言って、ラティエースはカスバートの――――――大分距離があるものの、背後から近づいてくる一台の馬車に気づく。カスバートも気づいて、振り返った。

「メブロで待ち合わせじゃなかったっけ」

「そうね。でも、メブロに行ったら、ガリウスとか面倒だし、このままいっちゃおうか」

「そうっすね。盛大な見送り式典、準備してそうですし」

 カスバートの言葉は当たっていた。ガリウスは特注の横断幕を用意し、ラティエースの銅像が間に合わなかった分、街全体で盛大に見送るつもりでいた。

 ラティエースはおぼろげな形の馬車に向って、大きく手を振った。馬車の荷台から身を乗り出した二人の人影が手を振りっている。

「さっ、行こうか」

 言って、ラティエースは足を踏み出した。


 転生したらなんかいろいろな陰謀に巻き込まれました。

 が、何とか回避して、今も生きています。

    

 

 第一編 了


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