25.ラドナ王国①
ラドナ王国。ミルドゥナ大公領の最南端の国境と接し、その他、聖ケイドン魔法国、ブリッテェン共和国、南方諸国連合、そして、世界最大の宗教国家ロフルト教皇国とも国境をあわせる小国である。
ラティエース曰く、地政学的に気の毒な国である。ラドナを挟んで、聖なる女神の奇跡を司るロフルト教皇国と魔を司る聖ケイドン魔法国は犬猿の仲であるし、帝国と共和国の仲もよろしくはない。自身の勢力下に置きたいという国が綱引きのようにラドナを挟んでいる状態だ。
そんな綱引きをする国々をうまくあしらい、手玉に取っているのが、ラドナ王国第一王子、レイナード・ラドナ・アルケインである。御年19歳。病弱な先代ラドナ女王の代わりに摂政となり、補佐官二人と共に国の舵取りを任されている。
「お兄様!ラティお姉様が、アブラの街を通過したそうです!」
先触れもなく、兄の執務室に飛び込んできたのは、ラドナ王国王女、ミルカ・ラドナ・アルケインである。雪のように白い肌と、絹糸のような銀色の髪。深紅の瞳は大きく、みずみずしい唇に、やや低めの鼻。まだ少女の時分を抜け切れていないが、あと数年もすれば、母と同じようにその美貌をたたえられることとなるだろう。
「聞いたよ、さっき」
ミルカの方が知っていたら問題である。仮にも自分は摂政なのだから。妹とよく似た容貌の青年、レイナードが言った。今でこそ、細身ながら鍛え抜かれた体躯と上背もあるが、幼少期は美少年と言うより美少女と形容されるほどであった。
執務机には書類が山積みにされ、今にも倒れそうな状態だ。補佐官の二人は中央のレイナードの机の両脇に執務机を並べている。同じく書類が山積している。
「おにいたま、おねえたま・・・・・・」
と、開けっぱなしの扉からたどたどしい足取りでやってきたのは、第二王子のレイヴァンである。御年1歳6ヶ月。直後、汗まみれの乳母が慌てて駆け寄ってくる。
「もっ、申し訳ありません。ミルカ様をお見かけになって・・・・・・」
「高速ハイハイで逃げられたんだな?」
素早い動きで乳母たちも何度も撒かれている。特にカーブを曲がる際の手さばきは見とれるほどである。最近ではつかまり立ち、よちよち歩きも出来るようになり、それぞれを使い分けて皆を翻弄している。
「申し訳ございません・・・・・・」
「いいよ。俺が部屋に戻すから、それまで部屋に下がっていてくれ」
はい、と乳母は一礼して下がる。
「あらら。レイヴァンも来ちゃったのね」
「あうーっ!」
レイヴァンは言葉の習得が早く、すでに「おにいたま」、「おねえたま」と兄と姉を呼ばわる。
「レイヴァンは、ラティエースお姉様と会うのは初めてよね?とーっても素敵な方よ?」
言って、ミルカはレイヴァンを抱き上げる。兄たちのいる執務机周辺は危険だ。何かの拍子にぶつかってその衝動で書類の山が落下したら頸の骨を折るかもしれない。
レイヴァンが生まれて1年半。弟が誕生したときに、祝いの品と手紙は受け取ったが、対面させたことはなかった。手紙のやりとりは頻繁だが、直接会うのは1年ぶりということか。
ラティエースと初めて出会ったのは、レイナードが10歳の頃だから、ラティエースは8歳だっただろうか。彼女との交流は、レイナードの母、ラドナ女王とその友人たちの思いつきから始まったのだった。
ラドナ女王はその政治的手腕で名をはせていた。彼女には息子がいた。
レイナード・ラドナ・アルケインである。
ミルドゥナ大公は、その戦略的叡智から、軍人としても領主としても賞賛されていた。彼には孫がいた。
ラティエース・ミルドゥナ侯爵令嬢である。
ロフルト教皇国司祭、トリト・カーウィンは、ラドナ女王、ミルドゥナ大公と旧知の仲であった。迫害される信徒の救出に助力を願ったことから始まった関係であった。政治的立場から彼らは信徒ではなかったが、トリトとは良き友人であった。またトリトは歴史学において有名な学者でもあった。
彼には、レン・ユーカスという弟子がいた。
トリトとチェス仲間であったベン・クーファは当時、養子を迎え入れた直後であった。ベンはロザ帝国衆民院の議員であり、その演説による扇動で右に出る者はいないと言われていた。
彼の養子は娼館から迎え入れられた娘、ウィズ・クーファであった。
ラドナ王国に隣接する南方諸国連合。その海軍元帥、フェブタン・パーチェはラドナ王国海軍の訓練講師として、やってきた。その縁でラドナ女王とも親交を続けた。
彼には甥がいた。タニヤ・パーチェである。
サシャ・ミースは、戦時中、ミルドゥナ大公と何度も剣を交えたことがあり、今では親友の間柄だという。共和国軍諜報部主任。
彼女は、カノトという弟子がいた。
ある日、ラドナの女王が言った。
自身の経験だけでなく、友人たちの自分にはない知恵を、我が子だけでなく友人の愛し子に授けたい、と。その考えは、ラドナ女王の友人たちも同じであった。かくして、レイナード、ラティエース、レン、ウィズ、タニヤ、カノトは、ラドナ女王、ミルドゥナ大公、司祭トリト、ベン・クーファ、フェブタン・パーチェ、サシャ・ミースから直々に英才教育を受けることになったのだ。
毎年、夏になると子どもたちは、合宿と称してあらゆる教育を受けた。座学はもちろん、サバイバル訓練まで幅広く教え込まれた。そんな中、一番出来が悪かったのが、ラティエースであった。座学も秀でているとはいえないし、戦闘訓練では一番多く切り傷や打ち身を作っていた。体力もなく、補習と言うことで他よりも多く走らされることなどしょっちゅうであった。ただ、子どもたちはラティエースを馬鹿にすることはなかった。彼女は決して弱音を吐かず、いくら時間がかかろうとも最後までやりきっていたからだ。
ラティエースは思いも寄らない作戦や見解を述べることもあり、日増しに一目置かれることが多くなっていった。それは子どもたちの価値観をぶっ壊し、また新たな価値観を作り上げた。
この頃の思い出にふけると、いくら時間があっても足りない。喧嘩もしたし、お互いの身の上を話して励まし合ったり、慰め合ったりもした。
(サバイバル訓練で無人島に放り込まれたこともあったな・・・・・・。凶悪な囚人を放ってあるとか言って、追い回されたり、○されそうになったり・・・・・・)
そのとき、渡されたのはナイフ一本。五人で一本であった。すべてを割愛して結果だけ言うと、全員無事生還した。
(俺が全10巻の回顧録を書くとしたら、この合宿に3~4巻はあてる・・・・・・)
「お兄様?」
ミルカの声に、ハッと我に返る。怪訝そうに兄の顔をのぞき込んでいた。
「聞いてました?」
「何だって?」
「だから、今年こそラティエースお姉様にプロポーズしてくださいまし」
「何でっ!?」
思わず声が裏返る。
「何でって、お慕いしているのでしょう?」
「そうなんですか?」と補佐官の一人、エント・タライフ。
「知らなかったなー」
同じく補佐官のキース・ブロンが両手を挙げて驚きのポーズを作る。
「お前ら、白々しいぞ!それとその棒読み止めろ!!」
「お兄様のように小賢しい方は、ラティエース様のような、いつだって裏表のない方がいいのです」
握りしめた拳を眼前に掲げ、ミルカは力説する。
「小賢しい・・・・・・」
妹の自身の評価にショックを受けるレイナード。そんな王子を尻目に、補佐官二人がボソボソと話し合う。
「ラティエース嬢には、裏しかないんじゃないか?いや、それって表がないから、裏表がないってことであってるのか?」
「いや、でも。腹黒二人ってことだろ?手を組んでいるうちはいいが、対立したらどうなる?目も当てられないぞ」
「そこっ!!」
レイナードは、背を丸め、ひそひそ話す二人にビシッと指さす。放っておくと何を言われるか分かったものではない。
「せっかくこの国に亡命して下さるのでしょう?婚姻関係にあった方がお姉様にとってもいいはずです」
レイナードは絶句し、まじまじとミルカを見やる。背を向けていた補佐官二人も、信じられない思いでミルカを見やる。ラティエースたちの亡命は、極秘中の極秘であったはずだ。知りうる者は、レイナードと補佐官二人で、この部屋以外でその話をするのは厳禁としていた。関係書類は厳重に金庫に保管していた。
「何でお前がそんなこと知ってるんだぁぁ!!」
レイナードの絶叫がこだました。
――――――ラドナ王宮玄関ホール
「ようこそおいでくださいました。ラティエース・ミルドゥナ侯爵令嬢」
正装姿のレイナードが、ラティエースを出迎える。心なしか疲れているように見えるのは気のせいだろうか。特にレイナードと補佐官二人。対して、満面の微笑でレイナードの横に立つミルカ。それは、遊んで欲しくてうずうずしている子犬のようであった。
「ありがとうございます、レイナード王子殿下」
そうは思ってもいきなり「大丈夫?」などと聞けるはずもない。お互いの背後には従者たちが並んでいるのだから。
「療養中の母に代わり、滞在中はこのレイナードがお世話申し上げます。長旅でお疲れでしょう。まずはお休みになり、旅の疲れを癒やして下さい。夕刻には晩餐会を準備しております」
「歓迎痛み入ります。女王陛下には、ロザ帝国で評判の薬草や調剤を記した帳面などをお持ちいたしました。他にも些少ながら滞在中の御礼になればといくつかお持ちしております。後ほど目録を担当の方にお渡ししますので、お確かめ下さい」
「お気遣い感謝いたします。さあ、どうぞ」
当たり障りない会話をしながら、玄関ホールから続くらせん階段を上り、部屋に案内してもらう。心なしか丸まった背を見ながら、ラティエースは首を傾げる。本当に何があったのだろう。
「何かあれば、メイドたちにお申し付け下さい」
ドアの前に立ったレイナードが言った。
「ありがとうございます」
そう言って、部屋に入っていく。日当たりの良い客室であった。そして見覚えのある部屋でもあった。
ラドナ滞在中は、この部屋に案内されることが多い。懐かしささえ覚える部屋だ。若草色の壁紙と白の柱のコントラストが部屋に清涼感をもたらす。家具類は白で統一されている。部屋は、湯汲用の部屋と、ベッドルーム、そしてラティエースがいる応接間が一続きになっている。広すぎず、そして狭すぎない間取りであった。
「ラティエース侯爵令嬢、温かいお茶をお入れいたしますね」
カーテンを開け、窓を開けていくメイドの一人が声を掛けた。声を掛けたメイドは、年の頃二〇代後半といったところで、黒のお仕着せに白のエプロン。肩や縁の部分にはレースがあしらわれている。ヘッドドレスもレース付きのものだった。赤髪と鼻先のソバカスがチャーミングな女性であった。
「ありがとうございます。それと、侯爵令嬢は略してくれて構いません。そのうち、舌を噛む」
「まあ、ではラティエース様と呼ばせていただきますね」
「確か、リリでしたね?前回の滞在の時も世話になったと記憶しています」
「覚えていて下さったのですね。はい、リリでございます」
「滞在中面倒を掛けます。お茶を頂いたら、少し一人になりたいのですが?」
「かしこまりました。晩餐会の支度の時間になりましたら、お伺いいたします」
「よろしくお願いします」
ラティエースは若草色の布地が張られたソファーに腰掛ける。
先ほどのレイナードの疲れ具合は気になった。
(やはり、女王の代わりは重圧なんだろうな・・・・・・)
レイナードがいれば、「違う!」と首を左右に振っているだろうが、残念ながらラティエースしかいない。彼女の勘違いはそのまま更新されることとなった。
(労おう・・・・・・)
晩餐会をつつがなく終え、ラティエースは部屋へ戻った。
「ご苦労様です。もう結構ですので、下がってください」
メイドたちに言えば、彼女たちは一礼して、部屋を出て行った。閉まりきるドアを見届けて、ラティエースは息を吐く。夜着に着替えていたが、それを脱いで、白の綿シャツと細身のパンツ、ブーツに履き替える。書類の束を風呂敷包みにして、背中にくくりつける。それが終わると、部屋の明かりを消してテラスに出て、カーテンを縄代わりに隣の部屋に渡した。やがて、隣のテラスから人影が姿を現す。
補佐官の一人、エント・タイラフであった。エントはロープ代わりのカーテンをテラスの柵に結びつける。OKと指で合図し、ラティエースがそれを伝って隣の部屋に移動する。それを繰り返し、ラティエースは、レイナードの執務室のテラスへ到着した。
「久しぶり」
「おう」
わざわざテラスで待っていてくれたレイナードに礼を言う前に、彼は背中を向け、さっさと室内に入ってしまう。
「疲れてるんでしょ?悪いね、そんな時期にお邪魔して」
「いや。疲れてることは否定しないが、お前のせいじゃないし、これはなんて言うか・・・・・・」
補佐官のエントは、茶器類や、軽食を乗せたワゴンを移動させると、「失礼いたします」と辞去の礼を取る。頭を上げた瞬間、グッと親指を立てて、レイナードに笑顔を向けてからドアを閉めた。レイナードは思わず膝から崩れ落ちる。何が「グッ」だ。
「わたしで良かったら聞くけど。あっ、でも、適格なアドバイスは期待しないでほしい」
ドアに背を向けていたラティエースは風呂敷包みをほどきながら、執務机の横にある長椅子に座る。これは、元々、レイナードの仮眠用のものである。
(議題の張本人に言うのはちょっとなぁ・・・・・・)
レイナードはそう思いつつ、ラティエースに「ありがとな」と簡単に返しておいた。
「さっそくだけど。まずは、これ。約束の書類一式」
「D-roseの開業申請書だな。帝国じゃ大騒ぎらしいじゃないか」
「まあね。でも、ダルウィン公爵がさっさと手続きしてくれたから、廃業申請は受理されたよ。皇帝は頭を抱えていたみたいだけど」
「そりゃそうだ」
「D-roseの本店移転と、その傘下、Sabrinaも此処を拠点にする。代わりに、3年間は税金免除してよね」
「お安いご用だ。それだけで、世界的有名ブランドの本店を抱えられるなら」
レイナードは愛おしそうに書類を抱きしめる。D-roseがラドナ王国にもたらす恩恵を想像するだけで口角が上がるというもの。
「ミルカ王女には、Sabrinaの服を着てもらって、視察とかに出てもらうけど。それも構わない?もちろん、TPOにあった服をデザインさせてもらうわ」
「ミルカは元々Sabrinaのファンで、Sabrinaの服を普段着で着用している。まだ教えるわけにはいかないけど、きっと大喜びする」
「そう、よかった・・・・・・」
言って、ラティエースは落とすようにフッと微笑む。その横顔に一房の黒髪が落ちて、レイナードの心臓が一瞬、高鳴った。ラティエースは決して美人とはいえない。けれど、時々、その所作や表情にドキリとさせられてしまう。
「なあ、本当にウチに亡命するのか?」
「やっぱ迷惑?」
ラドナ王国からの書類を確認しながら、ラティエースは言った。
「いや、そうじゃなくて。お前たちなら国外に出なくてもやっていけそうだし、国外に出るつもりでも、ウチみたいな弱小国じゃなくてもよかったんじゃないかなって」
言ってて悲しくなる。が、まごうごとなきラドナ王国は弱小だ。
「強国はいざというとき、問答無用でひねり潰されるからね。その点、ラドナは適度に弱小で、反抗のしようもある。何より諸外国に囲まれているから、どの国に逃げるか、その時の情勢によって選択できる」
「あっそ・・・・・・」
やはり、弱小であるからこそ選ばれたらしい。
「それに、エレノア公爵令嬢は別として、お前には婚約者がいるだろ。どうすんだ?」
「アレとは結婚することはない。アレの婚約者は別にわたしじゃなくてもいいし、相手にとっては、大公の権力で無理矢理結ばされた婚約だ」
「何でそう言い切れるんだ?」
「そうなるように決まってる」
重ねて問い返そうとしたレイナードよりも先に、ラティエースが口を開いた。
「わたしたちは、貴族のいざこざにコリゴリなんだ。平民の方がいざというとき身軽に動ける。元々、貴族令嬢なんて柄でもないしね」
「確かに、ラティは変わってる。いい意味で」
「はいはい。あと、魔導転移装置の方も問題ないようだね」
ラドナ王国は、聖ケイドン魔法国と国境を接しており、魔素の観測も認められる。それに目を付けたラティエースは自費を投入し、魔導転移装置をラドナに設置。装置を起動させる魔導師を人材派遣ギルド経由で雇用した。鉱石の屑を聖ケイドン魔法国に転移させ、加工を依頼。加工できたものを、また転移装置でラドナに戻し、ラドナ産の鉱石として、ロザ帝国に輸入するという事業をはじめていた。ただし、用心のために関係者以外には、ラドナからタカオ渓谷を通り、さらにダロー山脈を越えて運んでいるとブラフを流している。ラティエースは、そのブラフをもっともらしくするために、輸送費と警備費を架空計上し、その金を秘密口座に流している。転移装置の設置費は、この口座の金と新しく売り出す宝石によって、十分賄える見込みだ。
「お前の依頼通り、生き物を転移できるか実験させたが、今のところ失敗だ。魔法国の人間に言わせれば、魔素の濃度が足りない、と」
そうか、とラティエースは別段落胆することなく言った。
このままゲーム通りに行けば、断罪・処刑は免れられない。もちろん、断罪・処刑を素直に受け入れる気はないから、最後まで抵抗するつもりだ。しかし、バーネットに有利に運ぶゲームの世界だ。だからこそ、万が一のために亡命という手はずを整えている。ここまでは、エレノアもアマリアも承知のことだ。ただ、ラティエースだけは、それすら失敗した時のことを考えていた。転移装置で聖ケイドン魔法国まで逃れられれば、ロザ帝国の追手もすぐには追いつけまい。距離と時間を稼ぎ、姿をくらませば、ロザ帝国もあきらめるに違いない。そう思って、小動物を使っての実験を密かに行っていたのだが。
(言い換えれば、魔素の濃度を満たせば、転移できる……?)
問題は、不足分の魔素をどうやって調達するかだ。ガスボンベなんてものはこの世界にはないし、たとえ作れたとしても、魔素がほかの気体のように扱えるかどうかも微妙だ。転移装置の中に、気体を充満させて転移がうまくいくか。
(リスクも高いし、時間もないなぁ……)
やはり、断罪・処刑が決定し、事態を変えられない場合は帝都を出奔。ダルウィン公爵軍とミルドゥナ大公軍に帝国軍を足止めしてもらい、ラドナ王国に何とかたどり着いて、そこから他国に逃げる。転移装置は、財産を移動させる手段として使うくらいで考えていた方がいいだろう。
「ああ、そうだ。明日、ミルカが茶会をしたいと言っている。悪いが、相手をしてやってくれないか?」
「もちろん。レイナードも来るんでしょ?」
書類から顔を上げて、ラティエースが言った。
「ああ。絶対来ないと、ラティに知ってること全部ばらすって脅された」
「ほう。それは興味ある。ぜひ、欠席していただきたい」
今朝、ミルカは最高機密をあっさり口にしたくらいだ。どうやって入手したか、レイナードと補佐官2人が総力を挙げて調べ上げたが不明のままであった。
(わが妹ながら恐ろしい……)
「悪いがそれはできない。俺のためにも、国のためにも」
やけに重々しく言うレイナードに、ラティエースは首をかしげるのだった。




