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転生令嬢の生存戦略のすゝめ  作者: 草野宝湖
閑話集
139/152

8.文化発表会⑧

 ――――文化発表会当日。

 ロザ学園中等部の校門前は、立派に飾り付けられていた。大きなアーチが設置され、色とりどりのモニュメントが添えられている。

 早朝。その門の前にラティエースたちは勢ぞろいしていた。

「誰も来やしねぇ!!」

 ラティエースは悔し紛れに、首に巻いたタオルを地面に叩きつけた。

「あんた、本当に友達いるの?」

「そのまま、あんたに、その言葉をプレゼントフォー・ユーだっ!!」

 エレノアの鼻先に指を突き付けて、ラティエースは言い返す。一瞬だけエレノアの額に青筋が浮かんだ。図星だ。エレノアは知人や信奉者はそれなりにいるが、友人は少ない。

 アマリアは元々下町で暮らしていたため、その関係が今も続き、時々、町の友人たちと遊んでいる。

 ラティエースも学園の外に交友関係があるようで、時折、会話の中にそういう友人がいることをほのめかしている。

(わたし・・・・・・。友達、いない)

 ショックであった。

「どうすんの?」

 気を取り直して、ラティエースに問う。

「一人。一人だけでもとっつかまえてくる!」

 荒々しい口調でラティエースが言った。鼻息が荒く、息巻いている。

「どうやって?」

「家まで迎えに行く!!先に行ってて」

 そう言って、ラティエースは貴族街の方へ駆け出して行った。止める間もなく、あっという間にラティエースの後ろ姿が見えなくなる。

「・・・・・・馬車で行けばいいのにね」

 アマリアがポツリと呟いた。


 ラティエースは全速力で目当ての家を目指した。

 貴族街の入り口付近に位置するこじんまりとした邸宅がある。車止めもなく、本当に貴族街の邸宅として、必要最低限の体裁を保っているだけの建物だ。

 ラティエースは玄関前のステップを上り、ドアノッカーを掴み、それでドアを乱暴に叩いた。

「ウィズちゃーん!迎えに来たよー!!」

 近所迷惑である。そして、確信犯でもある。

 反応がない。このまま居留守を使うつもりか。ここには通いの手伝いだけで、ラティエースの家のように執事が対応するわけではない。そして、この時間、家にいるのは家主とその子どもだけだ。

 そうはさせるか、とラティエースはさらにドアを叩いた。

「おらっ!!出てこい、ウィズ!!あんただけでも巻き込むからね!!」

 ようやく物音が中から響く。鍵を開ける音がして、ドアが開く。

「なんだー?新しい選挙妨害かー?」

 のそりと出てきたのは家主のベン・クーファであった。目つきは悪く、ひげもそらず、くたびれたカッターシャツとズボンを履いている格好だ。

(酒くさっ!!)

「ウィズは?」

「おお。ウィズならどこぞのバカ娘から届いた怪文書を見た瞬間に、フィールドワークとか言って逃げ出したぞ」

「そんなはずはない!手紙を出した日からここには監視をつけていたんだぞ!」

 目の前の娘がとんでもないことを言っている。いや、ベンは政治家だ。敵対する貴族や政治家の監視員がついているのは別に慣れているからいいのだが。

「ケケケッ。早速合宿の成果が出たじゃねーか」

 煙草に火をつけながら、ベンが暢気に言う。

「文化発表会だろ?新聞広告にも大々的に打ってたな」

「そうだよ!皇子がほかの生徒の妨害をするのを妨害する手伝いをさせようとしたのにっ!!」

 ラティエースは地団駄を踏む。

「よく分からねーが、とにかく面倒だから逃げたんだな、ウィズは」

「こんなことなら手紙を出さずに監禁すればよかった」

「治安維持警吏総長に連絡しなくちゃいけなくなるからやめてね」

 さてと、ベンは伸びをしながら、ラティエースに背を向ける。ラティエースもウィズがいないならここに用はない。さっさと学園に戻ろうと大通りに向けて足を進めた。

「そうそう、ラティ。今日の文化発表会、俺が行くから」

「はい?」

 ラティエースは目を真ん丸にして振り返る。

「ケケケッ。気が向いたら助けてやんよ」

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